第10話 可愛い弟子たちには旅をさせろ! シオンとアンはカリュクスへ!
「はい。こちらがアンさんのギルドカードになります。
紛失されますと再発行されるまでギルド会員としての特典は利用できません。
また再発行には手数料として銀貨1枚かかりますので、
ご注意ください。
ルールブックに関しては……シオンさんがいるから大丈夫と思いますが、
時間があるときに読んでおいてくださいね」
「……わかった」
冒険者ギルドの受付担当の女性からカードとルールブックを受け取った
アンドロメダことアンはカードを貴重品を入れている袋にしまって、
ルールブックをアイテム袋に入れていた。
俺とアンは今は一旦、アンの冒険者ギルドへの登録を含めて所用を
消化するため、アテナ神域に戻っており、リリィたちとは別行動で4日後に
合流することになっている。
ケフェウスとアゲノル、二人が引き連れてきた兵たちの死体の処理を終え、
俺はダークナイトたちを送還し、ケルベロスには好物の蜂蜜サンドと
ハーデス夫妻へのお土産を持たせて送還した。ケルベロスの尻尾が喜びで
大きく振られていたのは想像に難くない。トリカブトが生える唾液を
垂らされるのは勘弁してほしいが。
そうして、ようやく出発できるかと思っていたら、
アンの冒険者ギルドへの登録の問題があった。
冒険者ギルドはこの世界では全国に点在していて、一般人から国王に至るまで
幅広い依頼者からの依頼を斡旋している冒険者による冒険者と依頼人のための
組合組織だ。
アンが渡されたギルドに入る際に新入ギルド会員にギルドカードと共に
必ず渡される冒険者ギルドのルールブックによると、
冒険者ギルドは強力な冒険者を単なる無法者にしないため、
初代冒険者ギルド長とその仲間たち、良識のある冒険者たちが各大神殿の神子を
通して神々に相談して立ち上げた組織らしい。
立ち上げ当時、冒険者ギルドは大神殿の下部組織になっていたそうだが、
亡国の神殿の神官が冒険者たちを奴隷の如く扱って悪事を働き、
罪を全て冒険者たちに押し付けていたという事件があったため、
各国のギルド長たちが神々に具申して、全国の冒険者ギルドは神殿から
独立して、神殿の監視役兼冒険者の依頼斡旋組織として、再スタートした経緯を
もつ。
その一方で、神殿側も冒険者ギルドを監視するという、
相互監視の体制が採られて、有事の際にはお互いに協力するようになっている。
最も、その関係も神域毎に少し異なっており、
アテネ神域、アルテミス神域では関係は良好でほぼ対等でお互い協力的。
一方、アポロン神域とポセイドン神域ではやや神殿側が強硬で優勢で
ギルド側が神殿側に劣等感を抱いているようだ。
それとは対照的にアレス神域では冒険者ギルド側が圧倒的に優位で、
相互監視は完全に機能しておらず、冒険者ギルドが神殿を従えている形に近い。
閑話休題、アンが俺たちと行動を共にするには冒険者ギルドに登録して、
ギルドカードを入手しなければならなかった。
俺たちがこれから進むポセイドン神域で通行する場所の大半では
ギルドカードの提示を求められる場所が多いのだ。
ギルドカードを持たない一般人は神域の境にある関所を基本的に
通過できないのは言うに及ばず、同じ神域内でも国によっては立ち入りが
制限されたり、入国できない国もあるのだ。
一方、冒険者であれば条件付で一般人が立ち入れない場所にも進むことが
できる。その一例が洞窟や遺跡などのダンジョンである。
ダンジョンに入るための条件は基本的にギルドカード記載のランクに
達していることであり、基準ランクに到達していないダンジョンに入るためには
基準ランクを3つ上回る冒険者1名以上、もしくは基準ランクの冒険者4名以上
の同行が必須とされている。
この規則を破った場合は怪我をしても自己責任であり、
冒険者ギルドからの保障の一部が使えなくなる。
