9部屋目 いいこ、いいこ
(焦っただけぞね、汐音! 男にライバル心とかないきに!)
(ウソ! 楓ちゃんってば、ヒョードルくんへのアピール狙ってたでしょ!?)
「はいはい、半透明の仲良しさんたち? 反省会よ」
Aランクの猪尾さんは、霊界テレビ越しのAAランク2人に手を叩いた。
「まずはシィポン。撤退時に、ナックラヴィーへの【鳳仙花】をありがと」
(オ~ホホホ! 《自爆》させてヘイトを取る! これぞ、ラスボス令嬢ですわ~!)
「いいえ、せいぜいザコ敵Bよ。投石でアッサリ脳天ヤラれたもの」
(ミ、ミルニャン……。たった今、胸にも大穴よ……?)
千桜さんと鹿野さんは、0号室の“霊界”にいた。宝石を着けたままマンション内で死ぬと行く、花と緑の多い公園部屋である。
「でも、シィポンなら防げたでしょ? 【姫檜扇】だっていたんだし」
(うーみゅ、確かに)
「本当にムリなら、『いいこ、いいこ』ってあやすダケだから。次こそ頑張って」
(うん!)
千桜さんたちの背後には、色とりどりの人魂がいた。ひときわ青くて大きいのが、SSランクの桐山さんだろう。
“霊界”で1時間ちょっと経つと、肉体は魔力の色をした人魂に変わる。滞在限度はおよそ6日と1時間半で、それを過ぎると強制リタイアだ。
「で、次はザコA。私に何か申し開きはある?」
(ウチはザコと違う! なぁんも悪いことしちょらんき、謝らんぞね!)
「あら、そう」
仏頂面だった猪尾さんは、やにわに聖女スマイルとなった。
「ねえ、ワンちゃ~ん……? あなたは、よ~く頑張ったわ~」
(ワフッ?)
「誰も責めたりしないわよ~? ――ええ。いいこ、いいこ」
(うっわー! くるみ、さっきの今でソレ言うが!?)
鹿野さんの顔が大写しとなる。
(ウチは勝っちょったハズやき!)
「でも、負けたのよね~。ううん、いいのよ~? 課長が焦って、人選をミスったダケだから~」
(ワフ……。わ、悪かったぞね。最後は、【地震】を撃ってウチごと自爆が正解やったき)
「あらあら~」
猪尾さんはスッと笑みを消した。
「始めっからそう言いなさいよ、バ楓」
(くるみ! おまんはヒドイちや! こン前も……!)
ピッ。
「はあ……。うるさい死体だったわね、菊知くん」
「猪尾さんは辛辣だね」
「グチも出るわよ。ミイラ取りがミイラになったんだもの」
たしかに終盤は、最大の【地震】をチャージして自滅がセオリーだった。仮に相討ちでなくとも、後衛が安全に撤退できる。
「そもそもワンコは、【地震】すら要らなかったのよ? シィポンが【鳳仙花】を喚んでたから、溜めなしで《自爆》できる領域が……」
ピンポンピンポンピンポンピンポーン!
「――あのバカ。呼び鈴ミュートにし忘れてたわ」
「まあまあ、大事な用かもしれないし」
僕がインターホンに出た。
「なに、鹿野さん?」
(あ、良かった! おんしに話があったがよ!)
肉球で指差してきた。
(弱い男が女装で気ィ惹くとか、ズルいだけやき! 今も、何なが!? その無性に似合ぅちょるセーラー服は!? まあ、なんてこと!)
「あはは……」
(ナニ笑ぅちょるぞね! どうせ小さくなった師匠が前衛ながやろ!? ほいたら、狂戦士モードはイカンきに、水鉄砲の出番はないちや!)
「いや、僕が……」
(しつこい! 709の青は、【盾】が仕事ぞ!)
大声で遮られた。
(いっくらナックラヴィーの弱点が真水いうたち、それはSSランクの桐山さんが、まる一日【大海嘯】で溶かしちょったダケやきね! 魔力が少ししかないおんしゃあには、土台ムリな話ちや!)
「でも……」
(しつっこい! 第一おんしゃあ、頑丈な【盾】に出来んがやろ!? 弱い【盾】で師匠が守れんらぁ、なまけ者と同じぞ!)
また大写しになった。
(おんしは身の程を知れちや! ほいたら次に会うたとき、少しぐらい好きになっちゃるわ! 小さい悪たれ小僧には、『いいこいいこ』ながよ!)
――うん、元気な死体だ。
◆ ◆ ◆
待合室で猪尾さん(&死者2名)と別れた僕は、長い黒髪ウィッグをつけたのち、マンション前のQ次郎らと合流した。
「よお、薫子様。主役は遅れて登場か?」
「間を保たせるのは得意でしょ、Qは」
ホログラムを出すと、コメントが怒濤のごとく流れてきた。
※:セーラー服、着たー!
