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第3話

中一の春休み。



『ん?何で俺・・・痛っ』

目を覚ますと、見慣れない白い天井があった。

『泰男・・・』

隣からは果那の心配そうな声が聞こえた。

『俺・・・』

何があったのか。

必死に考えたが何も思いだせなかった。

『学校にね。・・・泰男巻き込まれたんだ。悪い人が来て・・・』

果那は涙ぐみながら、途切れ途切れに話した。

『そうか・・・』

もっと詳しいことを聞きたかったが、果那を見ると何も聞けなかった。



それから俺は2ヶ月して退院した。

学校に行くと、俺に最初に近寄ってきたのは安藤だった。

『お前大丈夫か?』

『あぁ』

そう言ってきた安藤の右袖からは、包帯が見え隠れしていた。


HRが始まると、担任にも心配された。

だが、俺は何も覚えていない。





俺はもしかして安藤とやり合ったのか?

病院送りになるぐらいに?

嫌な想像しか出来ない。

あんな記憶で、『また病院送りにされる』何て言われたら、そんな想像しか出来ないじゃないか。



家に着くと果那がいた。

『泰男・・・』

果那は心配そうに声をかけてきた。

『おぉ』

少し気まずい。

『風邪・・・大丈夫なのか?』

『うん。・・・あのさ』

果那の瞳が揺れ動いた。

少し潤んでいるようにも見える。

『東君遅かったね』

東絛がわざとらしく言った。

『やあ、果那ちゃん。元気になったの?』

『うん・・・』

果那は俯きながら、弱々しい声で言った。

『東絛・・・』

『ん?』

こいつが俺のことに一番関わっているはずだ。

だけど、逆に言えばこいつがいなければ、俺達はいつもと変わらない日常を送っていたんだ。

『お前・・・お前何々だ?何々だよ!!』

『何かって?僕には何を言ってるのかわからないな』

東絛は果那の顔を見た後で、また俺に向き直った。

『とぼけるのもいい加減にしろよ。今日中学に行ってきた。俺に記憶がないのはお前のせいか?答えろよ!!』

果那がいるのも構わずに、俺は怒鳴った。

『中学に行ったならわかるだろ。考えなよ』

東絛は表情一つ変えずに言った。

『記憶何てな。そう簡単に取り戻せるわけねぇだろ。だいたい何で教えてくれねぇんだ?』

『取り戻せるさ。君の場合はね』

『えっ?』

それは一体どういう意味だろうか。

どういう意味だ。

『安藤が関係してるのか?』

俺の問いに大げさに反応したのは果那だった。

『泰男・・・会ったの?』

果那は怯えたように言った。

安藤と俺と果那は仲が良かったはずだ。

毎日一緒だったはずだ。

何に怯えるんだ?

俺は段々と訳がわからなくなった。

中2の初めの記憶。

安藤と俺はやり合った。

でも、俺達は仲が良かった。


段々訳がわからなくなってきた。

もう少し安藤と過ごした日々を思い出す必要があるのかもしれない。

『悪い。一人にしてくれないか』

『うん・・・』

果那は寂しそうに言った。

東絛は黙って去って行った。



俺が思い出さない限り、こんな重苦しい日々が続くのだろうか。

果那にはいつものように笑っていてほしい。

悲しい顔何てして欲しくない。




家に入ると、俺はアルバムを広げた。

写真を見ながら、その時のことを細かく思い出した。

不思議と写真の記憶は思いだせた。

中2の時のことはこんなにもわかるのに・・・

俺は悔しさを込めて、アルバムを蹴り飛ばした。

『ん?』

アルバムから写真が一枚出てきた。

それは安藤と果那と写っている写真だった。



『これって、何処行ったんだっけ?』

果那との写真は鮮明に思いだせたのに、この写真だけわからない。

日付けを見ると・・・

『えっ!!』


俺は急いでキッチンへ向かった。

『なあ』

『なぁに?そんなに急いで』

『この写真何処で撮ったかわかるか?』

俺はお袋に写真を突きつけた。

『あら、安藤君じゃない』

お袋は親しげに言った。

『そういえば写真撮ってたわねぇ』

お袋は懐かしそうに言った。

『お袋って安藤と会ったことあったか?』

『何言ってるのよ。よく来てたじゃない。男同士ってやっぱり喧嘩するほど仲が良くなるのよね』

『は?』

安藤が家に来た?

『何時だ?』

『何が?』

焦っている俺に、お袋はきょとんとした顔で尋ねてきた。

『だから安藤が家に来てた。っていうの』

『中一の時じゃないかしら?』

俺と安藤が仲良しだった?

なのに俺達は、お互いに病院送りになるようなことをしたのか?

追求していくごとに、新たな疑問に頭を悩ませる。



その日俺はいつもより早く眠れた。

俺の記憶の鍵。

安藤との記憶。

・・・



また夢を見た。

『何で俺がお前に近づいたかわかるか?』

誰かが俺に向かって言ってくる。

『お前って本当・・・大人しい顔しやがって、お前何て・・・』

『お前がいるから・・・』

相手の声はどんどんと荒くなっていく。

それにつれて、相手の声は途切れていく。



その声が安藤だと気付いたのは、起きてしばらく経った後のことだった・・・


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