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第1話 目覚め

サブタイトルが間違っていたので変更しましたが内容に変更はありません。


ルビは基本、1回したら以後は付けない方向です。例外として、この物語の独自読みだったり、小難しいと判断したものにはつけていきます。


※改行位置を修正しました 2015/05/17

…。

……。

………。



 目蓋(まぶた)に降り注ぐ鬱陶(うっとう)しい陽の光と青臭(あおくさ)い草の(にお)いで目が覚めた。

ううむ、どうやら寝落ちしていたらしいな。首と体を(ほぐ)して、……んん???


 俺は周囲を見回したが……何処だここ?

 見たところ森の中のようだな。

 VR(バーチャルリアリティ)と違って草木の(にお)いとか妙に現実味がありすぎる。

 そして、3歩ほど先にある物体は解像度が上がったというか、

細部までの書き込みがくっきりしているが少し見覚えがあるな。

……転移陣(てんいじん)



 落ち着け、落ち着こう、まずはこの状況を整理しよう。

 昨日、今日が休日だからと講義が終わってから夕食を済ませてすぐ、

ZFO(ゾディフロ)にログインして、いつもの狩場(かりば)

レベル上げ、レベルをカンストしてから狩場のボスをお気に入りの

フルボッコで倒して、サモナーにレベルリセットするために拠点近くの

”アルムの樹海”入口の登録ポイントに転移して、転職、

サブクラスと装備を整えて、寝落ちしたらVRの再現度が上がっていました……()せぬ。




 足元に生えている草を(むし)る。

 毒がないのを採取スキルで確認してから土のついていない葉の部分を

口に入れて咀嚼(そしゃく)、……口全体に広がる濃厚(のうこう)芳醇(ほうじゅん)な…苦味(にがみ)


 うえぇぇ、口からぺっぺと咀嚼(そしゃく)した草葉を吐き出す。


 そういえば、今日といってももう予定では終わっている時間だが、

大規模アップデートがあるという話があったな。

おそらく寝落ちしている間にバージョンアップされたんだろう。


 うむ、(つい)にVR技術はここまで来たのかと胸に広がる言いようのない感動。

 そうとわかれば、一旦ログアウトするか。

 ログアウト、ログアウ……。


 左手に着けているアイテムボックスを兼ねる【練者の腕輪】から

見慣れたメニューコマンドを開いて、表示される時刻表示を目にした瞬間、思考が凍った。



<<現在時刻 創空歴318年牡牛月9日07:28。>>



 創空歴(そうくうれき)はこの世界の(こよみ)であるが月日と

時間の流れは現実の流れと全く変わらない。

 昨日の、寝落ちする前に確認したとき、装備を整えたときは

確かに315年だった。

 寝落ちしてから3年が過ぎているだと!?


 俺は直後に知る、更なる非情な現実に戦慄(せんりつ)することになる。



 メニューコマンドからあるべき位置にあるはずのログアウト項目が

”なくなっている”!?




