第4話 月が綺麗ですね!?
※誤字・脱字・改行修正しました。
テイラーの館を出た途端、空腹で腹が鳴った。
昼食は既に完全に消化しているし、拠点を出る前に
リリィに淹れてもらった紅茶2杯の時点で小腹が空いていた位だ。
このZFOの世界には24時間営業しているコンビニのような
便利な店はない……ん? ないなら作ればいいのでは? という考えが浮かぶが、
まずは目の前の食事をすることを主張する自分の腹を黙らせる必要がある。
時刻は19:20少し過ぎ。この時間では食材を売っている店は全て閉まっている。
幸い、俺のアイテムボックスのなかには朝に狩った
ステッペン・ボアの肉がまだ残っているので、それを焼くか。
自分の拠点に無事到着し、中に入るため鍵を出そうとしたら、
リリィが鍵を開け、先に入っていった。俺も続いて中に入ると、
「お帰りなさいませ。シオン様」
リリィが笑顔で迎えてくれていた。
「ああ、ただいま」
少し驚いて、思わず気のない返事になってしまったが、
ようやく戻ってきたときに誰もいなかったことを思い出し、嬉しかった。
リリィもそのことを気にしていたのだろう。
「お夕飯はなにになさいますか?」
「カリュクスに戻ってくる前にステッペン・ボアを狩って、
その肉があるから、それを食べようと思う」
「分かりました。調理してきますので、食材をお渡しください」
「2人で料理したほうが早くないか?」
「いけません! 主人に料理をさせる従者がいますか!!」
「そうは言ってもな……早く食事をしたいのは確かだから、
人手があれば別だけれど、今はリリィ1人だけだろ? 俺も手伝うよ」
「……分かりました。台所に参りましょう」
リリィの質問に先程考えていたことを告げると彼女は食材を渡す様に行ってきたが、
俺は早く食事がしたいくらい空腹が進んでいたので、手伝うことを口にすると、
リリィは反論してきた。
しかし、人手不足と自身の空腹を突破口に少々強引に説き伏せた。
少し不満そうだったリリィが新鮮だった。
ゲームのときにリリィの食事を食べたことは実は両手で足りる数しかない。
理由は単純で、俺はサンク王国にいたときは基本的にリリィに事務仕事と
作成したアイテムの管理を任せ、召喚獣との契約やレベルアップ、素材集めに
弟子のソフィと共に出ており、ポイエイン国に来てからは店の管理を任せていた。
そのため、俺が食事を摂るときは大抵、狩った食材をその場で調理するか、
狩場近くの街や村の食堂で済ませていた。
リリィの料理の腕は正直分からない。ゲームのときは味覚再現がなかったからだ。
無粋極まりない推測になるが、
数回食べたときのステータスの回復状況を鑑みると、
不味くはないようだ。
台所に着き、リリィは付け合せに使う食材を出し、
俺は調理台に血抜き処理などを終えているボア肉を出した。
結構いい大きさのを出した。
リリィもその大きさに少し驚いた様子だったが、
すぐに手際よく調理を始めた。
メインを彼女に任せ、俺は付け合せを切るなど下ごしらえに回った。
しばらくして、調理は終わり、ステッペン・ボアのステーキが完成した。
ソースは驚いたことに醤油をベースにした和風だった。
それにサラダとパンが食卓に加わった。
従者だからと、一緒に食べることを渋るリリィにあまりしたくはないのだが、
命令して一緒にできたてのボアステーキを食べる。
ほどよく焼けた肉の食感と肉汁がソースに引き立てられ、口のなかに広がる。
うん、美味いな。リリィの料理の腕が確かなのを知り、
付け合せの玉葱やポテトも口に運んで食事を堪能した。
食べ終え、ご馳走様といった俺にリリィは目を瞬かせたが、
俺の食べ物への感謝を示す習慣だと説明すると納得をしてくれた。
食事のあと、応接室で俺はリリィに紅茶を淹れてもらい、椅子に座って、
食材に関することを尋ねた。
「はい。山菜や野菜、小麦、大麦、大豆、小豆、
コメ、ソバといった作物と鶏卵はゲオルギア国で生産されたものが
鉄道と馬車によって神域内を輸送されています。
ショウユやミソ、ビネガー、カレーといった調味料に関しては
テイラー様達行方不明だった方々がこのカリュクスで生産して、
神域内外の国に輸出しています」
なるほど、米、醤油、味噌は日本人には必需品だからなと納得する。
魔物を狩って、その肉を売買もしくは食料とするこの世界において、
安定した食料自給は肉が手に入らなかったときの保全策にもなる。
小豆、米、蕎麦は元プレイヤーがみつけたらしい。
紅茶を飲みつつ、合間に茶菓子を口にし、話しがひと段落したところで、
俺はリリィに向かいの椅子に座ってもらった。俺の気配から感じたのだろう、
リリィは何も言うことなく椅子に座った。
俺はリリィが座ったのを確認すると、それまでの躊躇いを断ち切り、
言うべきか悩んでいたことを言う決心をした。
「俺がこれからリリィに言うことは信じられないことだと思うが聞いて欲しい。
……俺は、おそらく、別の世界から召喚された存在で、
この世界の人間ではないのだろう」
「……っ!? どうしてそう仰るのですか?」
「それは今から3年前以前、リリィたちやこの世界への俺の認識が
今ほどはっきりしたものではなかったこと。
