表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

第5話

『お袋?』

驚いたように呟くと、扉からはお袋が入ってきた。

『安藤君、これ好きだったでしょう』

『えっ』

お袋はお盆に二人分の紅茶と、ミルクレープと、チョコケーキをのせていた。

『そういやお前、ケーキ食えないのにミルクレープだけは食べてたよな』

『えっ』

安藤は驚いた顔を崩せずにいた。

『安藤君、これからも泰男と仲良くしてあげてね。泰男ったら、高校になっても果那ちゃんしか家に上げないんだもの』

お袋は最後にもう一度『よろしくね』と笑顔で言って出ていった。

『お前・・・』

安藤は俯きながら、拳を震わせて言った。

『何で・・・俺が、ミルクレープ・・・』

とうとう安藤からは一筋の滴が落ちてきた。

それが始まりの合図のように、安藤は涙を流し続けた。

こいつとの出会いも、殴り合ったことも覚えてないのに、こいつの涙の理由がわかる気がした。

俺はしばらくそんな安藤を黙って見つめていた。





『お前の前で泣く何て・・・恥さらしもいいとこだ』

落ち着いた安藤は、マダ俯いたまま言った。

『安藤・・・最期くらいいいじゃねえか』

自分でも何故こんなことを言ったのかわからなかった。

安藤は驚いた顔をしていたが、一度、目を閉じると、『随分話しが逸れたな。話すぞ』と、いつもの安藤に戻った。

『どんな話しでも途中で遮るなよ』

『あぁ』

さっきまでの安藤が、否さっきまでの出来事が嘘のように、安藤は平然とした様子で話し始めた。




3年前

安藤side


果那ちゃんが小学校を卒業してしまった。

勿論泰男って奴も一緒だ。

あれから俺は果那ちゃんと関わることはなかった。

関われることがなかった。

関われなかった。


俺も同い年なら・・・


その時俺の中で、二つの何かが戦っているように感じた。

その日から俺は毎日変な夢を見るようになった。


夢の内容は覚えていない。

だけど、いつも同じ夢を見ているような気がする。




そして、ある日目が覚めたら、体がとても軽かった。

いつも通りに学校に向かおうとすると、ランドセルがなかった。

『母さん。ランドセルどこやった?』

『何ボケたこと言ってるのよ。もう卒業したじゃない。早く制服に着替えてらっしゃい。幹夫は先に行ったわよ』

何が何だかわからなかった。

もう卒業した?

幹夫は先に行った?

じゃあ俺は誰だ?


しばらく俺はその場に突っ立っていた。

『早く行きなさいよ』

『わかったよ』

頭が着いていかないまま、制服を着ると通学路を知らないはずなのに、真っ直ぐに中学校に着いた。

校門の前に立っていると・・・

『安藤君おはよう。もう通学路覚えた?』

『か・・・果那ちゃん』

果那ちゃんと一緒のクラスなのか。俺は・・・

この時に全てが理解出来た気がした。

俺は平常になった。

『もうあたしの名前覚えてくれたんだ。良かった。泰男羨ましい?』

『えっ・・・泰男』

果那ちゃんの隣を見ると、またもやあの男がいた。

こいつ・・・

『そう、こいつ。東泰男っていうの。幼馴染みなんだ』

果那ちゃんは笑顔で言った。

とても嬉しそうに見える。

『よろしく』

俺はとっさに作戦を思いついた。

東泰男と仲良くなることだ。

『おぅ』

泰男は興味がなさそうに挨拶した。

全く生け好かない奴だ。



それから俺は、果那ちゃんと泰男と過ごすようになった。

これはきっと神様が俺にくれたチャンスに違いない。



『今日も泰男ん家行くよね?』

『あぁ、泰男が勉強教えてくれってうるさいからな』

『なんにも言ってないだろう』

俺達は毎日泰男の家に行っていた。

果那ちゃんはともかく、俺の家は少し離れていた。

だけど果那ちゃんと一緒にいたかったから、泰男と仲良くならなければいけなかったから・・・



皮肉なことに、いじめを受けていたからか、泰男といるのが一番楽しかった。

今までで一番の友達だと思えるぐらいにな・・・




それから半年後の、もう二学期も終わろうかという時のことだった。


『なあ、安藤って果那のこと好きなんだろ?』

『えっ?そうなの』

いつもの帰り道。

泰男は突然そんな質問を投げ掛けてきた。

果那ちゃんは驚きながら、少し顔を赤らめている。

『何言ってんだよ!!』

俺は顔を真っ赤にしたまま、自分でも驚くぐらいの音量で叫んだ。

『何だよ。怒るなよ・・・違うのか?』

『いや・・・』

気まずさに何も言えずにいると、泰男はそんな俺の心境も考えずに『俺は好きだけどな』と、さらりと言ってしまった。

『もう、泰男何言ってんのよ』

果那ちゃんはまた顔を赤らめたが、何処か嬉しそうに見えた。

まるで付き合いたての恋人同士のような・・・



泰男の奴め。




その次の日は、俺は学校を休んだ。

その夕方のことだ。


『兄貴、早くやれよ』

幹夫は部屋に入ってくるなり、冷たい調子で言った。

『お前・・・』

『もう全部わかってて、計画だって立ててんだろ。出ないと、兄貴が出てきた意味がない』

『あぁ、わかってる』

俺は幹夫に、本当の自分に促されて、実行を決意した。





『ちょっと待て!!』

『何だ。何があっても話しを遮るなって言っただろう?』

『いや、そうだけど・・・』

安藤の話しには、俺がいるはずなのに、まるで何かの物語を聞かされているような気分だ。

『お前・・・わざと遮ったんじゃないだろうな?』

『どういう意味だ』

『何でもない。何を言われたって、俺の決心は揺るがない。お前の為じゃねえから。それだけ覚えてろよ!!』

『わかってるよ』

安藤はここに来てからは、面白いぐらいに表情を変える。

面白がってる場合じゃないってことは、十分承知してるんだけどな。


『続き話すぞ』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