第2話
俺は学校が終わると、そそくさと帰る準備をした。
東絛には目も向けず、俺はある場所へと走って行った。
俺は少し躊躇った。
俺の空白の時間。
それを知ることが怖かった。
中学には小学校の頃の知り合いは果那しかいなかった。
だから中2になって、周りの反応の違い何てわからなかった。
俺は何をしてしまったんだ?
その時に、ふと今朝の夢を思い出した。
一人だったのか?
足がすくんだ。
俺はここに来るべきではないのかもしれない。
だいたい、どうして俺は過去を知りたがっているんだ?
思い出せそうな気がした。
しかし、思い出せなかった。
自分の中の何かが邪魔をしているようだ。
『あれ?東先輩?』
『おぉ』
中3の時に仲良くなった後輩だ。
知り合いに合って、少しだけ心が和らいだ。
『どうしたんですか?』
『いや、遊びに来ただけだよ』
『そうですか。なら、俺が案内しますよ。って、言っても何も変わってないですけどね』
後輩の高津は嬉しそうに笑った。
いつも俺と果那の近くにいた唯一の後輩だ。
廊下を歩きながら、俺は何とか思いだそうとするが、やはり何も思いだせない。
『俺同級生の間では、勇者だって言われてたんですよ。先輩と一緒にいるのが、何でですかね?』
高津は可笑しそうに尋ねてきた。
『まあ、俺不良扱いだからな』
俺は苦笑しながら言った。
『目付き悪いからって不良じゃないですよ』
『目付き悪いのは否定しないのか』
『ああ、いや』
高津はやってしまったと言う顔をした。
別に何も怒っちゃいない。
ん?
『俺が怖いって・・・誰に聞いた?』
俺が不良扱いされるのは、よく考えれば高校になってからだ。
『えっ、えっと・・・だから同級生ですけど?』
高津は不思議そうに答えた。
『悪いけど、今そいつ呼べるか?』
その人物が何か知っているとは限らない。
けれども、少しでも可能性があるのなら・・・
高津と仲が良く、一番そいつから俺のことを聞いた人物の元まで案内してもらった。
『東先輩!!』
そいつは俺のことを見ると、驚いた顔をした。
『先輩があのことについて聞きたいんだって』
高津が軽い調子で言うと、そいつは怯えた顔をした。
『お願いだ。教えてくれないか?』
『いや、でも・・・』
そいつは困ったように顔を背けた。
『なら、質問を変える』
怒鳴りそうになったが、何とか平常を保った。
『誰から聞いたんだ?』
『それは・・・兄貴だよ』
そいつは一度俺の顔を見てから、仕方なしに言った。
『兄貴?・・・もしかしてお前、安藤の弟か?』
『はい・・・安藤幹夫です』
幹夫は尚も怯えた表情をしている。
『あの・・・』
『何だ?』
『いえ』
それから幹夫は何度か、何かを言おうとしていたが、直ぐに口を閉じた。
『悪かったな』
これ以上いては、幹夫にとって迷惑なのだろうと思い、俺は再び歩き出した。
『そういえば、今日は果那先輩と一緒じゃないんですね』
『ああ、体調悪いみたいなんだよ』
『そうなんですか』
高津は驚いたように言った。
『ところで・・・どうしてこんなに、必死になって聞いてたんですか?』
『ああ、いや・・・』
言わないでおこうと思ったが、何だか高津には言える気がした。
『俺さぁ・・・』
『ん?泰男じゃねぇか』
『安藤!!』
つい先ほどまで弟と話していたのが、まさか兄貴会うとはな。
『へぇ、学校来てるってことは・・・』
安藤は、怪しい笑みを浮かべた。
『何だよ』
『いや、もうこんな時期かと思っただけだよ。高津君・・・だったかな?君は関わらない方がいいんじゃないかな』
『えっ、それってどういうことですか?』
友達の兄とは言え、関わりのない自分にいきなり話しをふられ、高津は俺と安藤を交互に見てから、不思議そうに尋ねた。
『今は言えない。俺も自殺行為はしたくないからな』
安藤は勝ち誇ったように笑った。
『自殺行為?お前、何か知ってるんだろ!!言えよ』
『怖い怖い。俺また病院送りかな?』
安藤は笑いながら言った。
『何言ってんだ?』
冗談で言ったようには思えなかった。
『まあ、いずれわかる。たぶんな』
安藤はそう言うと、直ぐに行ってしまった。
『一体何だってんだよ』
何で俺だけ何も知らないんだ?
『なあ、高津・・・他人だけが知ってて、自分が知らないことってあるか?自分のことなのに、自分だけが何も知らないんだ。そんなことってあるか?』
『えっと・・・』
高津は何かを言おうとしたが、何を言えばいいかわからず、気まずそうに口を閉じた。
『高津・・・色々とすまねぇな。お前は、俺がもし過去に何かしてたとしても、今までと同じでいてくれるか?』
高津は俺の言葉に真剣に耳を傾けてくれた。
そして、俺が口を閉じると笑顔を浮かべてくれた。
『当たり前じゃないですか。だって俺勇者何ですよ?』
高津は笑いながら言った。
何だか少し安心した。
何があっても、どんな結果が待ち受けていても、俺は真実を知りたい。
高津と別れてから、俺は頭を整理しながら家に戻った。
中一の記憶は何もない。
だが、中二の記憶を辿れば何かわかるかもしれない。
安藤との出会いを思いだしてみろ。




