プロローグ
「・・・・あれ?」
俺の名前は山神太一。23歳 独身。彼女・・・別れたばかり・・
そこそこの大学卒のまだまだ新入社員気分の一般的社畜。
両親の名前・・誕生日・・・
「ふう、落ち着け。何が起こったのかを思い出すんだ。」
さっきまで俺はPCでゲームをしながら煙草を吸っていた。
そして、今薄暗い森の中にいる。
何を言ってるかわからないかもしれないが、俺もわからない。
「とりあえずなにが起こったかもわからないけど、明日までに家に帰れないなら会社に電話入れないといけないしなあ・・・携帯がないから公衆電話かなんか探すか」
さて、どっちに進めばいいのか。
周りを見渡すと右のほうの先が若干明るい。コンビニかもしれない。
「あっちにいってみるか!」
落ち着いているつもりでも独り言の多さから動揺から抜け出せていないのは確かだ。
自覚しているけれど、誰も見てないのだからどうにかする気もない。
「ん?」
しばらく歩いていると焚き火が見えてきた。
焚き火って実物は初めて見たかもな・・・
まあ、人がいるってことだよな。道が聞ければ帰る目処はつくか。
気分的に楽になって、自然と早歩きになる。
ある程度近くなると、焚き火とおじさんが一人見えてきた。
よし!人だ!
「こんばんはー!」
数メートル手前から声をかける。
「ん?なんだてめえは?へんちくりんな格好してんな・・・人の気配がするとは思ってたが・・・」
渋いおっさんが怪訝そうな顔でこっちを見ているが、いきなり人の格好をへんちくりんとはこれ如何に。
立派なマイパジャマ。某サッカーチームのユニフォームだというのに!
いやいや、今はこの人とフレンドリーに接しなければ情報を得られない。
あれ?というか・・・
「おじさんこそ、それ・・・コスプレですか?」
言ってから思った。失礼だと思った。でも気になる。渋いおっさんの革鎧(笑)
「こす・・あんだって?まあいい、坊主はここでなにしてんだ?」
キャラになりきっているのか?!坊主って初めて言われて少しだけ感動してしまった。
人の趣味にとやかく言うのもなんだ。とりあえず、聞きたいことを聞こう。
「いやあ、実は道に迷ってしまってですね。ここはどの辺なんですかね?」
俺は隠れ厨二病の疑いはあるが、コミュ障ではないのだ。
おっさんの目力は強いが笑顔で尋ねた。
「どこって、そりゃ黒き森の中さ。ここはまだ浅い場所だけどな。」
おっさんは当然だろ?といった顔だが、黒き森がどこかがわからない。
地元じゃ有名な場所だったのだろうか。
「すみません、あまり土地勘がなくてですね。とりあえず、ここから市街地へはどう抜ければいいですか?」
とにかく、森から出ればどこかくらいはすぐわかるだろう。
「しがいちってなんだ?まあ、街に向かうなら陽が昇ってからにするんだな。夜は危険だ。」
あれ?うまく会話が繋がらないおっさんだな。でも、朝までって・・・ここで野宿するのか?
おっさんはサバイバル魂溢れてそうだけども。
「危険とはいっても、明日かいしゃへぐっ!!はひふうんへうは(なにするんですか)!」
おっさんは突如、その逞しい腕で俺の口を塞いできた。え?え?もしかして、後ろの貞操の危機?そっちはずっと童貞でいいのよ?え?いつの間にか火も消えている。
「坊主、ちと黙ってな。」
おっさんの囁くような、それでいて有無を言わせない声が耳元で発せられる。
俺はこくこくと頷くと、とにかく息を殺した。