第2話 遭遇戦
自己基準が未だ曖昧ですが残酷描写に相当すると思われる部分がありますので注意してください。
改行と脱字の修正を行いました
「ふむ、まぁ、こんなものか」
そう呟いた俺の目前には脳天から真っ二つにされたゴブリンやら、袈裟斬り、
胴から体を二分されたなどなど、一撃で絶命しているゴブリンたち40匹近くの見ていて
気持ちの悪い展示会が開催されていた。
俺の横には剣を掲げた漆黒のフルプレートメイルに身を包んでフルフェイスのマスクのなかから怪しく赤く輝く瞳の闇の精霊1体が妖気を放ちながら控えている。
【剣精霊 (闇):『ダークナイト』
戦場で無念の戦死を遂げた剣士の強烈な怨念が宿り、
果てなき戦いを続ける武具精霊。剣撃と剣技に特化した攻撃重視の召喚獣】
俺が最初に覚えた召喚獣で熟練度カンストの上、熟練度ボーナスと
育成アイテムで最凶レベルのパラメータ調整を施したお気に入り召喚獣の
1つだ。
「ありがとう、また頼むよ」
俺がそう告げると好戦的な武具に宿る精霊は恭しく
俺に一礼して送還の魔法陣の中に消えていった。
「馬上から失礼、どこのどなたか存じませんが、ありがとうございます。
助かりました。私は辺境騎士団の団長を勤めておりますヴェスタと
申します」
先刻までゴブリンと戦っていたアテナ神域の防衛を担うサンク王国に
所属する騎士団の正式装備、ポイエイン国の防具ギルド謹製の白鉄の鎧
を纏った騎士たちの団長が礼を述べてきた。
さて、どうしてこういう状況に至ったかというと、
樹海の入口を出たところで俺は重大なことに気づいた。
再三試したが、拠点に設置した転移陣に
移動できなかったのである!?
転移陣が使えないとなると瞬間移動関係の魔法がないZFOでは
転移陣以外の移動手段を持たない俺は自分の脚で帰らなければならない。
途中で馬か馬車を手配できればよいが、街ほど人の往来が激しくないこの辺境では
望み薄である。
しかも、久しくフィールド移動をしていなかったので完全に
拠点のある街への道順は記憶の彼方。
どうしようか思案していたところに剣戟と
魔法による戦闘音。
スキルで索敵するとゴブリンの大集団に騎士団が圧されている場面に
出くわしたのである。
戦況は多勢に無勢で騎士団18名が圧されている。しかし、丁度、
俺のいる位置が騎士団にとってゴブリンの集団を挟み撃ちした形になって
いるので、レベルリセット直後の肩慣らしと景気づけと八つ当たりに
お気に入りを召喚してみたのだ。
強力な召喚獣の召喚には長い詠唱と高レベルスキルが要求されるが、
今回召喚するお気に入り【ダークナイト】はランクEの初級召喚獣である。
ランクEの初級とはいえ、この召喚獣は前述したように俺が手を加えた
廃カスタム版なので1体でも雑魚モブを蹂躙するにしても過剰戦力もいいところ……。
しかも、俺は無詠唱、召喚位置指定で俺から離れた遠方にも
召喚できるし、ダークナイトなら最大で20体同時召喚は余裕だ。
とりあえず、目の前に作った召喚陣から漆黒の精霊を召喚すると
精霊は初めて見る俺の前に片膝着いて、王の下知を待つ騎士の姿勢をとった。
「俺にとっては昨日のことなのだが、どうやら長い間待たせてしまっていたようですまないな。手応えのない相手ではあるが、あそこのゴブリン共を騎士団と協力して掃除してくれ」
その仕草からダークナイトが長く待ちわびていたのを感じた俺がそう語りかけると漆黒の剣士は僅かだが頷く反応を返してくれた。今まで召喚したときになかった反応なので少し驚くとともに嬉しかった。ダークナイトはそのまま一足飛びで、次の瞬間にはゴブリンの集団の背後に着地していた。
辺りに響いた重厚な武具精霊の鎧が奏でる見た目に反した軽快な
着地音に何事かと無防備に振り返った哀れな犠牲者、この集団を指揮しているゴブリンジェネラルが最期に目にしたのは二つの冷たく赤い光をフルフェイスマスクの隙間から放ち、妖気を纏った無慈悲な死神の非情な一撃であった。
息を飲む間も与えずにゴブリンジェネラルの恐怖に引きつった顔を脳天からその巨躯を見事なお手本の様に正中線から真っ二つにした
ダークナイトは手近な獲物を次々に貪っていく。単騎で蹂躙を開始し、黒い疾風となって戦場を駆け、ゴブリンたちの肉の壁を豪快に削っていく・・・・・・。
これダークナイトの最大召喚可能枠の20体召喚使うと数秒で終わるな。
背後からの慈悲なき黒い死神の強襲で不意を突かれ、更に指揮官を失って混乱し始めた前線のゴブリンたち。