 数十分後。

 俺はアイテムボックスの中身を確認し、

収納しているキャンプセットのなかから、

簡易デスクとデスクチェアを取り出し、

設置してデスクの上にはアイテムボックスのなかから出した

ロイヤルミルクティーのボトルとティーカップ、サンドイッチの

入ったランチボックスを置き、ティーカップに注いだロイヤルミルクティーを1杯、ゆっくり口にして飲み下す。ひと呼吸おいて、もう一口。


 ZFOでのアイテムに食べ物は消費アイテムとして現実と同じ名称で

存在する。食べ物は食べると主にHPが飲み物は飲むとMPが回復する。

回復量はポーションなどと同じで熟練者の成功作の方が店売りより多い。

VRのときは食べても全く味はしないが口にすることは可能だった。


 人間、落ち着くためには立っているよりも座ってなにか飲み物を

飲んだり、食べ物を口にしたほうがいいとできた妹に言われたのを

思い出したのだ。


 次いで、サンドイッチを手に取り、食べて咀嚼して飲み込む。

 ふむ、改めて感じてみると、五感への刺激が現実と大差ない。

VR技術がいかに発達して、優れようともここまでの再現は不可能だと

感じるレベルだ。

 特にサンドイッチの具材の野菜の味覚再現は現実のと同じ。

 俺の知る限り、VR技術では味覚の再現が実用段階になっていないのだ。

最新の専門技術誌によると再現できても極端に苦い位しかできないらしい。

 もう一度、ロイヤルミルクティーを飲んで口の中に広がる

まろやかな味わいが心を落ち着かせる。

 ふう、一先ずこれは現実と認識しておくことに結論づける。


 混乱から立ち直り、とりあえず圧倒的に現在に関する情報が

足りないことに気づき、練者の腕輪のメニュー機能から

インフォログを確認する。


 このインフォログにはシステムメンテナンスやアップデート情報、

国の興亡など重要な情報が漏らさず表記されるのだが、俺が寝落ちした日

まで遡ってもあるべきはずのシステムメンテナンスやアップデートの情報が

一切ないだと!?


 2年半前に魔物の大量発生と魔獣大戦??

魔獣大戦終了後の2年前に各国で3年間の不戦条約の締結や、

その2ヶ月後にポセイドン神域内の国々とアテナ神域のポイエイン国間で

通商条約が結ばれたなどで、直近では半年前にアポロ神域と

アルテミス神域、アテナ神域で鉄道が開通したことがあった。



 アテナ神域の国は大戦以前は7ヵ国であったが、

今は生産のポイエイン国と農業のゲオルギア国、

大神殿がある武のサンク王国の3つにまで減っている。

 ちなみに、サンク王国は建国システムが導入されたときに

妹達のチームに所属していた俺が彼女らと一緒に作った国である。

【女神の祝福の神託】というプレミアムレアイベントによって

本来NPCの管轄である大神殿のある地を移譲(いじょう)されたのだが、

基本的にその土地の運営は不可侵領域に近い。

他の神域では大神殿のある土地はNPC管轄(かんかつ)の中立地帯

であった。

 眠っていた時間を除いて、1年前にいろいろあってサンク王国を

出ることになったが、現在所属している生産系ギルドのポイエイン国で

従者たちと不満のない召喚士を極める生活を満喫していたのだ。

その頃のサンク王国とポイエイン国、ゲオルギア国の関係は良くもなく、

悪くもないという関係だった。


 ZFOの世界では主神ゼウスが世界全体を支配し、

12神が住むオリンポス山を中心に大陸を分割して

12神のうち、5神が割り当てられた土地を基本的に支配している。

 その支配地の中には各神を祀る大神殿があり、

大神殿がある地に神都が置かれている。

 アテナ神域は前述のイベントで例外的にサンク王国の首都アテネに

なっている。

 まずありえないが、サンク王国が陥落した場合、大神殿はサンク王国を

打倒した国の支配下には入らないらしい。



 プレイヤーは国を興して土地を得てもいいが、神都に関しては不可侵で

国に最低1つ神殿を置くことが絶対条件であり、基本的に大神殿からの

依頼は断れない。これはサンク王国も例外ではない。


 神による土地の支配といってもその神を信仰する人間が住居を構え、

神殿ができたり、神官がいてはじめて土地の支配効果があるので、

信者同士の国家間戦争(信じる神が同じでも)で土地の取り合いが

定期的に行われている。個人の冒険者の往来は割と自由だが、

神同士の友好関係によって敵対や同盟が神域間で結ばれており、

土地によっては所属している神によっては様々な地形補正が発生する。


 また、オリンポス山の北東と5神が担当しない土地はゼウスの母である

大地母神ガイアの領域でガイア神域、もしくは魔物が住んでいるので

『魔物の領域』と言われている。


 現在地はアテナ神域とアルテミス神域の領境に近い

ポイエイン国の”アルムの樹海”。

 アテナ神域にあるフィールドダンジョンで推奨レベルは

基本職で10程度。

 出現モンスターはゴブリン系の初級ダンジョンでZFOのアテナ神域では

初級の狩場として有名な場所である。

うろ覚えであるが、樹海はオリンポス山の南に位置し、

最寄りの拠点はその東、アテナ神域の神都アテネは

オリンポス山の東南の位置にあったはず。


 ここにいても得られる情報が圧倒的に少ないので、拠点に移動するため、

ロイヤルミルクティーを飲み干し、サンドイッチは完食して、

出したアイテムを全てアイテムボックスにしまって、

俺は樹海の入口をあとにした。



御一読いただきありがとうございます。

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