第12話 敵は魔物だけではない?
いつの間にかオーバー6K PV達成!? 大感謝です。
ユニークも1K突破。ありがとうございます。
重ねて、ブックマーク登録・評価ありがとうございます。
対メデューサ戦の大規模戦闘といえども、
基本は廃神殿というダンジョン攻略となるので、
まずは肝心のメデューサまでの道を切り開かねばならない。
この廃神殿というダンジョンの構造だが、
正しくいうならば、
海を背にした小高い山に神殿の本殿があり、
その他の施設、街が麓に集中している形なのだ。
街には魔物どもが潜んでいることが分かっている。
そのため、神殿までの露払いをする必要があり、
それを引き受けたのが、第1陣を担当する冒険者たちだ。
彼等は自分達ではメデューサには敵わないという自覚がある分、
少しでも多くの小型・中型を倒して、換金できる魔物の死骸と
討伐報酬を得ようと必死である。
故に防御が疎かになり、攻撃を受けてしまう。
「いて、このやりやがったな!」
「ちくしょう、まだ、俺は……」
「おい、しっかりしやがれ!、っと、この野郎!!」
雑魚とはいえ、数が多く、小さい傷がどうしても累積してしまう。
前衛の1人が不覚を取って、誰かが倒し損ねたオークによって、
深手を負い、膝を着く。隣にいた重戦士がそれを庇い、叱咤する。
このまま、最初の犠牲者になるかと思われたのだが、
次の瞬間、後衛の回復魔法が間に合い、傷が跡形もなく消え去り、
前線に戻っていった。
後方の魔術師職や弓使いたちは前衛が押さえているため、
先に進めずに立ち往生している敵の後衛に魔術や矢による
遠距離攻撃でその数を減らしていった。
余談だが、討伐した魔物に関しては、死神たちによって、
魔物の死骸の討伐部位に倒したものの名前が刻まれる。
ギルドの鑑定員たちは死神に刻まれた名前をスキルで確認し、
もし、提出者の名前が討伐部位と一致しない場合は
事情聴取が行われ、横取りが発覚したら、
最悪、冒険者資格を剥奪される。
序盤の外周区での戦闘は予想通りの展開になった。
オークやゴブリンなど小型に分類される魔物の数は
想定されていた数を超えて50に達していた。
数人の負傷者をだしたが、殲滅が完了、
外周区の制圧が完了した。
「第1陣の負傷者は下がれ!
軽傷でも手持ちのポーションを惜しむなよ。
残った第1陣の者はそのまま担当する方位の制圧へ当れ!
第2陣は神殿へ向けて慎重に進め。
第3陣は第1陣のフォローに回れ」
『拡散』によってガーヴィンの指示が行き渡る。
「兄貴いよいよ俺達の出番か?」
「ああ、俺達の担当は神殿入り口に近い北西地区の制圧になる」
「中型の人食い鬼の集団が確認されているから
油断は禁物よヘンリー」
「分かった。姉ちゃん」
「シオン様、ガーヴィンさんから進攻許可がおりました」
「了解だサラ。行くぞみんな!」
「「「はい!」」」「おう!」「ん!」
俺達は第3陣の待機位置から北西へ移動を開始した。
「はぁっ、はぁっ、おっと! これでどうだ!?」
「踏み込みが浅いぞ、ヘンリー。
オリヴィア、ヘンリーとカウント3で交代、
リリィは『風刃』で牽制して交代補助、
ソフィはオリヴィアに『大気の防膜』、
サラはヘンリーにスタミナポーション投与。
カウントいくぞ!
