4話
さらりとものすごいこと言われたよ。無一文ですか。王都で無一文とか、生きていけないよ。
「クロ君、どうかしましたか。」
「ごめん、さっき言ったこともう一回言って。」
「お金を持っていません。」
うん、確かに聞こえた。無一文宣言をしたよ。
「お金がないとなにも買えないんだよ。」
あ、ついでにこれは一般常識ね。
「えっ。」
その反応はおかしいからね。とてつもなくおかしいよ。なにものすごく変な人を見るような目で見てるの。俺が正しいんだよね。
「あのー、サキ。王都では絶対お金を払わないでなにかを貰っちゃダメだからね。」
「好意でなにかを分け与えてくれるようなことはしないのですか。」
「王都はそんなこと一切無いから気を付けてね。」
「冷たいところなのですね。」
いや、あなたの常識がずれているだけですから。という心の叫びは無視した。
「売る方も生きるために必死なんだよ。」
「必死になって生きすぎると疲れてしまうそうですよ。」
「王都は刺激が一杯で楽しいと思うよ。」
箱入り娘にはとても楽しいところだろう。刺激が強すぎて気絶しなければ良いが。
「そうなんですか。なんだかものすごく楽しみです。クロ君、王都の道案内を頼んでも良いですか。」
「あー、ごめん。先に報告書をまとめないといけないし、
サキは新たな魔法使いの卵として教育係に挨拶に行かなくちゃいけないからそれが終わってからな。」
「優しい人だと良いです。」
王都に居る魔法使いの連中って大体変人が多いんだよなぁ。優しいと言える奴が教育係の中に入っているかなんてわからないし。
「期待はしない方がいいぞ。」
「なんでですか。」
「大抵の偉い魔法使いは変人と相場が決まっているからだ。」
「それならばアオ君は偉い魔法使いなんですね。」
「ちょっと待て、今の話の流れで俺が偉大な魔法使い扱いされるとかおかしくない。」
嬉しいけれどなんか遠回しに変人って言われた気がする。まぁ、まだ箱から出たばかりだし仕方がないか。
「俺から見るとサキの方が偉大な魔法使いになれる素質を持っている気がするんだけどな。」
「そうですか。嬉しいです。」
話が噛み合ってねぇな。
「サキの方が絶対俺よりも変人だしな。」
「え、」
なに、その本気で心外ですみたいな顔は止めてよ。
「女の子に変人とかクロ君はひどいです。デリカシー無さすぎです。」
「ごめん。」
「許してあげます。」
流石箱入り娘、単純だな。しかし王都に行ったらこの素直さが仇になるかもしれないな。
最悪誘拐されたら取り返すのがものすごくめんどくさいし、サキに怖い思いをさせて怒られたくはない。
でも、一応聞いておくか。
「もしも知らない人に道を聞かれたらどうする。」
「私も一緒に道の聞き込みをします。それでも見つからなかった場合は私も一緒に道を探します。」
テストして良かったー。もしかしたら王都に着いて数秒ぐらいで離ればなれになっているところだったかもしれないよ。
「王都に着いたら手を繋ごうか。そうじゃないと人の荒波に呑み込まれてあっという間に迷子になるから。」
「はい。」
よし。王都に行くまでの心配はこれで潰れたはず。
「あと、寝ていいよ。」
「はい。あの、クロ君は寝ないんですか。」
「俺はこれ操縦しなきゃいけないから。それと目の下にくまができてるよ。」
「最近、お墓作りで寝てませんでしたから。すいません。眠りますね。」
横になるとすぐに規則正しい呼吸が聞こえてきた。
「ふあぁぁ、なんかこのままじゃ眠りそう。悪いけどまた出てきてよ。マジック。」
魔方陣を血で濡らす。
「なんの用だ。どうせまた下らない用事だろう。」
「昔ながらの付き合いじゃないか。少しぐらい付き合ってくれたっていいだろ。」
「お前が寝ないように監視ぐらいならしてやる。」
「本当にこれ燃費が最悪なんだよ。」
少しぐらい労ってくれても良いじゃないか。俺頑張ったのに。