第20話 天網(てんもう)恢恢(かいかい)疎(そ)にして漏(も)らさず?
「これはもう生産スペースというより完全に工場だよなぁ……」
俺はいつもの作業用装備、
『クスシ蛇のベルト』に『ミスリル銀のシャツ』、
『アリアドネのスラックス』、『狂錬金術師の白衣』、
『アスクレピオスの杖』、『パラケルススの眼鏡』、
『フルカネリの指輪』、『エメラルドタブレット』、
『青髭卿のネクタイ』
を身につけた実用重視(外見度外視)の姿で、
助手ゴーレムが生産スペースの大型器材で商品用のアイテムを
生産していくのを眺めて呟いた。
工場の建築はもっとお金が貯まらないとだめだが、
リリィとソフィに頼んで、土地と価格を調べておいてもらおう。
俺がオリュンポスから戻ってから1週間。
アテナ様に蘇生薬を提出してから合計して10日経っていた。
俺は新装開店準備を続けていたが、それもひと段落し、
今は若干手持ち無沙汰になっている。
俺は4日前に冒険者ギルドの要請で、
石化していた2人の女性は解呪した。
素性を確認したところ、
2人ともポセイドン神域所属のネレイデス、
海の女神だった。
ポセイドンの命令でメデューサの様子を見に行かされ、
あの神殿で石に変えられてしまったそうだ。
他にも数名命令を受けて同行したネレイデスはいたそうだが、
石化されて粉々に砕かれたらしい。
2人はもっとも後ろにいたから砕かれずにすんだようだ。
俺はアテナ様に仔細を報告して、
神殿でネレイデスたちを預かってもらった。
2人とも神話に違わず、かなりの美人で下手をすると、
お持ち帰りされかねなかったからだ。
体のメリハリが同性から見ても目を引く位で冒険者ギルドで、
出会ってから、ずっと道行く人の視線を集めていた。
俺の所で2人を預かるのはクリュサオルの件で不安があるから、
却下した。クリュサオルがポセイドンの息子と知ったら、
強引に連れ帰ろうとしそうだからだ。
幸い、2人は陸上では普通の人並の力しか発揮できないのを確認している。
探知・鑑定系のスキルもランクBと俺たちの隠蔽で防げるレベルだった。
ただし、海に入ったら海の女神の名に恥じぬ力を発揮するのは
保有スキルから推測できる。完全に水中戦特化だったからだ。
メデューサにやられたのは陸に上がって、
人魚のようだった下半身の尾を人の足に変えた直後だったらしい。
アテナ様からのご命令で2人は俺たちがポセイドン神域へ行くのに
同行させることになった。
エティオピアに着けば、そこの海から帰れるからと言われ、
そこまで同行するということになった。
メデューサがいた元廃神殿跡地の海からはアテナ様が
出入りを禁止しているため、そこから返すわけにはいかなかった。
故に、エティオピアまでということになったのだ。。
ポセイドンがネレイデスを派遣したのは
スパイ行為で非合法だったのだから、
不法に侵入してきたネレイデスたちを
帰さないという選択をするのもこちらの自由だったのだから、
これは待遇がいいほうだろう。
それに比べれば、冒険者は割りと
他神域への出入りがラクだ。
その理由は冒険者ギルドの管轄が神域の神とは別になっていて、
世界共通といった扱いで、神域の境界でギルドカードのチェックを
済ませるだけでいいのだ。
これに問題がないわけではないが、冒険者ギルドにとっては
その地域の多くの問題を処理しないといけないので、
それどころではないらしい。
このままなにもなく、錬金術勝負は
俺の勝利で終われば良かったのだが、
残念ながら、そうは行かなかった。
今朝出かけたネレイデス2人が行方不明になったのである。
「まさか本当に食いついてくるとは」
「2人の了承をとっているとはいえ、早急に助け出さないとな。
シオン、ソフィ嬢ちゃんからの連絡は?」
「場所の特定が完了。今配置についているところだ」
俺はガーヴィン、テイラーと3人で
ティオの店『箱』が見える
飲食店の2階の個室を借り切って、
本部とし、ネレイデス救出作戦を展開していた。
市長、ギルド長という立場で俺より
まともな肩書きを持っているはずの
2人は作戦本部長の地位を俺に丸投げしてきた。
2人より立場の低い俺に拒否権はなかった……。
現在時刻は昼を大分回った<<14:20>>
俺の多重召喚で呼び出した『シルフ』たちが
無線代わりの伝令役として、
大活躍している。その数全部で12。
その分、俺のネクタルドロップの消費が
半端ないことになっている。
〈マスター、全員配置に着きました〉
〈ご苦労、様子はどうだ?〉
〈それが、お店を閉めているようです。
人の気配がしません〉
〈ッ! ソフィ、総員突撃させろ!!