3、2、1、今!!」
「風刃!」
「風よ守れ!」
「ん!」
「おうっ!」
「ヘンリーこれを被って反省しなさい」
「うぉ、つめて、すまねぇサラ」
「イリア大丈夫か?」
「ええ、まだ大丈夫よ兄さん」
戦女神の楯を装備したイリアに壁役を頼み、
中衛にヘンリーに攻撃役、オリヴィアをヘンリーの交代役、
リリィが遊撃、ソフィが支援と遊撃、
後衛にサラが回復、俺が管制という
役割分担で構成した今回即興の布陣は連携の練習も兼ね、
順調に北西にあった劇場を制圧。
根城にしていた中型の人食い鬼の
3匹1組5集団を着実に葬っていった。
このなかで一番運動量が多いのは攻撃役をしている
ヘンリーとオリヴィアだ。
ソフィ達3人の鍛錬目的もあるため、
イリアには防御に徹してもらい、
ヘンリーを攻撃の主軸に、
オリヴィアをその交代要員、
ソフィとサラには支援と回復のタイミングを
覚えてもらっている。
オリヴィアを交代要員にしたのは
戦闘中でもヘンリーに指示を聞く癖を
持たせるためだ。2人を攻撃に当てればすぐに
倒せるが、それでは今後に活きない。
最初の3匹は冒険者として依頼をこなしていた、
ソフィ、ヘンリー、サラの3人での戦い方を見せてもらった。
配置はヘンリーが前衛、ソフィが中衛で遊撃、
サラが回復と支援という配置だった。
しかし、ヘンリーが壁役と攻撃を同時にこなそうとしたため、
1匹を抑えきれず、抜かれて、後衛のサラがピンチに陥った。
しかし、フォローに入ったイリア、リリィ、オリヴィアの
3人の連携と俺が召聘したダークナイトの一撃によって、
その人食い鬼は瞬時に地に沈んだ。
俺はソフィたち3人をさげて、観戦して学ぶよう促し、
残る2匹を前衛壁役にイリア、中衛に攻撃役にオリヴィア、
サポート兼回復役にリリィを配置して手本を見せた。
俺を除いた全員の意向で俺が考えた布陣で進むことが決まり、
前述の布陣を捻出したのだ。
この布陣は見事に型にはまり、集団を屠る毎に
ヘンリーは着実に他のメンバーと連携することを覚え、
人食い鬼を倒していった。
最後に残った人食い鬼の苦し紛れの
手に持った棍棒の1撃を
イリアが紙一重で回避して、振り下ろされた棍棒を
手に持った神剣で断つと、
リリィは『風矢』で右足を射貫き、
ソフィは『風刃』で左足を切り落とし、
ヘンリーが左腕、オリヴィアが右腕を斬り落とし、
サラが眉間を矢で射貫いて、哀れな人食い鬼は
地に伏した。
討伐部位を確保したあと、素材をアイテムボックスに入れ、
残りを穴に埋め、魔物が再発生しないように結界石を置いて、
安全圏を構築し終えた俺達はガーヴィンからの伝令によって、
神殿に進んだ第2陣の増援として向かうことになった。
伝令を見送ったあと、大通りに出たところで、
俺達は2グループ12人の冒険者達と鉢合わせした。
彼等は神殿へ続く道の前に固まっていた。
全員、剣を手に持っているのは魔物との戦場だから分かるが、
こちらに剣呑な視線を向けている。
ヘンリーが前にいる重戦士の横を通ろうとしたら、
その重戦士は盾でヘンリーの通ろうとした道を塞いだ。
「なにするんだよ!?」
「あんたらはこの先に行く必要はないよ。
大人しく投降すれば、痛い目を見ないですむ。
さあ、武器をそこに置きな!」
後ろに飛び退き、抗議するヘンリーに
グループのリーダーらしき女が
投降を促してきた。
このグループの面子の顔に見覚えはないが、
気配に覚えはある。馬車で俺達を監視していた連中だ。
目的はエルフのリリィとソフィ達、銀狼族の身柄で、
アレス神域まで連れて行って、
奴隷として売りさばくといったところか。
イリアの素性もバレていれば、併せてイリアの暗殺、
もしくは拉致の線も考えられるのだが、
双子座の仮面の効果でわかってないようだ。
視線がイリアに全くいかない。
実に分かりやすい。
ようやくかという待ち望んでいた思いと、
このタイミングで仕掛けてきたかという、
億劫な気分がここまで溜まったストレスに引火したのを自覚した。
「リリィ、ソフィ、
すまないがヘンリー達を連れて、
先に進んでいてくれ。
イリアと片付けて、すぐに追いつくから。
神殿には何があるか分からないからくれぐれも慎重にな」
そう言って俺はダークナイトを2体召聘して、
出現した腕が持つ大剣の腹で横殴りにして、道を塞いでいる冒険者たちを
強引に吹き飛ばして道を作った。
突然の事態になす術なく豪快に吹っ飛ばしたが、
殺しはしない。まともな冒険者であれば軽傷ですむレベルの攻撃だ。
「……分かりました。シオン様ご武運を」
「兄貴。俺も残るよ……」