俺は3年前の今の基本職への変更を行ったあとから
3日前以前の記憶がないこと。
俺にはこの世界に来る前の世界があることが理由になる」
「……」
「召喚士を極めることもそうだが、
俺は同時にあるかどうかはわからないが、
元の世界へ帰る方法も探す。
だから、嬉しいけれど……リリィの気持ちには応えられない」
俺の言葉に驚愕の表情をしたリリィが投げかけた疑問に
俺は現時点での根拠を挙げた。
俺は最後の言葉を振り絞るように口にし、席を立って、
リリィを残して応接室を後にした。
俺は今、蛍光灯代わりの魔道灯を消した自分の部屋のベッドに寝間着に着替えて
横になっているが、寝ようと思っても寝付けない。
理由はわかっている。
リリィのことで激しい自責の念が消えないからだ。
俺は彼女のことが嫌いではない。
寧ろ、好意を抱いているほうだと自覚している。
彼女の方も、今日、再会した直後のあの大胆な行動から察するに、
俺に主従を超えた感情を抱いてくれているのは分かった。
それは正直、嬉しかった。
だが、だからこそ、元の世界に帰らなければならなくなるかもしれない俺は
リリィに誠実に俺のことを知ってもらう必要があると思って
自分の身に起こったことを告白する決断をした。
たとえ、彼女を傷つけることになっても、今の、今までの主従関係を
維持していくのはできないと思った。
元の世界に帰る方法が見つかったときまで有耶無耶にして、
方法が見つかって帰るときに答える方が俺は彼女に対して卑怯だと思う。
エルフの寿命が人間よりも遥かに長いとはいっても、
種族の違いを俺が答えにするのは彼女を侮辱することと大差ない。
加えて、それを口にする男は彼女に相応しくないとも思う。
もしかしたら、明日の朝、起きたらリリィは俺の元からいなくなっているかもしれないなと自嘲した。
そうして、俺がしばらく眠れない時間を過ごしていると、不意にドアがノックされた。
拠点の防犯設備に異常がないから、ノックの主は1人しかいない。
ついでにスキル【探知】で確認してもリリィの反応しかなかったので、
俺はベッドから起きて、月明かりが入ってきている部屋の中を歩き、
扉を開けて……驚きのあまり固まってしまった。
「え? ちょっ、なんて恰好しているんだリリィ!?」
扉を開けた先にいたリリィは胸元を押さえ、裸身に、
白いシーツ1枚を身に纏って俺の前に立っていたからだ。
「この恰好は私の決意の現れです。
先程、シオンさんのお気持ちを受け取らせていただきましたが、
私の気持ちをお伝えしていませんよ」
いつもの穏やかな笑顔を浮かべつつ、リリィはそう語りかけてきた。
羞恥からか少し頬と肌が赤い。
「しかし、その恰好は……とりあえず、話しを聞こう」
白い豊かな胸の谷間が視界に入ったが、それから視界を逸らして、
リリィに部屋に入るように促した。
「それでリリィの気持ちというのは?」
「はい。先程シオン様は自分がこの世界の人間ではないこと、
いつかこの世界からいなくなるかもしれないことを仰っていましたね」
「ああ」
「もし、そのことで私を残して行かれる事を気に病んでいらっしゃるのでしたら、
そのご心配はいりませんよ」
「? なぜだ?」
「お忘れですか? 私はエルフ、通常の人の何倍、何十倍の寿命を持つので、
人族はどうしても私たちよりも先に逝ってしまうのです。
ですので、いかれる先が死後の世界か、異世界かその違いはあれども、
私達が残される事実は変わりません」
そう言ったリリィの瞳にはすでに別れを覚悟している悲壮な決意の色が見えた。
「それにお忘れですか? シオン様の右手の甲に私が施しました紋章のことを」
”妖精族の祝福”これはエルフがその生涯を捧げるに相応しいと認めた者、
1人にのみエルフが生涯1度のみ施せるエルフの固有魔術で、
被施術者が同性の場合は施術者の生涯独身が認められ、
異性だった場合は婚姻が認められる。
その異性が死亡した場合は本人の意思で独身でいるか、
同族の異性と婚姻するかを選ぶことができる。
そして、不意に首に腕を回され、俺は前のめりになり、唇に柔らかい感触がした。
驚きで目を開いた俺にシーツが足元に落ちる音がどこか遠くの方に聞こえたが、
リリィは目の前には涙に濡れた閉じてい緑の瞳をゆっくり開いて、
「……貴方を愛しています」
満面の笑みを浮かべて俺にその想いを込めて告げた。
俺は彼女の想いに応えるべく、リリィの背に腕を回して、
穢れのない体を強く抱きしめ、
「俺は君を……」
そして、………。
御一読ありがとうございました。
本当はこの半分の量で済ませ次話の冒頭と併せる予定でしたが、
ここは手を抜くべきではないと執筆中に判断した次第です。
その是非はお読みいただきました皆さんにお任せします。
エルフならぬエロフになってるリリィさんですが、
シオンに対する愛ゆえにということでご理解ください。
余談ですが、この世界のエルフはご多分に漏れず
繁殖力に難があるので、一夫多妻制が主で一夫一妻は稀です。
ここで名言しておきますが、この先、シオンに好意を寄せる
ヒロイン達の裏切りや陵○、NTR展開はありません。
フラグはあってもダークナイトたちが跡形もなく粉砕します。
次話の進捗は活動報告を御覧ください。