「今だ! 体勢を立て直し、押し返せ!!」
「「「おぉぅ!!」」」
その混乱を熟練の騎士達が見逃すはずもなく、団長らしき者の号令に従い、負傷者を出しつつも押し返して、戦線の立て直しに成功して戦況をひっくり返す騎士団。
俺のダークナイトは一太刀で多い時は3匹を始末し、最後の1匹を難なく仕留めたあとは俺の横に剣を掲げて待機した。
「馬上から失礼、どこのどなたか存じませんが、ありがとうございます。
助かりました。私は辺境騎士団の団長を勤めておりますヴェスタと
申します」
自分たちを助けたのが鎧の異形の主で、
しかも、その配下たる漆黒の鎧騎士が単体で
自分たちが苦戦していた相手を蹂躙していたのを知り、
騎士たちはこちらを警戒していたが、人の俺が前に出て、
警戒するダークナイトを送還したのを見て安堵し、
馬に乗った初老と思しき団長が救い主である俺に近づいて礼を述べてきた。
俺はすかさずスキル【看破】を使う。
このスキルはNPC、魔物などのステータスを確認できるのだ。
『知らないNPCのステータスは敵味方問わず知るべし!』これはZFOでは
常識である。
ステータスの確認はスキルだけでなく、魔法でも可能だが、
俺は習得していない。
名前:ヴェスタ・プロバトン (NPC)
メインクラス:ブレイブナイト Lv20
サブクラス:パラディン Lv15
属性:風・秩序
星座:牡羊座
所属:アテナ サンク王国
拠点:アテナ神域 サンク王国 首都アテネ
HP 1350 / 1800
MP 75 / 150
力 150 + 50
体力 130
魔力 95
技量 107
敏捷 107 + 2
俺の見立てではNPCとしてはなかなかのクラスと数値である。
ブレイブナイトは前衛系統のナイト系の中位職の1つでステータスが
攻撃寄り、【騎乗】スキルを習得して馬に騎乗することで攻撃力と部隊の
指揮能力に補正がかかる
反面、防御に不安が残る前衛攻撃職である。
パラディンはブレイブナイトと同じく前衛系統のナイト系の中位職だが、こちらは守りと中級までの回復魔法と神聖魔法が特徴で、
スキル【聖剣装備】を取得することで他のナイト系では装備できない
【聖剣】を装備することが可能になるのだ。
パラディンのポジションは聖剣がないなら中衛の遊撃、
面子によっては前衛の壁役が適していると評されている。
うちの妹様のメインクラスは更にその2つ上のレアクラス、
パラディンマスター。しかも、それを極めていて、【聖剣装備】の
上位スキル、【神剣装備】を取得して、
レア武器の神剣を何本もコレクションしている。
俺とパーティーを組んでいたときの彼女のポジションは
前衛攻撃役でZFOの有名プレイヤーとして、
サンク王国の主として名前が広く知れ渡っている。
属性は火・水・風・土・光・闇と秩序・中庸・混沌があって、
前半の6属性は属性攻撃、属性防御に影響を及ぼす。
後半の3属性は詳細は不明。VRMMOのときはイベントトリガーだと
攻略サイトの管理人たちは推測していた。
星座はその月に経験値ボーナスやステータスアップの効果があって
地味だが嬉しい効果が多い。
拠点はゲームのときは死亡時にそこにある神殿に送られるのだが、
リアル化した場合、復活するか怪しすぎて怖いな。
うん、欠損部位は上級ポーションで回復できるから、
死ぬのだけはなんとしても避けなければ。
俺はその有名人と髪の色と性別は違うが顔がそっくりなので
面倒ごとを避けるため隠蔽能力のある仮面を着けている。
「俺はシオン、冒険者、召喚士だ。礼には及ばない。
道に迷って、偶々通りがかっただけだ。
先ほどの漆黒の騎士は俺の召喚獣だ。
すまないが、近くの村か集落があれば道順を教えてもらえないか?」
「おお、シオン殿は数少ない召喚魔法の使い手なのですか。
先ほど拝見しましたが、召喚魔法とはあれほど強力な魔法のですね。
集落ならば丁度よい。私たちは拠点にする予定の”アルケー集落”
へ向かうところです。シオン殿もご一緒にどうですか?」
ヴェスタの厚意に俺は頷いた
俺が召喚士と名乗ったときに一瞬怪訝な顔になって、
後ろの騎士団員たちが少しざわついたが、すぐに元の穏やかな顔に戻った
ヴェスタはそう返してきた。
先ほどのゴブリンといいなにやら厄介事の臭いがプンプンするが、
道がわからないから選択肢がないので、とりあえず頷き、俺はヴェスタの