「こら、ヘンリー、マスターと約束したことを忘れたの?」
「うっ、ごめん兄貴、姉ちゃん。先に行って待ってるから」
「では、シオン様、先にいかせていただきます」
「気を、つけて」
「ああ。いけるな? イリア」
「もちろんです。兄さん」
俺が作った道を一礼して、駆け抜けていくリリィたちを
俺とイリアは落ち着いて見送った。
おくびにも見せない笑顔を湛えているが、
イリアもストレスが溜まっているのは分かっていた。
壁役で攻撃を受け続けていたからな。
本来、イリアは前衛の攻撃役を担うのが、
PT編成で最善手で定石なのだが、
今回の雑魚掃討では冒険者の先達として、
ヘンリーに役割を譲ってもらったのだ。
「お前ら、たった2人で俺等を相手しようってのか?」
「身の程ってやつを教えてやるぜ。
よく見ればそっちの女はいい体してるじゃねぇか」
「ちっ、さっさとこいつら殺って、あいつら追おうぜ」
「おい、見ろよ、あっちの女騎士が持っている剣、
売れば白金貨クラスじゃね?」
「おお、一気に大金持ちだ!!」
態勢を立て直したゴロツキどもが
薄汚い雑音を立てているのが
耳に入って不快な気分になった。
横をみるとイリアも同じ感想を抱いているようだ。
端整な顔が苦笑いで引き攣っている。
「兄さん、先に殺っていいですか?」
「ああ、壁役やって溜まっているのだろう?
半分は任せる。こっちは久しぶりにアレ(・・)と
ケルベロスを出す」
「まぁ、それはこっちも負けていられませんね」
「お前ら俺等を無視するとはいい度胸じゃねぇか!
みんなやっちまえ!!」
俺と笑顔のイリアが談笑していると、
俺たちと下衆集団の間に立っている命知らずがなにか吠えた。
瞬間、風が走って、その男は首と胴が
永久に泣き別れした姿を晒していた。
イリアの身体はその死体を通過して、勢いを殺さず、
俺が2つに分断した片方の集団に向かっている。
「リリィさんたちを奴隷として売ろうとしたばかりか、
私の数少ない楽しみである兄さんとの会話を邪魔する
蛮行を死んで悔い改めなさい」
イリアは表情が抜け落ちた顔で淡々とそう言いつつ、
憂さを晴らすように、
身の程知らずの愚者たちを断罪していく。
こちらも負けていられないな。
俺は左掌に通常の召喚陣を作成し、
右掌に召喚スキル【セフィロトの召喚陣】を作成した。
左手を手前に重ねて二つの召喚陣を合成、展開して、
『ケルベロス』を召喚し、好物の蜂蜜サンドを与え、
イリアのフォローを頼んだ。
了承の一吠えのあと、巨体が跳んだ。
ケルベロスが向かうのを確認しないで、
そのまま俺は次の召喚に入る。
通常の召喚陣でダークナイトを召喚し、
上級召喚スキル【アルカナの盟約陣】を展開し、
ダークナイトに重ねた。
ダークナイトはその鋭利だった鎧を更に鋭くし、
全身が凶器の様相に変わり、
武器を失っても籠手で、膝当てで、肘当てで、
踵で、つま先で、手足を失っても頭で、
敵の息の根を止めるという姿に変わり、片手に1本だった
漆黒の大剣は片手に1本ずつ持つ二刀流になり、
体格も2回り大きくなった。
俺のとっておきの1つ暗黒卿。
【暗黒卿:
暗黒騎士が成長し、深化した姿。
四肢を失ってもなお、戦い続ける執念が身に纏う鎧に
多大な変化を与え、更なる苦痛を敵に与えるにふさわしい姿になった】
召喚可能枠は1体だけで並の魔術師ならば、
空になる量のMPを喰うのだが、その分戦闘能力は高い。
俺はダークナイト2体をダークロードに
追従させる部下として召喚した。
ダークロードから黒いオーラが伸び、
2体のダークナイトに繋がった。
3体が向かった集団はダークロードの威容に
腰が引けていたが、
獲物を見つけた殺戮の武具精霊たちに
彼等を見逃す慈悲はない。
ダークロードを召喚した場合、
俺が召喚できるダークナイトの数は最大15に減る。
単純に見ればダークロード1体がダークナイト5体分に考えられる。
しかし、ダークロードのもつ2つの固有能力の1つ【戦友への凶力】によって、
味方PTの攻撃力は+50%加算され、
もう1つの固有能力【配下への指揮】によって、
指揮下に入った配下のダークナイトのステータスに
更に+25%が加算される。
実質、5体以上の凶悪な性能をもっているのだ。
深化条件はそれに見合う過酷なものだったが……。
「あんたら、こんなことしてただですむと思って……」
ふと見れば、ぼろぼろな姿で、
俺たちに投降するよう言った女冒険者が
全身から血を流しつつ、荒い息をしつつ立っていた。
その言葉に俺は苦笑いを浮かべ
……彼女には仮面で見えないかもしれないが、
「思っているさ。俺たち、お前たちは冒険者だろう?