※:後方支援面おじさん「こういうのでいいんだよ」
※:なんの、セーラーならばジニキもカワョ
「ああ、ジニーは白い水兵さんスタイルですね」
「ワシもお気に入りじゃ」
幼女が片足で一回転するや、大きな襟がふわりと揺れた。
※:圧倒的感謝……!(号泣
※:\カワョ/ \カワョ/
※:そこにそっとナメクジをひとつまみ…
※:↑おいやめろ
「そういえば、Q次郎の服もスゴイけど、そっちは触れました?」
※:あ
※:ヤバ
※:ほらー、薫子様言っちゃった
「え、紫スーツの話題はタブーとか?」
「いや、OKだぜ? ったく、男の戦闘服だっつーの!」
※:色がバリバリ反社なんよ
※:こんな服着てるやつ誰がいた?
※:吉良とかジョーカーとか(アカン
「へっ、魔力が紫ってのをスーツでアピールだぞ? 分かりやすさとコダワリの両立、それが俺の流儀よ!」
※:ナメクジが今いいこと言った(気のせい
※:その道不毛じゃね?
※:2323「ガタッ」
僕らはエレベーターに乗り込んだ。今回の撮影は、ジニーのスマホに任せている。
「さて相棒、ここまで長かったな」
「Q次郎もお疲れ」
「へへっ。ジニーさんの『課題』には散々振り回されてきたぜ」
「そうだね。とくに最後はムチャぶりだったかも」
「んむ、ワシも聞いたぞ」
したり顔の幼女がアゴを擦った。
「知り合いの丈一が言うとったわ。『まさか薫が、本当にフレイムワイバーンを溶かせるとはなあ』と」
「フザけんなオイ!」
※:なんという他人事でしょうw
※:いいか、別人だぞ?
※:ジニーちゃんの言い草に草
ひとしきり笑い合ったのち、エレベーターが到着した。
――――――――――――――――――――
709 海岸
・ナックラヴィーを倒して石板を取れ
――――――――――――――――――――
――いよいよ、決戦だ。
「んじゃ相棒、俺が決着つけてくるぜ」
「うん。こっちも準備するね」
Q次郎の背中を見送りつつ、僕は【睡蓮】を喚んだ。
「睡蓮、今日は思いっきり食べていいよ」
「ぴぴ~!」
思いきり羽を震わせた妖精は、僕の出す魔力をどんどん吸収して濃紺に染まっていった。
一方ジニーは、Q次郎をズームで撮影している。
※:人柱っつーか、むしろナメクジ柱
※:ミ塩 ミ塩
※:ナメクジ「やめろ海水、その術は俺に効く」
※:おっとナクラ出た
Q次郎は、大笑いして現れたナックラヴィーに、「ヘイヘイヘーイ!」と手拍子を始めた。波を蹴立てて上陸してきた重種馬に、騒ぎたてたまま回り込んでいく。
※:こういうのって弱い方が回るよな
※:まっさかー、ナメクジ自信満々やぞ?なお
「へっ、下馬評を覆してやるぜ!」
海を背にしたQ次郎が、拳を真っ直ぐに突き出した。
「この俺が、一撃でな!」
「グワッハハハアー! 面白い、返り討ちだあっ!」
※:おもしれー男・・・
※:大丈夫、いけるいける
※:ほんとぉ?
猛ダッシュしながら拳を溜めるQ次郎に、ナックラヴィーは前足で豪快な蹴りを入れた。
ゴボォ!
「ぷげえっ!?」
モロに顔面へと食らったQ次郎は、逆くの字で砂地に倒れ込む。
「グワーハッハッハ! なんとも呆気ない奴だ!!」
※:知ってたw
※:まさに一蹴
※:大丈夫、逝ける逝ける
※:ヤムチャしやがって……
微動だにしなくなったQ次郎は、顔から膨大な紫の光が漏れ出すと、見る間に全身が消失した。幾度も目にした、相棒の“霊界”行きである。
――Q次郎。今まで色んな場面で時間を稼いでくれて、本当にありがとう。
おかげで、ここまでこれたよ。
僕は、振り向き始めたナックラヴィーに人差し指を向けた。
「【聖水】」
パパパパパパシュッ!
極限まで高品質にした【聖水】を6連射。2つの手と4つの足に放つ。
ジュジュ~ッ!!!
「シャギャアアアァーッ!!」
※:はあッ!!? 手足溶けたッ!?
※:えっ(絶句
※:【聖水】の威力じゃねえよコレ!!
※:ナクラ動けねえ!!!
「よし」
すぐさま僕は、【ウォータースクリーン】を球状に展開した。――ナックラヴィーを、包み込むように。
「ジャギャー!!」
激烈な瘴気が吹き出されるものの、僕が張った水の膜からは一切染み出してこない。
※:全部シャットアウト!?
※:ひえっ(ひえっ
※:ソッコー溶かせるぐらい極めてる……ってこと!?
※:薄いスクリーンの水でも浄化できてる!!