地下室、隠し通路、隠し部屋を急いでくまなく探せ!!〉
〈はい! わかりました〉
俺は事態が切迫しているのを察し、
ソフィたち突入班に突入指示をだした。
「おい、どうしたシオン?」
テイラーは俺の焦りに気がついて問いかけ来た。
「気付かれたのかもしれん。
この店の店員の証言から、午前中は営業していたらしいから、
急いで店を畳んだのかもしれない。馬車が慌しくでたという話も
なかったから……」
そう言って俺はテーブルにテイラーが持ってきた
カリュクスの地図と地下水道の地図を広げた。
〈シオン様、地下室を発見しました。
うっ、地下室に生存している奴隷数名と
実験室と思われる施設で人体実験あとを確認しました〉
地図がテーブルに広がったタイミングで、
突入部隊に配置した俺の仲間のなかで索敵能力の高いサラから
連絡が入った。
〈よくやった。奴隷たちを保護する班と逃走経路を捜索する班に
分かれて、行動してくれ。
捜索班はサラを班長にヘンリー、クリュサオル続け。
罠に注意して進むんだ。
保護班はアルフォンスを班長に奴隷たちをギルドまで護送。
ソフィは研究資料が残っていないか慎重に捜索〉
〈〈〈了解〉〉〉
「テイラー、カリュクスの門番たちには、
行方不明直後からカリュクスを出る馬車の確認をさせているな?」
「ああ、既に今のところは網にかかっていないらしい」
門番によって、あの店から隠し通路を通り、
別地点で馬車を用意しての逃走の線は潰している。
カリュクスの門番に賄賂が効かないのは連中も知っているはず。
となると……。
〈シオン様、地下水道に通じる扉が開かれているのを確認しました〉
答えに辿り着いた絶妙のタイミングで、
またサラから裏づけが取れる連絡が入った。
〈サラについているシルフは音で逃走している者を追い、
向かっている方角を教えてくれ。
サラの班は追跡を続行。気付かれたら、
人質の命を優先し、可能な限り、
足止めを。奇襲ができるならば捕縛しろ〉
〈分かりました〉
〈ご主人様、どうやら逃走者複数名は
東に向かっているようです〉
〈そうか、ありがとう〉
サラの返事のすぐあとにシルフから報告が上がってきた。
サラ達、銀狼族は嗅覚と聴覚は俺たち人族とは
比べ物にならないほどのレベルまで強化できるが、
地下水道では多くの音と悪臭によって、
その力を存分に発揮できない。
一方でシルフは風の精霊、
音の超1流の専門家なので、
複数の音源が何処にあるかを聞き分け、
音源が向かっている方向も感知できるのだ。
俺はシルフたちの情報を基に地下水道の地図から
ティオたちが使いそうな出口をいくつか割り出した。
〈兄貴、ちょっといいか?〉
〈どうした? ヘンリー?〉
〈俺とクリュサオルは最寄の出口から地上に出て、
追跡していいか?〉
普段は俺の指示に従っているヘンリーが珍しく提案してきた。
〈根拠は?〉
〈勘。だけどこのまま後手に回っていると
逃げ切られると思うんだ。
クリュサオルもあの姉ちゃんたちと同じ眷属だからか、
位置を感知しているみたいだ〉
確かにこのまま追いつけるかと言われれば難しい。
ヘンリーたちは6名。うちサラを含めた4名はヘンリーと
同じライト・ウォリアー、魔術師、スナイパー、
格闘士とバランスは悪くない。
俺は心の中でため息を吐いて、ヘンリーに許可をだした。
〈ただし、人質の命を最優先に動くこと。
二人一組で必ず行動すること、
いいな!〉
〈わかったぜ、兄貴! 任せろ!!〉
〈(ヘンリーのフォローを)頼むぞ、クリュサオル〉
〈任せて下さい。シオン兄さん〉
俺はヘンリーたちとのシルフを介した通信を終え、
注文しておいた飲み物、レモンとアップル、オレンジの
ミックスジュースで喉を潤した。
「どうやら佳境のようだな」
事態を見守っていたガーヴィンが声をかけてきた。
「お前も出るつもりのようだなシオン?」