魔物に殺されるのは日常茶飯事。
しかも、お前たちアレス神域の冒険者は例外はいるが、
手柄や金のためなら味方も平気で殺すのだろう?
そして、お前たちはその例外ではない。
……見た所、随分と他所の神域でも好き勝手奴隷を集めて
連れ帰ったようだが、それも、ここまでだ」
「……どうしてそれを?」
アレス神域には片手で足りる数しかいないが、
俺の冒険仲間がいる。彼等は、彼等の国は奴隷は認めているが、
拉致や奴隷への暴行を積極的に取り締まっている。
俺が知るはずもないと思っていたことを口にしたことで、
女冒険者が驚いていたので、俺は人差し指と中指で挟んだ
彼女のギルドカードを見せた。
知っている人は知っていることだが、
ギルドカードには入出国履歴情報も記載されているのだ。
「っ!? いつの間に?」
「呆れるほど隙だらけだったからな。
これは証拠の品として、然るべきところに提出する。
安心していい、君の仲間は君も含めて全員同じ場所に送ってあげるから」
懐をあさり、ギルドカードがないことに驚愕する女冒険者。
注意不足を指摘する俺の肩には俺が召喚したシルフが1体
腰に手を当てて胸を張って得意げに立っている。
そのシルフに俺はギルドカードをとってきたお礼として、
ネクタルドロップを1粒渡した。大喜びでシルフは食べ始めた。
「このおおおおおおお!」
「やれやれ、ここは戦場だということを忘れてないか?
俺のこの隙だらけの行動が釣り餌だと考えもしないのか?」
激昂して手に持った剣を振りかざして、
襲い掛かってきた女冒険者は俺の言葉の意味を理解すると、
自分に差した影に気付き、おそるおそる振り返る。
次の瞬間、その背後に立っていた黒い巨体が
両腕に1本ずつ持つ大剣から繰り出した無慈悲な1撃たちが
女冒険者の両腕を斬り飛ばし、
続く2つの影が両側から首と胴を薙いだ。
辺りに赤い液体を噴き上げる肉体が出来上がり、
物言わぬ肉塊が転がっていた。
少し離れた所で全ての敵冒険者たちを殲滅して、
死体処理を終えた全く息きらしていないイリアが
ケルベロスを撫でていた。
ケルベロスも気持ちよさそうにされるがままになっている。
俺は死体から使えるものを回収し、
不死者化を防ぐ焼却処理に覚えている
神聖属性の魔法、聖炎を使った。
白い聖属性をもつ炎が異臭を放ち始める肉塊全てを包み込んだ
こちらが終わったのに気付いたイリアは
俺のところに駆け寄ってきた。ケルベロスもその後に続いた。
「終わりましたね。兄さん」
「ああ、怪我はないか? イリア?」
「もちろんです。ケルベロスが背中を守ってくれましたから♪」
「そうか。ありがとうケルベロス。これは褒美だな」
俺はイリアに怪我がないか念のためイリアに尋ね、
ケルベロスに褒美として好物の蜂蜜サンドを与えた。
「ご苦労だった。ありがとう」
俺の労いの言葉にダークロードは恭しく礼をして、
ダークナイトたちと共に送還した。
蜂蜜サンドを堪能したケルベロスも
尻尾を大きく振ってご満悦のまま、
還っていった。
「リリィたちが心配しているだろうから、先を急ごう」
「はい。その前に、兄さんこれ飲んで下さいね。
あと、これはさっきの冒険者たちの持っていたものです」
「ん? ああ、ありがとう」
「さあ、急ぎましょう!」
俺はイリアに笑顔で渡されたMP回復用のマナポーションを
服用し、イリアが回収していたアイテムを受け取った。
そして、俺はご機嫌なイリアに手を引かれつつ、
リリィたちの後を追いかけた。
御一読ありがとうございました。
きりがいいのでここで区切ります。
次はいよいよボス戦に突入する予定です。