また、魔物を他の冒険者に擦り付けた場合は緊急事態や特段の事情がない限りはギルドの登録を抹消されて、ギルドカードを強制返却される上に、
規定されている賠償金を被害者に支払わなければならなくなる。
今、俺が最も頭を悩ませているのはアンの冒険者登録をアテナ・ポセイドン
どちらの神域の冒険者ギルドでするかということで、
ZFO開始時のキャラクターメイクのときに多くのZFOプレイヤーが
さんざん懊悩した所属神域決めである。
これは前述した神域毎のギルドと神殿の関係の違いも原因の1つであるが、
大部分を占めているのは登録をしたときに得られる神々の加護にある。
神の加護の付与は1度限りで所属変更によって上書きされず、
所属が変わると消失してしまうというものだ。
その効果は付与した神の神域内限定であるが、神によって異なり、
アテナは即死攻撃の回数限定無効、ポセイドンは海上での大幅な地形補正が
かかるといったいづれも強力なものだ。
アンにどちらがいいか尋ねたのだが、
「よく分からないので旦那様にお任せします」
と返されてしまった。
「マスター。ここはご面倒でしょうが、一旦、ペガサスでアテナ神域に
お戻りになって、カリュクスでアンのギルド登録をされてください。
アンは王妃の所為とはいえ、この神域の神であるポセイドンの怒りをかった
エティオピアの民であったがためにその加護を得られない恐れがあります。」
「確かにそうだが、ペガサスでは皆を運ぶことはできないぞ。
俺とアンが登録に戻っている間に他の皆は別行動をとるのか?」
「はい。よろしければそうさせていただきたいと思っています。
合流地点をこの先の都市【ハルマッタン】にするのはどうでしょうか?
シオン様とアンのお2人が登録に行かれている間、私たちは修練をしつつ、
道中で素材集めをして【ハルマッタン】を目指して進むことにします」
ソフィとリリィの提案を聞いて他のメンバーの意見を聞いたが、
みんな同じ考えだった。
「おう、兄貴がいない間にもっと強くなってやる!」
「……」
ヘンリーは妙に張り切って、クリュサオルことクオルは前回の戦闘で
ろくに戦えなかった反省が尾を引いているのか無言だったが、
その瞳はヘンリーと同じ思いで静かに燃えていた。
「あたしは今まで錬金術に専念して後方支援を強化していた分、
今度は弓の腕も上げていかないと今後はみんなの足手まといになるから、
しばらくは弓術の修練にも時間を割くようにするわ」
「私も精霊魔術の強化の必要性を怪獣との戦闘で感じました」
サラとローラは先の怪獣ケートスとの戦闘で自分たちの課題を見つけて、
それを少しでもはやく克服しようとしているようだった。
「分かった。皆にはすまないが、しばらく別行動を取らせてもらう。
ついでに俺たちの万屋 蛇遣い座の様子も見てくるし、
方々(ほうぼう)にアンの紹介を済ませておく。
ペガサスでここからカリュクスに行くとしたら、
片道でおよそ1日かかるから……出発は明日の朝でそ、れから5日後に
【ハルマッタン】の冒険者ギルドで合流しよう」
もっと早く合流したいのだが、今後の諸々のことを勘案すると
広大なアテナ神域に点在する街を巡ることになるので、
どれだけ急いでもどうしてもそれだけの日数が掛かってしまう。
連戦の疲れもあるから、すぐにアテナ神域へ出発という訳にもいかず、
【ハルマッタン】方面へゴーレム馬車でケフェウスたちと戦った場所から離れ、
その日は森の中で結界を敷いて野営することになった。
ブロック状にして確保していたケートスの下半身の肉を少し切ってから、
火で焼いて食べてみたが、鯨の肉というよりも高級牛のステーキ肉を
口にした感じで、肉の歯への反発が全くなく、容易に噛み切れてまるで舌の上で
融けるかのような食感だった。
幸い、巨大なブロック肉はまだ残してあるので、
慶事のときのとっておきとし、アイテムボックスの中でロックをかけた。
