第6話 なぜなに?
誤字・脱字・改行修正しました。
いつもお読みいただきありがとうございます。
「災厄?
そういえば、昨日、予言がどうとか言っていたな?」
「ああ、それについて、正確に言うなら予言ではなく、
神託だな。昨日一緒にいたリリィの嬢ちゃんに勘付かれないためにな。
昨日、シオンとリリィの嬢ちゃんが来る前にイリアの嬢ちゃんと
アテナ様が到着して、そのまま俺の屋敷に来られてな。
時間指定して、シオンが活きのいい門番を一蹴して屋敷に来るって、
神託出されて、その通りになったって訳よ」
テイラーの言った不吉な言葉に昨日言っていたことに対する疑問を
口にした俺にテイラーが陽気に答えた。
「うむ、まぁ、あの程度であれば神託として出さなくとも私の言を
信じてくれたとは思うがな」
こともなげに笑うアテナ様……アテナ様に憑依された神子か。
いや、神子に憑依したアテナ様か。微妙にややこしいな。
アテナ様でいいか。
と俺が益体もないことを考えつつ、
それまで着けていた仮面を外すと、
不意にアテナ様の視線が俺とイリアの顔を行き交った。
「おお、久しぶりに見るが、まだイリアとそっくりだな。
そこまで歳を重ねて、なお似ているというのはやはり珍しい」
「コホンッ、アテナ様……」
「ああ、すまぬ。あれ以来二人揃ったところを見たのは
久しぶりなのでな」
顔をほころばせるアテナ様を窘めたイリアだったが、
その反撃に押し黙ってしまう。
俺は気にしていないのだがな。
と口にしたかったが、空気が変わった。
「さて、まずは、テイラーとイリアには悪いが
先に私の用事を済まさせてもらうが、
良いか?」
問われた2人が頷くのを確認し、
長い話になるからと全員を応接室にある椅子に座らせて、
アテナ様は話を続ける。
「此度は私の、私達の所為で多大な迷惑をかけた!
すまぬ!!」
へ?
直後に、いきなり女神様に大きく頭を下げられて謝罪された。
いやいや、神様がいきなり頭下げるってどういうことだ?
俺が突然の事態に呆然としているとアテナ様は言葉を続けた。
「シオンは薄々気付いていたかもしれないが、
この世界、[Zodiac]はシオン達が住んでいた世界とは
遥か遠い昔、神話が生まれるよりも前に
分かたれた可能性の1つが行き着いた世界。
シオン達の世界でいうところの、限りなく遠い、
並行世界というものだ」
どうやら、俺がこの世界は現実であるという認識は
間違っていなかったということか。
そのことに少し安堵した。
「本来ならば、シオン達がこの世界に来ることは
絶対に不可能なのだが、
このZodiacを未曾有の巨大な災厄が襲うことが
プロメテウスによって予言され、
更に悪いことに幾つもの不幸が重なってしまったのだ」
「プロメテウスとは先見の明を持つというあの神ですか?」
俺はZFOがゲームのときにイベントの攻略のためと、
召喚獣の情報を得るため、彼の元を何度も訪れていたのだ。
「ああ、彼が言うには巨人族の怪物の王によって、
この世界の全てが破壊され、Zodiacは滅びるらしい。
これは私達が神が住んでいるオリュンポス、冥府を含めた全てだそうだ。」
「この世界が滅びるということはこの世界に住むものたちは死ぬ
ということですか?」
「いや、シオンが考えている『死』というのとは違うな。
他の世界での認識とは違い、
このZodiacでの一般的な『死』は
なんらかの形で『肉体の生を終えた』あとに
冥府の門で記憶を失い、冥府に行き、
ハデス叔父上の元で冥府の住人として過ごすことになる。
何らかの功績を成した者にハデス叔父上とペルセポネ叔母様が
褒美として転生の機会を与えることがある。
罪人たちは冥府の門から罪を悔いさせるため、
記憶を奪われず地獄に送られ、
魂が消え去るまで苦痛を味わい続けることになるがの」
アテナ様はプロメテウスの予言に憂いを見せ、
俺の『死』の疑問に丁寧に答えてくれた。
罪人たちの下りで黒い笑いを一瞬浮かべたように見えたが、
俺は見なかったことにして説明の続きを聞いた。
「テュポンによる破壊はその死後の冥府すらも破壊する。
そうなると必然、ハデス叔父上達の世界も破壊される。
すなわち、魂の行き場がなくなるのだ。
行き場のなくなった魂はやがて『消える』。
私達、神は人間たちの信仰を糧にしているから、
信仰する者がいなければ私達も『消える』運命から
逃れられぬ」
寂しそうにそう笑ったアテナ様は
テイラーが淹れた紅茶から自分の分を取り、口にした。
「話しが脱線してしまったな。
次に、起こってしまった不幸に関してだが、
私達はプロメテウスの予言を回避する方法を神々全員で探した。
ゼウス(おとう)様がプロメテウスの予想を阻止した前例がある以上、
予言の回避も可能だからだ」
俺はゼウスがプロメテウスの反乱を未然に防いだ話と
ゼウスをはめようとして失敗した話しを思い出した。
「数多の方法を試み、多くの失敗を繰り返していたなかで、
魔女ヘカテが私達の影響力がほとんど失われた遠い並行世界で
自分の僕である魔女たちに自分の魔術を組み込んだゲームを作らせた。
そのゲームでプレイヤーを冒険者としてこのZodiacに間接的に召喚し、
発生する魔獣の討伐や未開地の問題解決、神の代理戦争を任せ、
来るべきテュポンとの戦いに備えていたのだ」
「そのゲームが『Zodiac Frontier Online?」
「ああ、そうだ。よくできていたであろう?
