第17話 報連相を忘れてないか?
アザトースを召喚した際に吸い上げられたのと、
魔導書『アル・アジフ』の使用で、俺の残りMPは1桁をきって、
すこし危険な状態であった。
【アザトース:
窮極の混沌の最奥にある螺旋状の渦動する奈落の底に君臨する旧支配者達の不動の総帥。泡立ち続ける不定形で認識される黒い影で、不浄な言葉を吐き続ける。崇拝者にすら破壊をもたらす破壊のための破壊神で、際限なく召喚者の力を現界するために吸い上げるため、結界なしでの召喚は自殺行為である】
今は全身がだるく、イリアとリリィに説教くらってダウンして、
イリアに膝枕してもらって横になっている。
頭の後ろの柔らかい感触が心地いい。
MP自体は自分で上手にできたハイ・マナポーションを
5本飲んだから回復している。
ソフィは発狂を回避できたので、いい経験になったようだ。
『看破』で見たら、精神防御が微増していた。
アテナ様は消し飛んだ廃神殿に満足いったようで、
オリュンポスに帰られた。憑依されていた
オリヴィアもかなり消耗していたので、
今夜は野営してから移動することになった。
「私もそろそろ国に帰らないといけないなぁ……」
「そうなのか?」
「うん、ケイは1週間位なら私がいなくても
大丈夫って言っていたけれど、
そろそろ1週間になるから戻らなくちゃ。
アレス神域の奴隷商人のこともあるから」
「そうか……俺もいろいろやることが溜まっているが、
それが片付いて、お互い落ち着いたら、また冒険に行こう」
「……うん、兄さん」
イリアは暗い顔を笑顔に変えて頷いてくれた。
その夜、ソフィと召喚したホーリーナイト8体に
夜警をさせ、穏やかな夜を過ごし、
俺たちは無事、カリュクスへ帰還した。
【ホーリーナイト:
守ることに特化した防具精霊。大切な者を守りきれなかった生前の無念から、
高い防御力と絶大な防御技能をもつ。剣技に関してもマスタークラスの腕を持ち、
手加減して敵を生け捕ることもできる】
「……はい。確かにお預かりいたしました。
計算しますので、しばらくお時間をいただきます。
また、ギルド長がお呼びですので、ギルド長室へお進みください」
カリュクスに到着したのが
営業を終了している夜の時間だったので、
翌日、俺はリリィとソフィを伴い、
冒険者ギルドで依頼の達成報告をしにきている。
サラはイリアが部下たちに土産を買うための店の
案内役をさせ、ヘンリーとクリュサオルもそれに同行している。
クリュサオルに近辺の店などを覚えさせる目的もある。
オリヴィアは早朝に神殿に戻っていった。
「ギルド長、シオンさんたちがお見えです」
「おお、来たか、入ってくれ」
先導していたギルド職員が扉をノックして、
ガーヴィンの返事を確認して扉を開けてくれた。
「よく来てくれた。依頼の達成感謝する。
実力に気付いていない見る目、実力のない連中は
お前たちが倒したことに懐疑的だったが、
俺はお前たちが討伐したことを確信していたからな」
そう言って、ガーヴィンは労ってくれた。
「さて、ここに来てもらったのは他でもない。
お前たちが返り討ちにした
アレス神域の冒険者たちについてだ。
提出してくれたギルドカードから足跡を辿り、
奴等の潜伏場所を洗い出し、
拉致被害者が捕まっている場所を探している」
「ここ、カリュクスにもありそうなのか?」
「ああ、残念ながらな。
巧妙に隠されて特定できていないが、
ほぼ間違いない。ギルドとしても全力で当っている」
「マスター、可能であれば助力を
してよろしいでしょうか?」
「……そうだな。無理と無茶をしないのを
約束するなら許可しよう」
「はい。ありがとうございます」
「すまん。助かる」
奴隷にされかかった過去をもつソフィの
助力に感謝したガーヴィンのギルド長室を俺たちは後にした。
俺たちは受付で計算に時間がまだかかると言われ、
確認のとれたメデューサの首を入れた首袋を受け取り、
一旦、冒険者ギルドを後にして神殿に向かった。
「ようこそいらっしゃいました。アテナ様がお待ちです」
神官に案内され、俺たちはアテナ様の待つ部屋に通された。
「おお、よく来てくれた」
「アテナ様、まずは首の提出と貸していただきました
防具を返却いたします」
「うむ、こちらもオリヴィアに貸し与えてくれた防具を返そう。
突然だったとはいえ、よく対応してくれた。
ハルパーはオリヴィアにきちんと返してもらった故、問題ないぞ」
俺はアテナ様に借りた羽の生えたサンダルと
隠れ兜、イリアが使っていた戦女神の楯を
アイテムボックスから取り出して返し、
オリヴィアに貸していた『竜鱗の鎧』、
『水鏡の楯』を返してもらい、
アイテムボックスにしまった。
「こちらがメデューサ起源種の首です」
「うむ、確かに受け取ったぞ。
前から考えておったのだが、
この首を私の戦女神の楯に付け、
最強の楯にしようとな」
俺からメデューサ起源種の首の入った首袋を
受け取ったアテナ様はそう仰ると、
楯の中央にキビシスから出した首を当て、
神 力を流し、
楯に首を取り込ませた。
『戦女神の楯』は『戦女神の戦楯』と読みは同じだが、
若干、名称が変わり、メデューサの石化の視線[EX]の
効果が付与されていた。
というか、あの首、斬り落としてから
3日経つのにまだ生きてるな。
恐ろしい生命力だ。
「アテナ様、そのメデューサの視線で石化したものは
そのメデューサの目から取れる涙でしか元には戻りません」
「そうか、覚えておこう。お主はその涙を集めておるのだろう?」
