7部屋目 置き告白ヨユーでした
「さ~て、純白の聖女さま?」
したり顔のQ次郎は、精霊と瓜二つのフィギュアを棚に戻した。
「幼女への事案が、白日の下に晒されちまったなあ」
「わ、わゎ、忘れてー!」
「悪ぃが【勿忘草】なんだ」
「くっ……!」
猪尾さんは、すかさず小型杖の先を白く光らせた。
「【天罰】!」
周囲の精霊をかき消す、【絶滅】系の範囲呪文だ。フィギュア棚から、Q次郎の【勿忘草】だけが消え失せる。
「はぁ、はぁっ……。これで、証拠隠滅よ……」
「ほ~お、配信はマダだと踏んだか? いい読みだが、コピーは済ませてるぜ」
Q次郎はスマホを振ってみせた。
「ま、ダメ元でも【天罰】撃ちてぇよなあ」
「くっ……」
「そして、ダメ押しだがよ。お前が躊躇なく【勿忘草】を消したサマ、相棒が撮ってるんでヨロシク」
「えぇっ!?」
青ざめた振り向き顔を、僕のスマホはバッチリ捉えていた。
「ゴメンね、猪尾さん」
「き、菊知くん……? なんでアナタが……?」
「ジニーは可愛いからね。万一に備えたんだ」
「――まさか、この撮影! アナタが黒幕なの!?」
ぎゅっと小型杖を握る。
「ナメクジにすり替えさせたのね!?」
「うん。『709』って答えたときにね」
「イヤーーー!!」
聖女は床をのたうち回った。
◆ ◆ ◆
――帰宅後。
「これで猪尾さんも、僕らのパーティー入りだね」
「んむんむ。くるみは見事な高速回転じゃったのお」
幼女精霊は、横長のテーブルで隣に座っていた。
「ナイショの一室で、女子高生がぐ~るぐる。コレすなわち、秘密の部屋でJKローリングじゃ」
「ジニー……。そういうネタって、どっから仕入れてくるの?」
「くふ、賢者の石」
自慢げに、琥珀のブローチを叩いてみせる。
「ワシには丈一が宿っておるでな、弟よ」
「ふ~ん……。で、風の精霊だから、兄貴風を吹かせるのも得意だと?」
「テクニシャンな幼女じゃろ」
人差し指を向けつつ、僕の魔力を欠乏ギリギリまで吸っていく。体調は問題なくキープしているあたり、たいした腕前だ。
「されど薫や、お主は不器用じゃのお。くるみは動画ネタで、もっと縛れたじゃろ」
「それじゃ、コッチが悪党だよ……」
あの後、降参した猪尾さんと、パーティー結成の握手をした。
『ハァ……でも良かったわ、菊知くんの作戦で』
『え、なんで?』
『アナタなら、屈しさえすれば絶対に動画の流出なんてさせないから。ナメクジだけじゃ、弱みを握らないと不安で不安で』
『ははは……』
やりとりを思い返してほほ笑んだ。
「兄貴と約束したんだ。全力でマンションの探索にあたること。ただし、卑怯なマネはNG。お父さんとお母さんに説明できる範囲で、ってね」
「左様か。それは済まなんだ」
「ううん、大丈夫だよ……あれ?」
スマホが震えたのでチェックする。
「今から課長が、新しい探索方針について会見するってさ」
「ほほお。お手並み拝見じゃな」
『皆様、こんにちは。マンダンの福生です』
座ったままニコやかに会釈する課長。弾みで、天然パーマ風の髪が少し揺れた。
『このたび我が社では、冒険者への更なるサポートとして、〈安心プロジェクト〉を立ち上げました。その第1弾のリーダーが、こちらの鹿野楓さんです』
『み~んな~! ヒョードル様の恋人の、ウチに任せちょき~!』
横に座っていた犬耳少女が、元気よく肉球グローブの手を振った。
『ウチが最初に攻略するがァは、海のお馬さんこと、ナックラヴィー! 709号室ぞね~!』
「ええっ!?」
「ぬぅ~む。どうやらワシらごと攻略する気じゃのお」
「ぐ、偶然だよ……たぶん」