「ジニー、エレベーター頼むね」
「任せよ」
僕は、魔法を維持したまま砂州を歩いていき、石碑のある対岸に着いた。
「よいしょっと。――これで、どうかな?」
石板を慎重に持ち上げた瞬間、体中に温かい光が降り注ぐ。
「やった……!」
快晴の空を仰ぐと、“次の部屋は711”の文字が大きく浮かんでいた。
※:うおおおーっ、新ルーム来たああああ!!!!!!
※:88888888
※:アイエエエ! 別ルート、別ルートナンデ!?
※:分かった! ナックラヴィーを「倒さず」取るのか!!!
※:はあああああ!? 無理だろ!!
※:やっとるやろがい!
(ほんに頑張ったのお、薫)
ジニーが【精神感応】でねぎらってくれた。
(砂地で水の膜を維持するとは、聞きしに勝る制御力じゃな)
(ありがとう、ジニー)
“104:路地裏”や、“289:砂漠のバラ”など、低層階でひたすら基礎練習を続けていた。最後に溶かしたフレイムワイバーンですら、“305:岩場”である。
――全て、今日のためだった。
ナックラヴィーを倒す前に、石板を取る。
そこに別ルートが存在するのか、調べるために。
僕はゆっくりと石板を置いた。砂州を戻り、今度は【ウォータースクリーン】の前に立つ。
「さてと。こっちも忘れずに回収するよ」
※:おっと、オーブか
※:これは「倒して」回収だな
「ジャギャー……! き、貴様はもう用がないだろう! 帰れ!」
※:おいおいおいw
※:命乞いで草
※:つか、バーサーク後も話せたんかいw
※:さ~てさて、ナクラからの懇願に薫子様のお返事は~?
僕はニッコリ笑った。
「ごめんね」
すぐに【聖水】を連射した。
ジュジュジュ~ッ!
「ジャギャアアアアァァーッ!!!」
※:ナクラ……残念!
※:この薫子様、容赦せん!
※:溶けてる溶けてる
※:ナメクジと塩は伏線やったんやなって
パパパパパシュッ。パパパパパシュッ。
万が一にもスクリーンに穴の空かないよう、表面を分厚くしていくことで内側をゆっくり溶かしていく。
「しばらくお待ちくださいねー」
※:カワイイ顔してヤるときゃヤる
※:にしても、帰れとか言うナクラ初めてで草
※:フリーパスだな
※:――セーラー服と帰還自由
※:ぶはっw
※:コーヒー噴いた
※:薫子様「か・い・が・ん」
※:BAKAヤロウwww
※:クソッ、こんなんでw
※:今日の大喜利会場はここですか?
※:つか年齢層たけーな
※:Atube老人会の朝は早い、いつものことである
僕が球体を4倍ほど分厚くするころには、ナックラヴィーの姿はすっかり消滅していた。
「うん、瘴気も浄化できてるね」
【ウォータースクリーン】を解除すると、水が砂浜にバシャーッと散った。青い宝珠が1つ残ったので、そっと手でつかむ。
「ナックラヴィーのオーブ、ゲットしたよー!」
「ぴぴ~!」
※:コングラッチュレーション……
※:オーブ、GETだぜ!
睡蓮とともにエレベーターまで戻った僕は、ジニーと「イエーイ!」とファイブタッチしたのち、現実の1階へのボタンを押した。
「んむんむ。これで戻ると、助かった人が出迎えてくれるんじゃよ」
「1階のドアから、“霊界”の人たちが戻ってくるんだっけ。僕初めてだから、緊張するなあ」
チーンとエレベーターが開くと、そこにはイキナリ人がいた。
「オ~ッホホホ!」
「――閉めよう」
「あぁーん、待って! お約束になりつつあるから、ホント待ってー!」
まずは、ヘッポコ令嬢が出迎えてくれた。
「ありがとう菊知くん! ナックラヴィーを単独討伐とか、スゴかったわ!」
「Q次郎とジニー、それに睡蓮がいたおかげだよ」
「厳密にはそうだけど、別ルートとオーブは菊知くんがいたからこそよ! イェイイェイ、イェーイ!」
千桜さんは大ハシャギしていた。
「あ、それでねそれでね! ワンちゃんも連れてきたから!」
見ると、後ろには口をムズムズさせた闘犬少女がいる。
「ワフ……。お、おまんは……」
「ほら、楓ちゃん? 菊知くんが助けてくれたのよ、お礼は?」
「うう~……」
「ンもう、出来ないの? オホホ。じゃあ、しょうがないわね~え」
悪役令嬢さまは、鹿野さんの犬耳を優雅になでた。
「は~い、ワンちゃ~ん? いいこ、いいこ~」
「――おまんら、キライちや!」
視聴者コメント
※:おいワンコ、薫子様と顔合わせだぞ? 笑えよ
※:まー合わせる顔がないよな
※:足だけだもんなw
※:||<ここほれワンワン!
※:面目丸つぶれ(物理