「はい。そちらも献上しましょうか?」
「いや、その必要はない。涙はこの状態でもとれるからな。
廃神殿破壊の褒美の準備もできておる。受け取るがよい」
そうアテナ様が仰ると、
神子の傍仕えの神官が一対で魚を象った意匠の丸鏡を持ってきた。
「これは『双 魚 の 鏡』といって、
鏡を持つもの同士であればどんなに距離が離れていても
会話が可能で、鏡を通して声だけでなく、
相手の顔も見れるという優れものだ。
他にも特殊能力があるが、それは使ってみてのお楽しみだな。
これを贈ろう」
俺はそれを聞いて携帯を連想したが、
この世界に携帯がない以上、
このアイテムの希少性と重要性を認識した。
「ありがたく頂戴いたします」
俺の言葉に満足した笑みをアテナ様は浮かべられていた。
俺が『双 魚 の 鏡』を受け取ると、
傍仕えの神官は退室した。
「アテナ様に報告したいことが2つあるのですが、
よろしいでしょうか?」
「ふむ? なにか?」
俺はリリィに頼んで、
遮音の風魔法『風の壁』を展開してもらった。
「はい、1つは、件の錬金術師ティオとの勝負で、
まだ研究中ではございますが、
薬の効能にハデス様の領分を侵犯する懼れがあります。
未完成の薬品を野生動物の死骸に投与したところ、
魔物化して蘇生しました」
「本当か?」
「私たちも確認しております」
信じられないといった表情のアテナ様の疑念に
リリィが応え、ソフィが頷いた。
「そうか、とはいえ、今更中止と言う訳にはいかんな」
「はい。ですので、俺はこのまま研究を続け、
魔物にならないよう改善させます」
「お主は先程ハデス叔父上の領分を侵犯するやも知れぬ
と言ったではないか」
「はい。しかしながら、来る”大災厄”に備えるためにも、
不測の事態で強力な冒険者を失うわけにはいかないと考えます」
「はあぁ……言いたいことは分かった。父上も交えて、
薬が完成したら協議しよう」
「ありがとうございます」
アテナ様は苦い顔をされため息を吐かれたが、
ハデス様たちと話し合いの場をもつことを
約束してくださった。
「もう1つはメデューサの血には流れ場所によって効果が
異なることが分かりました」
俺はそう言って、
2つの異なる効果の血が入った瓶を取り出した。
「こちらが体の右側に流れていた血で、
そのまま使うと死んだものを蘇生する効果がありますが、
蘇生効果が強すぎるため、細胞が過剰に増殖し、
投与されたものは魔物に変わります。
先程申し上げた未完成の薬品はこちらの研究中のものです」
「こちらは体の左側に流れていた血で、
生きているものに使うと激痛で
悶え苦しんだ後に生命反応が消え、
魔物に変わることが確認できています。
死んでいるものには効果がありませんでした」
「ふむ……私がティオに渡したのは右側の血であったな?」
「はい。ですので、私も右側の血液で薬品の研究を進めています」
「この2つは貰っても構わぬか?」
「ええ、差し上げます」
俺はアテナ様に異なる効果をもつ
メデューサの血が入った瓶を献上した。
アクアポッドは血液の回収のを命令していたが、
効果が異なることを判断して、別々に集めて、
きちんと瓶を分けて入れるいい仕事をしてくれていた。
液体関連の素材収集で召喚し続けて、
『成分知識』と『分別作業』を覚えさせて、育てた成果だ。
余談だが、左右異なる効果の血液の実験には
死刑が執行された犯罪者の死体と死刑が確定している犯罪者を
対象にテイラーを始め、ポイエインの首脳陣の
合意の下で行っている。
全員同情の余地のない下衆だったので、
俺は遠慮する必要がない。
研究はまだ続くが、被験体の数はまだまだあるのは悲しいことだが、
平和に見えるカリュクスでも凶悪犯罪がある証拠だ。
このことを知っているのはリリィとイリア、ソフィ、
そして、サラだ。
ヘンリーとクリュサオルにはいつか話す日がくると思うが、
今は教えていない。
報告を終えた俺はアテナ様に一礼し、
リリィ達を伴って神殿を後にした。
「シオン様、双 魚 の 鏡は
イリア様にお渡しになるのがよろしいかと」
「そうですね。
あたしも賛成です。イリアさんはサンク王国に戻られるので、
シルフの中継も届きませんから、双 魚 の 鏡を渡しておいた方がいいと思います」
「分かった。そして、ありがとう。2人ともイリアを心配してくれて、
さて、ギルドの計算も終わっているころだろうから、報酬を貰って、
打ち上げの買出しに行こうか」
「「はい」」
俺は2人の気遣いに感謝を告げ、
ギルドで報酬を受け取り、従者2人とともに買出しのため、
カリュクスの商店街に足を向けた。
イリアは今夜、討伐の打ち上げをした後、一泊して明日、
俺がスレイプニルに乗せてサンク王国に送ることになっている。
その日の打ち上げは
リリィとソフィが腕によりをかけた料理が振舞われ、
オリヴィアを呼び、戸惑っているクリュサオルを交え、
盛大に行われた。
後半この世界で飲酒ができる年齢、
15歳を越えているヘンリーが酔って暴走し、
ソフィとサラに折檻された。
その様子をネクタルジュースを飲んで、
食事を楽しんでいるクリュサオルに見せ、
飲酒に関する教育を俺とイリア、リリィ、オリヴィアの4人は
クリュサオルにした。
こうして、賑やかで楽しい夜は更けていった。
御一読ありがとうございました。
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