『もっちろん、ウチの仲間も充実しちゅうがよ? 前衛はウチこと、〈土佐の闘犬女子〉ワンダ! ほいで招集メンバーは、〈悪役令嬢〉シィポンと、〈聖女〉ミルニャンやき!』
「えぇーっ!?」
「ほれ見い、引き抜きじゃ」
「ぐっ……」
僕らはチャンネル内で、「ワイバーンを倒したら709に挑む」と公言していたから、部屋をブツけるのは容易い。
「だけど、千桜さんの加入は? いつ知ったの?」
「そりゃあ、デコペチ男とやり合った時じゃろ」
「今朝だよソレ!?」
巨大組織のフットワークが軽すぎる。
「待って、猪尾さんは!? 彼女の加入なんて、ついさっきだけど!?」
「あやつは汐音と近しいんじゃろ? ならば、身の振り方は予想がつくぞい。最悪、空振りでもいいんじゃし」
「あ、そっか……。回復が絞れるもんね」
Aランクの白魔道士を押さえるのは、どっちに転んでも価値ある一手だ。
『けんどよぉ、課長~』
画面では、犬耳少女が肉球ハンドを挙げていた。
『なんでウチらは709に挑むが? 他にもムツかしい部屋は多いがに』
『霊体が複数いるためだね。〈安心プロジェクト〉の真骨頂、冒険者救出というやつさ』
2本指で、スーツの胸元に着けたルビーを示す。
『宝石を装備すると、やられても“霊界”で復帰を待てるだろう? 709は強制リタイアしにくいからね。人気のチャレンジ部屋なんだ』
『そやね、パーティー内で1人でも帰れたらOKやき。709やと、青いSSランクさんが今も死んじょるけんど、あン人がリタイアせんがァも宝石のおかげよ』
『けれども、蘇生のためには、誰かがその部屋をクリアする必要があるんだ』
『ワフ。ウチらのクリアまでは、【復活】とかの魔法も結局ムダやきにね』
『だからこそ、サルベージに精鋭を集めるのさ。――そう、〈安心プロジェクト〉にね』
『『安心、プロジェクト!』』
「ん~む、まるでエセ教育番組のようなノリじゃのお。最後のカメラ目線は何じゃ」
「視聴者コメントも禁止だしね……あれ?」
シィポンお嬢様から電話がきた。
「どうしたの、千桜さん?」
『菊知くん……。ゴメンなさい!』
「――もしかして、招集の話?」
『そう!』
対面通話のご令嬢は、赤毛の頭をペコペコさせていた。
『あたしとミルニャンね、マンダンを辞める前に709へ行くよう言われたの!』
「うん、いま見てたよ」
『あたし、事前に連絡したかったのよ!? だけど課長が、動画が出るまで黙っとけって!』
「仕方ないよ、まだ在籍中だし」
半泣きのお嬢様を、優しくなだめた。
「それに、SSランクの桐山さんを助ける必要もあったからね。むしろ、招集1回きりで脱退できるなんて、超ラッキーだよ」
『き、菊知くん……はぅ』
不安から解放されたためか、千桜さんはポーッと放心していた。
その背後から。
『ンもう、汐音?』
『ぴゃあ!?』
犬耳少女がヒョイと現れた。
『おまんやと、話進まんきに』
『楓ちゃん! か、会見は!?』
『あれは録画よ。ええけん、変わっちょき』
茶色いタンクトップに短パン姿の鹿野さんは、スマホ画面の真ん中に陣取った。
『おまさんが菊知くんながね? ウチは鹿野楓。ヒョードル様のことがとっても好きな、ワンダフルガールぞね』
「うん。鹿野さんの動画はチェックしてるよ。最近は、兵藤くんと仲良く昇ってるよね」
『え!? おまさんからもラブラブに見えゆうが!? えへへ、ワンワン~……。実にまったく、相思相愛のウチらに言葉はいらんがやねぇ~』
ポニーテールを揺らしつつ、嬉しそうに犬耳をかく鹿野さん。133号室の“耳”による身体変化を、思いっきり取り入れた冒険者だ。
『あっ。ほいたら、明日やけんど。土曜の朝一で、大きいお馬さんに挑むき』
