第2話 順調発進!ゴーレム馬車で神域境界を越える!!
「留守は任せたぞリーダ」
「はい。留守の間はお任せください店長」
「ああ。問題が発生した際の対処は大丈夫か?」
「はい。魔石を使った緊急通信の使用法は問題ありません」
「では、行ってくる」
リーダに緊急時の対応を確認し、俺は拠点を後にして、
特製大型馬車へ乗り込んだ。
馬車を引く馬はゴーレム技術を応用して作成したゴーレム馬2頭だ。
見た目は一見すると普通の馬に見える精巧さである。
アイテムボックスに存在を忘れられていたレシピがあったのは幸運だった。
今回のポセイドン神域の大神殿までの移動は長旅になる上、
途中までとはいえ、9人という大人数なので、
大型馬車での移動になった。
しかし、9人乗りの馬車は流石に市場にも流通していなかった。
そのため、ゲームだったころのZFOのイベントで手に入れてアイテムボックスに
死蔵していた馬車を改造して使うことにしたのだ。
俺のスキル『精 査』で構造と素材を調べ上げ、
素材の方もリリィ達の協力の下、完全に揃えあげて、4日かけて製作した。
御者も作成した専用自律ゴーレムにしたので、馬車にランタンと
サーチライトもつけて夜間走行も可能にした。
このゴーレムには自衛と馬車の防犯の仕事も任せることになっている。
椅子の配置は3席3列で全席進行方向を向くように設計してある。
以前に乗った馬車の経験から、サスペンションなどの機能も積んでるので揺れ対策も万全だ。
座席はリクライニング付。人数が減ったら座席を取り外してアイテムボックスに
しまい、空きスペースを活用することも可能だ。
防虫防害獣防犯装置も完備で、もう完全にキャンピングカーみたいなものである。
魔導テントの亜空間技術を応用して地下に食料庫付調理室と排泄物を分子レベルまで分解して森林に転送するトイレを設置している。
設置すると巨大化して使える魔導コテージと亜空間に接続して広々使える
魔導テントもアイテムボックスに用意しているが、座席の数を調整して
リクライニングを完全に倒せば馬車のシートも6人が使えるベッドになる。
流石に俺とヘンリー、クリュサオルは外で魔導テントか魔導コテージを
使うことになるだろう。
外装は『精 査』で確認したら、
ハイエンシェントトレントの硬木材とヒヒイロカネを使っているので
軽くて頑丈だ。 窓には錬金術で作った強化ガラス。
構造と素材が分かったから今度は本格的に3階層のカーゴをつくるのも
いいかしれない。移動時用拠点として用意しよう。
俺がアイテムボックスもちで荷物の量も気にしなくていいといった利点がある。食料の心配も不要で従来の馬車よりも遥かに快適な旅になるだろう。
座席の配置は最前列に窓側からローラ、俺、リリィ、2列目にディーネ、
テティス、クリュサオル、3列目にヘンリー、サラ、ソフィだ。
掟の旅の途中というローラを景色がよく見える窓側にして、
俺が出口側でもよかったのだが、リリィに私は従者だからと強硬に反対されてしまった。別にいいのに。
クリュサオルにはネレイデス2人の護衛として出口側に座ってもらった。
クリュサオルは血筋上ポセイドンの子になるから、2人は恐縮していたが、
そこは我慢してもらおう。
最後尾は背後からの奇襲を警戒して、索敵能力の高い銀狼族の3人に
お願いし、馬車の後ろの荷積み用開閉部分を開けることで狙撃が可能な
サラを真ん中に配置した。
「やっぱりいつ見ても凄いよなぁ」
「これ、シオンさんがやったんですよね?」
「ええ、マスターがアテナ様のご依頼で召喚獣を召喚されて、
廃神殿をこの土地ごと消し飛ばしました」
「女神アテナはご自分の神殿の破壊を依頼されたのですか、姉様?」
「ええ、神殿でアテナ様を侮辱する行為が行われたのと魔物に占拠されたのが
原因で強大な破壊力をもつ召喚獣を使役できるシオン様にご依頼されたのよ」
ヘンリーの言葉にテティスが反応し、ソフィが応えていた。
アルテミス神域出身のローラは姉のリリィにことの経緯を聞き、
リリィは丁寧に答えていた。
余談だが、ヘンリーの提案でクリュサオルを略称のクオルで呼ぶことが
本人同意の下決まった。
今、俺たちは先日メデューサを討伐した廃神殿の跡地を通過している。
当時使った普通の馬車では到着まで1日野営する必要があった距離だが、
ゴーレム馬のおかげで半日程度で到着した。
あのときは揺れが酷かったんだよな。
お昼はリリィたちが作ってくれたサンドイッチだった。
ハムと野菜とチーズなど具がたくさん入って美味かった。
ここから見える海岸はまだアテナ神域なので、
同行しているネレイデスのテティスとディーネは
ここの海からポセイドン神域へ行くことはできない。
面倒だが、神同士が決めた領域の制約で冒険者以外、神の配下は
その土地を支配している神の下へ伝令を送って予め了解を得ないで
領域に部下を派遣すると領域侵犯になるのだ。
テティスとディーネはポセイドンがメデューサの様子見に派遣した
水の女神で、アテナ様の了解なしで、派遣されてきていたので明確な
違反行為である。