後に続いた。
それにしても、もしかして召喚士がほとんどいないのか?・・・・・・
気になるな。
しばらくして、ヴェスタの元に騎士が駆け寄り報告している。
どうやらその騎士は副団長で被害状況の報告に来たらしい。
幸い、死亡者、重傷者はおらず、軽傷者が数人で済んだそうだ。
集落への道中、ヴェスタに3年前から今に至るまで、
インフォログで確認したことや変わった出来事がないか
教えてもらっていた。
「3年前に忽然と世界中、各国の国王たちと主要冒険者が
失踪し、各国の暫定政権は混乱の収拾に奔走することになりました。
冒険者ギルドは高レベル冒険者がいなくなったため、
収入が激減してしまい、一部の街では人員雇用の問題から
撤退せざるをえないところが出てきたそうです。
この混乱のなか、いくつかの国が戦争で滅んでしまいました」
どこか遠い目で語るヴェスタ。
そのときになにかあったのかもしれないな。
「それから半年後、魔物の領域、所謂ガイア神域と世界中の各国にあるダンジョンから魔物が大量に出現して生き残った国々に
大きな被害を与えました。
大量出現した理由は現在も解明されていません。
ダンジョンから出現した魔物に関しては5神が協力して
神域内の加護の力を強化してくださったおかげで、
ダンジョン周辺にあった小規模集落の始めの襲撃の犠牲だけで
事なきを得ましたが、ガイア神域に隣接するアレス神域と
ポセイドン神域の被害は甚大で、2割から3割をガイア神域に
占領されました。
主神ゼウスの命により、各神域の大神殿を通じて、
神域を問わず各国は協力し、魔物に奪われたアレス・ポセイドン神域の
奪還を開始しました。これが魔獣大戦です」
そうしてアテナ神域からも遠征軍が派遣され、ヴェスタ達も
従軍したそうだ。
「戦闘は一進一退の膠着状態が続き、
遠征から半年後になってから突如、
失踪していた国王達と主要冒険者数人が帰還されたのです。
それからは戦況は一気にこちらに傾き、魔物共から奪われた神域を
奪還することができました」
当時を思い出しているかのような表情のヴェスタと配下の騎士たち。
寝落ちして意識がない時間の出来事なので、
俺はどう反応すればいいのだろうか。
「その後、突然帰還された数名の国王と国王代理たちによって、
3年間の不戦条約と諸々の互助条約が締結されました。
そのときに交通施設としてアポロン、アルテミス神域の国々と協力、
協議の末、鉄道の施設を開始し、半年前に開通に成功しました。
最も、我が神域でここから最寄りの鉄道の駅はポイエイン国の第二都市に
なりますが、ここからはかなり距離があります。
その鉄道は私も一度公用で乗ってみましたが、
あれはなかなかいいものです」
「そうか、機会があれば俺も是非乗ってみたいものだな」
「ええ、話を戻しますが、互助条約に次いで、お互いの神殿公認の元、
我が神域の各国々はポセイドン神域の国々との通商条約が結ばれました。
それまでは個人間での交易は黙認されていましたが、
いろいろな問題が発生していたので公式に他神域の国同士でも交易が
可能になりました」
単純に国家間で通商条約が結ばれたと考えるかもしれないけれど、
ゲームのZFOにおいては異なる神域での国家間交易はまだ
システム上組み込まれていなかったのだ。
更に信仰する神同士の関係もある。
ポセイドンにとってアテナは土地を巡って戦争した相手であり、
険悪ではないが、友好的とは言えない仲なのである。
神殿公認ということは神同士の仲もある程度友好であるということになる。
ちなみにアテナと一番仲が悪いのはアレスである。
どちらも戦神であるが、アレスは攻撃、アテナは防衛に長けていて、
アレスは短気短慮で攻撃的で信者には攻撃面での恩恵を多々与えるのに対し、
アテナは情熱家ではあるが寛容で人気が高く、信者の中の英雄、
冒険者に対しては武器、防具に限らず様々な援助と助言をしてくれる。
そして、問題があるのはアレス側で常に傲慢で好戦的でいちいちこちらに突っかかって、因縁つけてくるので困ったものである。
道中に野営を挟んで、太陽が最も高い位置に届いたころに
「見えてきました。あれが”アルケー集落”です」
先行しているヴェスタの配下の声に目を向けると、小規模ではあるが拠点として十分な広さの集落が目に入った。
さて、まずは宿の確保かな。そう考えて俺は騎士団に続いてアルケー集落に入った。
御一読いただきありがとうございます。