テイラーはニヤニヤした顔で俺に言った。
「ああ、このままだとしてやられそうだからな
出し惜しみするつもりはない」
「そうか、ここは俺たちでなんとかするから、
そっちは任せる」
「最初からそうしてほしかったんだがな」
「いやだよ、面倒くさい」
テイラーの言葉にため息を吐きって、
ため息吐いてばっかりだな俺。
俺はミックスジュースを飲み干し、
窓から屋根に上がり、
ペガサスを憑依した。
その途端、ピロリンという効果音が数多く鳴り響くと
共にメッセージが表示された。
ここはカリュクスの門の外にある
今は使われていない枯れ井戸。
その井戸から出てくる6人の人影。
うち、3人は人が入る位の大きさの荷物が入った袋をそれぞれ
肩に抱えて、井戸からでるため、それを地面に一旦置いていた。
もう2人は大きなリュックサックを背負って井戸の中に架けた
梯子を登ってきた。
「ふう、人を抱えながらってえのは意外としんどいなっと」
「はやく、待機している馬車と合流しましょう。さっさとこんな国、
こんな神域をでますよっ!」
「はいはい、全く誰の所為でこんな夜逃げ紛いのことになったんだか」
大きなリュックサックを背負ったティオの店『箱』で
店員をしていた商人、カッカブは不満な声をあげる。
「わ、私の所為ではありませんよ! あいつが、
あの男さえいなければ!! あのリリィも今頃……」
カッカブの言葉に反応して、
彼にヒステリックな声をあげるティオ。
「おい、避けろ!」
しかし、次の瞬間、仲間の1人、ギェナーが注意を促し、
体当たりをしてきたので、2人は吹き飛ばされる。
「な、なにをするだ!」
今度はギェナーに不満の声を向けるカッカブ。
空気が読めてないなと俺は思った。
「敵だよ、敵。他の3人はもうやられて、奴隷どもは
確保されちまってる。この分だと馬車も期待でない」
ギェナーは吐き捨てるように言うと、
3つの大きな袋の前に立ち塞がる俺に手に持った剣を向けてきた。
ご名答。既に馬車の護衛と御者は制圧済みだ。
ギェナーの言うとおり、
俺の奇襲で背後の袋を背負っていた3人は既に死んでいる。
カッカブは俺が着けている双子座の仮面の隠蔽効果で、
俺が何処にいるか分からず、辺りを見回している。
「お、お前ぇ、これは私が『狂気の錬金術師の弟子』と知っての狼藉か?」
カッカブとは違い、後衛職とはいえ、ランクBである
ティオは俺の位置を間違えず、指を突きつけてきた。
なんとも場違いなことを言い出したティオに
仲であるのギェナーも呆れた顔をしている。
俺はそのティオの言葉を聞いて、鼻で笑い、
「ホラも大概にしておけ、
本当にその錬金術師の弟子ならば
あんな粗悪なポーションや
副作用の強い薬品を説明なしに売りつける
非常識はしない。
いや、師匠たるその錬金術師がさせないからな」
俺がティオ(バカ)の会話しているのを隙とみて、
ギェナーが斬りかかってくるが、ヤツの剣を弾き、
俺は先程覚えたスキル『流星刀』を
ギェナー1人に向かって放った。
「ぐおおおおおおおおおお」
ギェナーは音速を超える連続する無数の斬撃に
両手首、両肘、両腕、首、胴、
脚、太腿、膝、足首と無数に切断されて絶命した。
俺はメデューサ起源種を倒してた時点で、
次のクラスに昇格が可能になっていた。
目指す『サモンマスター』へいくための召喚職『セイント』へ昇格し、
ペガサスを憑 依した際に覚えた派生スキルが
『流星刀』だ。
派生元のスキルは『流星剣』、
これは音速を超える連続斬撃を
毎秒数百回繰り出す剣技だ。
装備していた武器が刀、
『天叢雲』
だったために『流星刀』に派生し、
更に『居合い』と組み合わさって、
一瞬に数十から数百の居合いを繰り出す『流星抜刀』も覚えた。
「くっ! 勿体無いですが、ここで捕まる訳にはいきません」
「ティオ、まさか、ギェナーに薬を?」