この件でアテナ様はポセイドンを追及し、クリュサオルの件を事前に伝えてくれていた。
そして、俺はこの2人の石化を解呪したので、結構な額の報酬をもらった。
馬車の改造費用はそこから出している。
「シオンさんを敵に回すのは危険ですね」
「アテナとことを構えるのは得策ではないことをポセイドン様に
お伝えしなければ」
ネレイデスの2人は蒼い顔しながら顔を見合わせて相談していた。
流石に神域の境界までは1日で着かず、途中で停車して野営することになった。
女性陣は馬車の中で俺とヘンリー、クオルは魔導テントで新作の寝袋だ。
「おお、兄貴こいつはすごいな」
「ふわふわして、慣れると気持ちいいです」
「どうやら成功らしいな。この『無重力寝袋』は」
寝袋の頭部と中央部、足先部に浮遊魔術『レビテート』を調整して封じた魔石を
固定し、使用者が横になって、『レビテート』をコールすると、
その場で『レビテート』が発動する仕掛けだ。
通常、ベッドや布団を敷いて床で寝ると重力に反発する抗力が発生するが、
この寝袋を使うと宙に浮くので、抗力が発生しない。
更に魔石内の魔力がなくなると、いきなり『レビテート』が切れるのではなく、
ゆっくりと着地する様に調整してあるから、『レビテート』が切れて落下事故が
起きることはない。
問題は魔石の貯蔵魔力の問題で、現状では2〜3回に1回は魔力を補充する必要がある。
補充回数を減らそうとすると魔石の純度と大きさを上げねばならず、
コストが上がり、商品として供給するのに苦しい値段になってしまう。
使い捨て魔石を使うことも考えたが、使い捨てでは含有魔力の多寡の問題で
片方のレビテートが就寝中に切れる恐れがあるのだ。
頭が下になったら翌朝冷たくなっていましたとか考えるだけで恐ろしい。
ローエンドモデルとハイエンドモデルを用意して販売するのもいいかもしれない。
オーダーメイドで取り扱うのもありか。など、販売戦略を練りつつ、
その日は終わりを迎えた。
明けて翌日も馬車で半日ほど走って、ようやく境界にある関所に到着した。
これは神々の神力で造られた長城で、神域の変動に従って移動する優れものだ。
「ギルドカードを拝見します……連絡がありましたシオン殿たちですね?」
「そうです」
「事情は伺っております。あちらの女性たちがネレイデスの方々ですね?」
「はい」
「確認しました。ここから先は他神域になります。アテナ様の御力による加護が
なくなりますので、十分注意してお進みください」
「ご丁寧にありがとうござました」
「では!」
門番の検問の応対に俺が出ようとしたら、リリィに止められてしまった。
通常、神域内では支配している神の神力が行き渡っており、
その神を信仰している者たちに『加護』として、様々な恩恵が与えられている。
クオルも生まれがアテナ神域だったので、既にアテナ神域所属になっている。
アテナ神域での『加護』は致死・即死攻撃を1度だけ無効化する。
ただし、罪を清算していない犯罪者は除くといったものである。
これはサンク王国が神殿を領有した際に変更したもので、
中には神域内限定で攻撃力・防御力10%アップというものもあった。
しかし、他神域で”戦争”しているときに弱体化を感じるのは士気に影響するとされて、却下された。
犯罪者も除外したのは死刑や討伐のときにも効果があることを
考慮してのものだ。
1回首を落とした犯罪者をもう1回殺さないといけないのは手間だし、
悪人たちを増長させかねない。
ポセイドン神域の『加護』は水上で攻撃力・防御力+30%というもので、
海が多いポセイドン神域において、信者たちにとっては非常に有利な『加護』である。
一方でこちらには不利になるので、海上での戦闘は避けていく方針で皆と意見が一致している。
神域の境界では2神を信仰する信者同士で6人1組の兵を4組ずつ門番として配置している。
お互いを牽制する意味と境界近くで発生した魔物の排除、
不法越境者の捕縛が任務である。
不法越境者というのは実のところアレス神域の冒険者たちが
占める割合が圧倒的に多い。
彼等の目的は他神域の住人の拉致誘拐である。
アレス本人はしらをきっているが、
奴隷化してしまえば配下に加わり、自分の力を高めることになるから、
冒険者たちの横暴を黙認しているのである。
これに対して、アレスを除く神々たちは共同で神託を出し、
監視を強めることにしたのである。
アレス神域の冒険者といえど、全員が奴隷商人と繋がっているとは
限らないからだ。
そういう理由があって、門番は3交代制で1組は不法越境者対策として巡回している。
以上、サンク王国にいたときに知った知識である。
国家機密ではないので、ヘンリー達に説明したら、ローラやディーネたちにも関心されてしまった。
他の国では知られてないことだったのか。
そうして、無事境界を越えて、盗賊たちの襲撃を警戒していたが、
なにもなく、馬車を走らせること2日と半日。
俺たちは第1目的地であるエティオピア王国に到着したのだった。
御一読ありがとうございました。




