第9話 因果応報! 愚王とそれに従う者たちの末路!
ドシャッ
わずかな土煙をあげて、手足を失ったアゲノルはうつ伏せに地面に倒れた。
俺とアゲノルを円形に囲んでいたエティオピア王国兵の輪は
俺の【柄打ち】で吹き飛んだアゲノルを避けるように9時の部分だけ
穿たれた状態になった。
俺が転移魔術で先回りして、追撃をしたのでお互いの位置を入れ替えて、
俺がやや穿たれた位置寄り立っている状態だ。
大きな血溜まりを更に大きく広げていく出血を断たれた四肢から
続けているアゲノルはわずかに痙攣しているようだが、
その意識は既に俺が最初に放った【柄打ち】の時点で
完全に刈り取られているようだ。
既にアゲノルの挑んできた“決闘”は審判役として召還された
女神アストライアによって、俺の勝利という判定がでている。
「ポーションを投与すれば、まだコイツは助かるが、どうするんだ?」
俺はアストライアと向き合う位置で観戦していたケフェウス王を
一瞥してそう告げた。
彼我の実力を見極めずに因縁つけて挑発してきたこのバカに
慈悲をかけるわけではない。女神アテナに告げられた大戦のため、
少しでも戦力は多いほうがいいという判断から出た言葉だ。
もっとも、並のポーションでは止血程度しか効果はなく、
今ならば切断されて間もないから、四肢をエクスポーション以上で
元の状態に戻すこともできる。
しかし、このままでは四肢を失ったこのアゲノルがまともに動けるように
なるには大金の掛かるオーダーメイドで調整した義肢を取り付けて、
数ヶ月のリハビリを必要とするだろう。
その金の出所はコイツの実家になるかは俺の知ったことではないが、
コンマ数秒早く絶妙のタイミングでアストライアが俺の勝利を宣言したため、
俺はアゲノルに止めを刺し損ねてしまった。心優しいアストライアらしい
アゲノルへの慈悲だ。
止めを刺せなかった不満は少しあるが、早急に治療しなければどちらにしろ
アゲノルの命の灯は消えるので問題はない。
助けるかどうかは主君であるケフェウス王が判断することなので、
俺は尋ねたのだ。
アストライアが出した俺の勝利宣言を聞いてから瞑目していたケフェウス王は
目を開いてアゲノルのいる所へ歩み寄ると、徐に腰の剣に手を伸ばし、
アゲノルの心臓の位置に突き立てた。
アゲノルは電流を流されたカエルの筋肉のような反応を1回して
動かなくなった。
「敗者に用はない。これでこやつの家は断絶し、その財産は余のものだ。
クックックック……」
俺が傍にいるのを意に返さず、独り語ちて清々しいまでの下衆振りを披露した
愚王に俺は内心で溜息をついて、この場からすぐさまリリィたちと離れるため、
悦に入っている王の傍を通り抜けようとした。
「何処に行く冒険者よ? お主にはこの金を献上するしか能のなかった
この男の代わりに余に仕える権利をやろう」
「断る」
俺は即答したが、気持ちの悪い笑みを浮かべたケフェウス王は
「はて? 余の聞き間違えか? 今、なんと申した?」
「断ると言った。潰れかかっている国に喜んで奉仕するほど俺はお人好しではない」
「ふむ……では、こやつと同じ末路を辿るがいい!
貴様の連れの女たちは余の愛妾として可愛がってくれよう!!」
そう言い放つとケフェウス王……いや、この下衆は王とは最早呼べないな。
ケフェウスはアゲノルを殺した血に塗れた剣を俺に向けて、
長剣の技上級スキル【霞斬り】を使ってきた。
ケフェウスの動きは予想よりも少しだけ速く上級スキルの【霞斬り】を使えるのは
想定外だったが、俺は余裕で攻撃を避け、まだ送還されずにこの場に留まっている
アストライアに訊く。
「ケフェウスとの戦いも決闘扱いなのか?」
「いえ、申請はされておりません。私は役目が終わりましたので、
帰ります」
そう告げる彼女の足元に送還の魔法陣が展開し、
光に包まれ女神は消えていった。
「ふん、邪魔な女神も消えたか。貴様をこの剣の錆びにしてくれるわ!」
再び【霞斬り】でケフェウスが斬りかかってくるが、
ケフェウスがこちらの絶好の間合いに踏み込んだ瞬間、
セイントの特殊スキル【超見切り】が発動する。
わずか紙一重で【霞斬り】の斬撃を回避して、俺は【居合い】を放った。
【超見切り】はアテナ神域に所属しているセイント限定のスキルで、
一度視た攻撃はそのときの対象が自他であることを問わず、
完全に見切って回避でき、カウンターを放てる壊れスキルだ。
「ぬうう……余に手傷を負わせるとはなかなかできるな」
そう口にしたケフェウスの鎧の胴には俺の放った【居合い】による
大きな横一文字の傷ができており、そこから出血をしているが……浅い。
ケフェウスは【霞斬り】がかわされた瞬間に後ろに飛ぶ回避行動を