「ええ、あんな化け物に後衛である錬金術師の私と
輸送人である貴方が敵うはずないですからね」
そう言うと、ティオは懐から瓶を取り出し、栓を抜き、
ギェナーの死体へ向かって、投げた。
薬が降りかかるとギェナーの体から流れている血が薬と混ざり、
どす黒い液体に変わり、肉が膨張し、骨が急速にあらぬ方向にも
伸びるのが見えた。
切れた手足と五肢はどす黒い液体を介して繋がり、傷跡からは
どす黒い液体が流れている体長4mになる魔物が誕生した。
ギェナーの状態を見る限り、
薬の精製に失敗しているのが分かる。
油断なく、念のため『看破』で
ギェナーのステータスを確認すると、
やはり魔物化していた。
「さあ、やってしまいなさい、ギェナー!」
上機嫌で命令するティオ。
しかし、ギェナーの拳はこちらではなく、ティオに向けられた。
間一髪でそれをティオは避けた。
「あ、危ないじゃないですか! 敵はあっちでしょうに!!」
「O、オれニ、めイれイ、すルなアあアあアっ!!」
聞き取り辛い言葉を発するギェナーが
ティオに意識を向けている間に
俺は倒した3人の死体をアイテムボックスにしまい、
ホーリーナイトを3体召喚して、
3つの袋の護衛に就けた。
俺に視線を戻し、叩き潰そうとしてきたギェナーの攻撃を
俺は憑 依しているペガサスの能力、
背中に顕現している白い翼の力で空へ飛んで避けた。
「ちョこマかト」
俺は耳障りな魔物ギェナーの頭部に『流星刀』を放った。
魔物ギェナーの頭部は無数の斬撃で細切れになったが、
すぐに復元、いや、若干いびつな形になった。
ダメージは薄いようだ。
「ニく、ニくダ、にクをヨこセ!」
「やめ、やめぎゃあああああああああ」
魔物ギェナーは恐怖で立ちすくんでいるカッカブを
掴むとどす黒い液体を浴びせた。
液体を浴びたカッカブの皮膚と肉、骨は溶け、
液体に吸収されていき、後にはカッカブが着ていた衣服と
背負っていたリュックサックだけが残された。
「ひっ、ひいいいい、ぎゃああああ」
「逃げられると、思っているのか?」
失禁しつつも、その場から這ってでも逃げようとしている
ティオの両脚を俺は断ち、死なないように止血だけは施す。
俺がティオを止めている間に
魔物ギェナーはホーリーナイトに
攻撃を繰り出していた。
3体は巧みな連携でお互いの被害を最小限に
抑えていた。
俺は一気に魔物ギェナーとの間合いを詰め、
その両足を『居合い』で切断した。
倒れこんでくる巨体に俺は
『流星刀』の発展スキル『彗星刀』を
放った。
『彗星刀』は分散して散弾の様に放っていた
『流星刀』の斬撃を一点に集中した技だ。
もちろん、派生スキルで、派生元の『彗星剣』も
覚えている。
凄い勢いで削れて行く巨体。
俺が目指すはヤツの心臓だ。
もう少しで心臓に到達するという所で『彗星刀』の
効果時間が終わり、再生が始まろうとした。
俺はすかさず、『彗星刀』の派生スキル、
『彗星突き』を発動させた。
剣技系のアクティブスキルはクールタイムが存在し、
それが終了するまで使用はできない。
刀によるものも例外ではなく、
しかも、さっき覚えたばかりのもので、
効果が強力なものなので、
かなりのクールタイムが必要だ。
そこで俺は『彗星刀』の派生スキルである
『彗星突き』を放った。
再び、再生速度を超える連続攻撃に晒されて、
遂に心臓の破壊に成功する。
しかし、魔物ギェナーの再生は止まらなかった。
俺は空から地面に降りて、大きなため息を吐き、
魔物ギェナーを暗黒結界に閉じ込めて、
そこに再び『アザトース』を召喚する
最終手段をとろうとした。
「早々(そうそう)、あのような危険なものをこちらに召喚されては困る。
ここはわしに任せろ。
少しの間ペガサスを借りるぞ」
ゼウスの声が俺の頭の中に響き、
ゼウスの神 力が辺りに満ちて、
俺に掛かっていたペガサスの憑 依が強制解除された。