「――のお、楓や」
ジニーは自分のおでこをペチペチした。
「お主、ルカは良いのかの?」
『えーっと、なんで愛しのヒョードル様を招集せんがよ、ちぅコトですか? そらぁもう、課長がせっかちで、お馬さん退治を強引に決めたセイながですき』
「んーむ、やはり709ありきじゃったか」
『はい。ジニー師匠の戦法をマネしつつ、SSさんも救えるちぅことで、師匠とおんなじ茶色やったウチが選ばれちょうがです』
ちなみに兄貴は、とくに誰とも師弟関係を結んでない。
『あっ、ほいたら弟くん。おまさんも、ウチらン所に挑むがやろ?』
肉球で僕を指差した。
『ウチらぁより早う来たら、その後で昇っちゃるよ?』
「あー……お願いしよっかな」
『ワンワン~。能力がひくい弟くんは、お馬さんとちゃぷちゃぷ水遊びながやろ? 安心し。先に死んでも、ウチらがまとめて復活させちゃるきにな』
『か、楓ちゃん』
千桜さんが鹿野さんを揺する。
『菊知くんに、そんな言い方は……』
『えーっ? あんなぁ、汐音? 弟くんが、師匠の言いつけを地道に守っちょるがは知っちゅう。けんど、それは師匠の愛やき』
『でもでも、魔法の精度はスゴいモン!』
『ワフ。恋する乙女は無敵やけんど、視野が狭くなるがァはイカンちや』
肉球で、ポフッと赤毛を叩いた。
『師匠はなァ、弟くんを陰口から守りとうて、魔力が伸びんでも何とか戦える小ワザを作っちゃったが。世間の認識はコレやきにな?』
『は、はうぅ……』
「あの、鹿野さん。そのぐらいで勘弁してあげて」
僕は苦笑した。
「大丈夫、僕もよく分かってるから。――千桜さんも、ありがとう」
『うみゅぅ……菊知くん、ほんとゴメン』
お嬢様はすごすごと消え、画面には犬耳少女が残った。
『なァ、弟くん? 課長をやりこめてバズった〈薫子様〉は、師匠のおかげで産み出せたがやろ? 実力やとウチらに完敗ながやき、大人しゅう女装しより』
「うん、しっかり続けるよ」
『弱いがァに人気とか、ゼッタイ非難されるけんど、大っきい態度でドンと構えちょき! ほいたら、少しはマシやきにな?』
「鹿野さん……ありがとう」
『ワンワン~。どういたしまして』
犬耳少女は、肉球ピースで電話を終了した。
「んーむ。薫は大人じゃのお」
ジニーが、僕の頭を優しくなでてくれた。
「自身が軽んじられようと、マンションに挑む者はみな同志か」
「お父さんとお母さんの捜索にもつながるしね。やる気をなるべく引き出してあげたいんだ」
「くふ、健気な男子じゃて」
なでていた手を、僕のおでこへとズラす。
「もっとも、精神的余裕は、すでにワンコを泣かせとるせいかのお」
「――え?」
「んむ、気付いとらんかったか。とすると……」
今度は両肩に手を置かれた。
「薫よ、忘れい」
「う……うん」
ちょっぴり真剣な幼女に気圧された。
「まだ僕は、知らなくていいんだね?」
「済まぬ。決戦後には教えるでな」
「わかった」
期限も切ってくれたのはありがたい。
僕はジニーのおかげで、憂いなく挑戦前の調整に専念できた。
◆ ◆ ◆
翌朝。
組合の無人窓口で、1人黙々と探索届を書いていると。
「うわーん、おまさーん!」
猛然と闘犬少女が走ってきた。
「ウチのヒョードル様をー! 取らんちょってー!!」
「え、えぇっ!?」
すかさずワンワン泣きつかれる。
「女装は禁止やき、おまさーん!」
「で、でも鹿野さん、昨日はやれって……」
「イカンがー!」
ぐいっとスマホを突き出してくる。
「ヒョードル様が告白しゆう『アリス』は、誰ぞねー!?」
――あっ。
Q.好きな男の子が、男の娘に惚れたがやけんど!?(泣
A.悲しいけどこれ(恋愛)戦争なのよね。