ゼウスお父様の許可の下、
私とアポロン兄上、ハデス叔父上が協力していたからな!」
俺の問いに頷き、アテナ様は
ご自分が作成に関わっていたことを誇示された。
イリアとテイラーを見る限り、既に知っていたようで、
驚きの表情はない。
俺は芸術の神であるアテナ様と音楽の神であるアポロンが
関わっていたことにグラフィックと音楽の見事さから、納得がいったが、
冥府の王であるハデスが協力していたことが意外だったため、
表情に出てしまった。
「意外か? その【練者の腕輪】とステータス、システム関連は全て、
ハデス(叔父上)が作られたのだぞ。」
俺は自分の右手にある腕輪を一瞥して、
召喚獣とクエスト関連で何度か冥府へ行き、
ハデスに面会したときのことを思い出す。
顔は美男子で性格は真面目で几帳面。幸薄そうではあるが、
小さいことをコツコツ積み重ねることが得意な愛妻家の顔を
思い出した。
「ZFOを使った計画は実際、順調に上手く進んでいたのだ。
バグ潰しに、神域担当がGMとして
数々のイベントクエストに参加して消化、
システムの更新、ストーリークエスト・グランドクエストの設定。
3年前のあの日、計画は第2段階の終盤に入り、
最終段階に入るところであった。
そこで取り返しがつかないことが起きてしまったのだ」
アテナ様はそう言うと苦々(にがにが)しい表情をみせた。
「全ての魔物の母であるガイアお祖母様にプログラムをハッキングされ、
魔術言語と魔術方程式を改竄され、
シオンたち、向こうの世界の冒険者の魂はZodiacに引きずりこまれたのだ」
「なぜガイアは俺達をこの世界に引きずりこんだのですか?」
「それは人の魂の絶望が魔物達の糧であり、テュポンの糧でもあるからだ。
魂の根本は世界共通。質も必要だが、糧は量で補うこともできるからな」
バケツの中の水が足りないなら、他のバケツの水を入れればいいか。
俺はアテナ様の言ったことに納得した。
「ゲームのときに五感の再現が曖昧だったのは、
分かりやすくいえば、無線通信の様に世界を隔てて、
こちらの身体を動かしていたからだ。
しかし、その冒険者の身体も全てハッキングされたときに
接続霊子を破壊されてしまい、
悪用されるのを防ぐため、全て破棄し、こちらの世界に来た冒険者達は
魂の状態でZodiacに来たため、
魂を管轄するハデス叔父上の冥府に一旦預けられたのだ。
冥府にいる限り、テュポンとの戦力として使えず、
だからといって、このままでは全てが消滅してしまうので、
最終的にゼウスお父様の命令の元、ハデス叔父上主導で
冒険者たちの復活が行われ、新しい身体を作ることになったのだが、
そこでまた問題が起きたのだ」
「問題?」
「ああ、こちらに来た全ての魂に元の世界そのままの身体を与えては
ゲームのZFOの時とは違い、この世界で生き延びることはほぼ不可能。
幸い、ZFOのバックアップが無事だったから、
その中のキャラクターデータベースから、
身体を構成することになった。
だが、数が膨大なため、ハデス叔父上に加え、ヘカテ、
プロセルピナ叔母上が手伝ってもすぐには終わらず、
冥府にも他に仕事があるため、作成に限度があり、
復活させる人物ごとに所属が違うのも問題となって、
勢力毎に決められた戦力値を基に復活させる人員の優先順位を申請し、
冥府側が戦力の均衡を調整して復活させることになったのだ」
そう言ってアテナ様は再び紅茶を口にして一息つかれた。
「その準備が整う前にガイアお祖母様は
侵略を開始し、私達が張っていた結界をいくつか破壊して、
民に恐怖と絶望を与え始めた。
私達、神はガイアお祖母様との取り決めで、
直接魔物を倒すことができない。
そのため、私達は協力して、大神殿に神託を送り、
連合軍をつくり、遠征軍を派遣して魔物を迎え撃った」
「それが魔物大戦?」
俺の言葉にアテナ様が頷いた。
「テール・マキアは当初、アレス(ばか)兄と
ポセイドン叔父上の神域を3割、2割魔物に占領されてしまった後、
膠着状態になり、しばらくしてからようやく、
むこうの世界の冒険者たちの復活が始まったのだ。
私は事態打開のため、自軍の総司令官としてイリア、
兵站確保と前衛にテイラー達、そして、切り札として、
シオンを投入しようとしたのだが、
シオンのコストが高く、決められた数値を大幅に上回り、
戦力の均衡上、復活を後回しにせざるを得なくなったのだ」
その戦いで俺が出ていれば、
もっと救えた命があったのであろう。
アテナ様は悔しそうに拳を強く握っていた。
「私達は復活させた冒険者への状況の説明とともに謝罪をし、
協力を要請した。