その夜、俺はリリィとソフィ、3人でマジックコテージで休むことになり、
サラとローラ、アンの3人は座席を倒してベッドにした馬車のなか、
ヘンリーとクオルはマジックテントという割り当てになった。
「それではお気をつけていってらっしゃいませ」
「ああ、そちらも気をつけて」
翌朝、朝食を食べた後、俺は練者の腕輪のアイテムボックスから、
試作したアイテムボックスの劣化複製をリリィたち全員に渡した。
アンの分はまだ用意していないが近いうちに作って渡すつもりだ。
劣化複製のアイテムボックの収納容量は最大99個までしか
入れられない容量制限が付いて、オリジナルの共有機能が付いていないが、
収納したアイテムの時間が停まるのと、サイズを無視して1アイテムとして
収納できるところは再現できている。
一般に売りに出せば、確実に売れる品だが、
そのネックの1つが材料がなかなか集まらないことにある。
材料の1つに[メデューサ(複製種)の蛇の皮]があり、
リリィたちの分はこの前のメデューサ討伐で
入手したものを全て使ってようやく作り出したものだ。
現状、メデューサ(複製種)の安定した出現スポットは
発見されていない。
俺はアンと召還したスレイプニルに乗って、皆に見送られてアテナ神域へ
向けて移動を開始した。
最近はペガサスを召還することが多かったため、
ほとんどスレイプニルを召還することがなくなっていたが、
脚が多いためからか、安定性と陸での速度でいえば、スレイプニルの方が
上であるのが分かる。
半日でエティオピア王国の王都を通過して、馬車で来るときに野営した場所に到着した。
ちなみにケフェウスたちの使っていた武器はまとめてエティオピアの門の前、門番の目の前に放置してきた。
ちょっとした騒ぎになっているだろうが、俺の知ったことではない。
聖騎士をイメージした剣と盾が特徴のサンク王国の紋章入りの馬車も見かけた。
イリアの取り巻きに絡まれて時間を浪費するのも嫌だったので早々に出発。
前回野営した場所にアイテムボックスに収納しているマジックテントを
敷設して、いつでも食べれるように保管していた食料を出し、
アンと一緒に食べて休んだ。
翌日、今日の午前中に神域の境に到着して、関所を通過した。
アンはポセイドン神域の人間であったが、
父親であり国王であるケフェウスが生贄にした際に、
国民としての認可を取り消していたので、所属が無所属であったため、
手続きが必要だったが、難民扱いになり、関所の通過は容易だった。
もし、あのままアンがアゲノルたちに連れて行かれていたら、
以前にも増して、劣悪な扱いを受けることになっていたのは容易に想像できる。
スレイプニルの速度についてこれる馬や魔物は早々おらず、
何事もなく、無事に昼前にカリュクスに着いたので、アンの衣服を購入し、
食事をいきつけの食堂で終え、テイラーとその妻の陽子さんに
アンを紹介して陽子さんにアンが大変気に入られる一幕のあと、
すぐに冒険者ギルドに行ってアンの登録を行った。
関所を通過した時点で、俺が某王国の重要人物に顔が似ていることから
起きうる厄介ごとを避けるために隠蔽効果をもつ双子座の仮面を
既に装備していたのは言うまでもない。
アンの冒険者登録も最初こそ、小柄なアンの実年齢を誤解して、
冒険者としてやっていけるのか、ギルド側の職員たちは疑問視していたが、
実力を測るために行った模擬戦で暫定EランクのアンがCランクの冒険者
(ヘンリーと同じライトウォリアーだった)相手に瞬殺で完勝したため、
相手には気の毒だったが、アンの実力が認められて、以降は順調にことが進み、
無事、ギルドカードが発行された。
「お前の所為でまた失敗しちまったじゃねぇか!」
「てめぇの所為だろが! ふざけんじゃねえ!!」
今日は一旦、店に戻って休むとしようと考えているとお互いを罵り合う声が
店内に響いた。
ご一読ありがとうございました。