即座にとり、辛うじて、致命傷にはならなかったようだ。
【霞斬り】はその高い威力と速さに加え、攻撃をかわされた後の硬直が少ないのも
特徴で長剣愛用の上級冒険者には覚えているものが多い。
「殺すのは惜しい腕だが、余に楯突いたことを後悔させてやろう」
ケフェウスは懐からハイポーションを取り出し、傷口に投与して傷を治し、
余裕を見せていた。
「後悔するのはそっちだ。……お前は斬刑に処す」
俺はケフェウスの実力差が見えていない物言いに不愉快な思いをしつつ、
ペガサスを憑依し、ケフェウスの周囲を取り囲む様に
お気に入りの漆黒の騎士たちを6体召還して、その6本の漆黒の大剣を
ケフェウス目掛けて振り下ろさせた。
「ぐおおおおおおっ」
長剣をもつ右腕を斬り飛ばされ、更に背中に攻撃を受け、
今度こそケフェウスは致命傷を負った。
前の3体からの斬撃の内2つを1つをぎりぎりでかわし、
もう1つを剣で受け流すことに成功したようだが、
背後からの攻撃には対処できなかったようで、まともに受けたようだ。
「王をお助けするんだ!」
周りの兵士たちがアゲノルの副官だろう近衛騎士の指示により、
今頃になって俺の目の前の愚王を助けようと駆け寄ってくるが、
致命的に遅い。
俺は既に[天羽々斬]の間合いに
ケフェウスを捉えていた。
「俺は俺と俺の身内に害為すものには容赦はしない。
たとえどこぞの国の王であろうとな」
俺は息も絶え絶えなケフェウスにそう告げて、
刀の技スキル【彗星刀】を放ち、
ズタズタになって血を噴出しながら吹き飛ぶケフェウスを
アゲノルとの決闘で使った転移魔術で追撃し、
【彗星刀】の派生技スキル【彗星突き】を使った。
【彗星刀】と【彗星突き】を前後からくらったケフェウスの胸には
円形にくり抜かれたような空洞ができており、
そこにあるべき骨や心臓、肺といった臓器がきれいに抉られていた。
まぁ、やったのは俺なんだが。致命傷なのはいうまでもない。
俺が刀を納刀し鯉口を打つ音が響くと同時に
立ち尽くすように立っていたケフェウスは膝から崩れ落ちて倒れ、
自身の作った血溜まりに沈んだ。
「お前たちの王は俺が討ち取った。すでにお前たちの王はいない。
それでも俺と戦うつもりか?」
俺は襲い掛かってくる兵たちに問うた。
「王の仇を討つ。皆、奴を討つんだ!!」
兵を嗾けた男が声高にそう叫んで、周囲の兵たちが気勢をあげた。
「やれやれだな……」
〔シオン様、大丈夫ですか?〕
不意にリリィがシルフを解した通話で心配してきた。
〔ああ、大丈夫だ。1人で片付けるから待っていてくれ〕
〔わかりました。危なくなったら介入しますね〕
〔そのときはよろしく頼む〕
そうして、通話を終えた俺は大きなため息を吐き、
ダークナイト3体ずつ次々に召聘し、
兵を統率している指揮官と思しき装備が上等な者達を潰していく。
「ひぃ、隊長がやられた」
「逃げろ、俺たちじゃ、かなわない」
指揮官がやられた隊の兵士たちが我先にと蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
アゲノルとの決闘とケフェウスとの戦いを見ていたのになにを今更と
俺は呆れていた。
襲い掛かってくる兵たちに向かって俺は逆に駆け寄り、
すれ違いざまに【居合い】を放つ。
ときに複数をまとめて倒しつつ、俺は敵兵の海の中を
兵を嗾けた男目指して敵兵の血の道を作りながら進む。
また、ケルベロスとダークナイトを召還して逃げる兵を1人も残さず
血祭りにあげていかせた。
「この、化け物め!」
ほどなくして、嗾けた王宮近衛騎士の鎧に身を包んだ男が
俺に斬りかかってくるが、ケフェウスと違ってスキルではない、
拍子抜けする通常攻撃だった。
しかも、【看破】で視たが、ステータスはアゲノルよりも弱い。
俺は相手の攻撃が逸れるように半歩後ろにさがって、
無防備になった所に力を十分に溜めて威力と攻撃回数を底上げした
【流星抜刀】を放った。
次の瞬間に目の前には近衛騎士だった男の両腕、両足と首の五肢と
胴が分かたれて鎧ごと細切れになった肉塊が血溜まりのなかに浮いていた。
ケルベロスの遠吠えが聞こえてきた。向こうも無事に終わったようで、
結局、100人の兵士たちがこの地一帯に屍を晒すことになった。
俺は全ての敵兵がいなくなったのを確認したあと、
敵の死体全てに神聖魔術の聖炎を使って
死体の不死者化を防ぐのと周囲の浄化を行った。
これをやっておかないとこの地に瘴気が溜まって死体が
不死者化して旅人を襲撃したり、付近の集落に住む生者を
襲ってその数を増やしていくのだ。
アンのことでやることはまだ少しあるが、これでようやく先に進めると
俺は安堵して、リリィたちと合流した。
御一読ありがとうございました。