結果、皆、私達に協力してくれることを約束してくれた」
「俺が復活に3年遅れた理由は一体?」
「その件については、覚えていないだろうが、
シオンのことをハデス叔父上達がいたく気に入ってしまったのだ。
冒険者達の復活を何人かの魂に手伝わせたのだが、
シオンが一番手際が良くて、復活させて冥府からいなくなると
作業の効率が大きく落ちるのが分かったため、後回しにされたのだ」
アテナ様のその言葉を聞いて俺はもちろん、イリアとテイラーも
驚いていた。
「そのあとも、再三、復活の催促はしていたが、
なかな代わりになる人物がいなくて、
結局、一番最後になってしまったのだ。
皆、復活の際に冥府にある知恵の泉の水を飲んだため、
冥府にいたときの記憶は上書きされ、
結果として3年間の記憶に空白ができてしまったので
眠っていたことにした訳だ」
「では、俺の復活以降、向こうから来た冒険者の復活はないのですか?」
「ああ、シオンが最後だ。他に何か質問はあるか?」
一通り話し終わったアテナ様はまた紅茶を優雅に口にして、
質問を受け付けてくれると言ってくれた。
俺はシルフを召聘し、【風の壁】で俺とアテナ様を
覆うように囲ませた。
「ではいくつか質問します」
「うむ。召聘して防音するとは念の入った警戒だな」
「ある意味プライバシーの質問もありますので」
「まぁ、いいだろう。
分かりやすいよう可能な限りYes、Noで
答えよう」
「お願いします。では、
俺達は元の世界に戻れますか?」
「条件付でYes.
魂が刻んできた記憶、経験とその肉体といった
全ての記録をこちらに置いて魂だけなら、
元の世界の輪廻に戻れるかもしれない。
ただし、次の向こうでの生が人である保証はできないし、
今はガイアお祖母様が世界間の回線を封鎖しているのと、
回線が開いてもゼウスお父様とハデス叔父上の許可がいるから、
実質Noに近いが0ではない」
俺はその答えから元の世界への、元の生活への帰還が
限りなく不可能なのを悟り、
次の質問に移った。
「この世界ではZFOのシステムは全て活きてますか?」
「No.
全ての転移陣にまわしていた龍脈の魔力を
一部結界強化に使用したため、転移陣の使用ができない。
他に死亡して、冥府から来た死神に連れて行かれると、
冥府の法律に従ってもらう。
システムには一部使用不可。もしくは変更がある。
詳しくは後で個別に確認したほうがいいだろう。」
なるほど、転移陣が発動しなかった真相はそれだったのか。
ここで使えないシステムの個別確認をして時間をとるよりも、
質問して確認を後に回すほうが賢明だと俺は判断した。
アテナ様が神子に憑依して、
表に出ていられる時間に限りがあるからだ。
「ゲームだったときよりも契約できる召喚獣は増えていますか?」
「Yes.
正確な数は不明だが、確実に増えているといっていいだろう」
「むこうの世界にあった食物や植物はこちらの世界にありますか?」
「条件付でYes.
日本人が主に食べていたものはこちらにも存在するし、
既に市場に出回っている。
ただし、むこうの世界で交配による品種改良の末に
できたものに関してはその限りではない」
「俺達、向こうの世界からの来訪者が
この世界で子供を作る場合、子供は生まれてくるのですか?」
「Yes.
相手が生殖方法が同じ種族なら、
人族同士はもとより、亜人類、
この世界に召喚された者同士でも可能だ」
その言葉に心のなかで少し安堵する。
リリィとのこともあるが、
兵力として、戦争で一定水準以上の物量は
どうしても必要だからだ。
嫌な考え方だが、
テュポンの襲来がいつか分からないため、
一定の戦力の補給は必須で、
長期的にみると、
それが可能なのが分かったのだ。
できるならば数に入れないで済ませたい。
話し声が聞こえていないはずなのに
テイラーの顔がにやけているが今は気にしない。
俺は質問を続ける。
「今の肉体に元の世界の遺伝子情報は含まれていますか?」
「No.
ゲームのZFOで種族を人族以外で選択した者には
復活後どちらかを選択させている。
元々人族を選択している人たちにもステータスに合った
遺伝子レベルの調整をしているから、
元の世界の遺伝子情報はない。元の世界で兄妹であろうと、
2人の子供に奇形児が生まれるリスクは他の夫婦と同じだ」
俺の質問にそう答えたアテナ様は
何故か満面の笑顔を浮かべていた。
御一読ありがとうございました。
長くなったので一旦ここで切ります。
会談はまだまだ続きます。
見た目に似合わずテイラーさんは
料理スキルが高いです。
故に紅茶も上手く淹れることができます。
次話の進捗は活動報告をご確認ください。