「ハデスからそこのティオという男が死者を蘇らせたとの
連絡が着てな。お主との約定により、
これよりわしがそやつとそこの魔物変わりに神罰を下す!!」
その言葉の直後、強烈な光とともに、轟雷がティオと
魔物ギェナーを包み込み、悲鳴をあげる間も与えずに
一瞬で消し炭に変えた。
なるほど、雷属性の攻撃のほうが効果的だったか。
俺はそのことに気がつき、類似敵への参考にしようと
頭の中にメモった。
「シオンよ。くれぐれも蘇生薬の
管理と保管には留意するのだぞ!」
ゼウスの言葉が終わると、
辺りに満ちていたゼウスの神 力
が消えた。
「おお~い、兄貴!」
「シオン兄さん、ご無事ですか?」
遅れてようやく到着したヘンリーとクリュサオルと共に、
俺は大きな袋に入れられていた2人のネレイデスと
1人のエルフの女性を助け出した。
シルフでみんなに救出成功を告げ、女性3人を運ぶための
応援を要請した。
「兄貴、結局、【狂気の錬金術師】って
存在するのか?」
ネレイデス誘拐事件後、
冒険者ギルドで死体と証拠品の引渡しと聴取を終え、
拠点に戻ってリリィたちと談話室でくつろいでいると
ヘンリーが質問してきた。
サラとクリュサオルも興味深そうに俺の返答に注目している。
「いるわよヘンリー、貴方の目の前にね」
ソフィが笑って、俺が口を出す前に答えた。
「え? 俺の目の前には兄貴しかいないから……もしかして、
【狂気の錬金術師】って兄貴のこと?」
予想外の答えだったのか、ヘンリーとサラ、クリュシュナは
驚愕の表情を浮かべつつ、俺を見た。
「ええ、シオン様の”二つ名”の1つよ」
リリィが嬉しそうに答える。
「でもなんで”狂気”ってついているんですか?」
「それはね。最高品質の回復アイテムを作るために
非常に細かい実験を繰り返し続けていることから
きているのよ。
他の人から見たら”狂っている”ように見えるらしいの」
サラの疑問にソフィが答えた。
俺はさっきからリリィの淹れた紅茶を満喫して
会話には参加していない。
下手に喋ると墓穴になりそうだからだ。
他意のない言葉だけにソフィの言葉が地味に俺に
心理的大ダメージを与えてくる。
ゲームのときのZFOに”二つ名”と称号というシステムがあった。
『称号』は獲得すると1つから複数の様々な特殊効果が得られるもので、
獲得条件はピンきりで、簡単なものはすぐに入手できる。
これに対して、『二つ名』は獲得条件が『称号』に比べて、格段に難しく、
しかも、最初に達成したらそれ以後の人間は獲得できない。
その分得られる効果は『称号』と比べものにならないくらい強力で、
しかも、効果は重複しない。
ちなみに俺の持つ【狂気の錬金術師】は
『調合』と『合成』の成功率+150%だ。
100%以上の数値は元々の効果を引き上げた”上手にできる”
確率だ。俺はこれの数値に作業用装備でブーストして200%近くまで
引き上げている。
薬品の配合率も大切だが成功率が低いと意味がないからな。
「シオン兄さん、もう1つ持っている二つ名ってなに?」
クリュサオルが興味津々の様子で聞いてきたが、
「すまない。どうやら、来客のようだ。その話はソフィたちに聞いてくれ、
ソフィたちの方が俺より詳しい」
俺は転進を選択した。これは逃げるのではない。
後ろに向いて前に進むんだと心のなかで自己弁護する。
そして、俺はアテナ様からの伝令として来た神官を出迎えるために、
未だに賑やかな談笑の声が聞こえてくる談話室を
傍らで微笑んでいるエルフのリリィと共にあとにした。
御一読ありがとうございました。
これにて第2章終了です。
次章、第3章開始までしばらく、時間をいただきます。
現状では6月中旬ごろから再開し、
投稿ペースを落としての投稿になると
思います。
再開目途が立ちましたら、活動報告で連絡します。




