4部屋目 好きって気持ちは尊い
ジニーとは、冒険者組合の前で別れた。
「じゃあの、薫」
「うん。また放課後にね」
「汐音や。薫を支えてやってくれ」
「ええ、まかせて」
僕と千桜さんは、隣の学園へとトンボ返りした。
――あれ?
校門の前には、2人の少年が腕組みして立っていた。兵藤くんを意識したモノカラーの衣装で、ノッポくんが白づくめ、チビッコくんが緑づくめだ。
「僕の気のせいかな? さっきも似た展開があったような」
「あ、菊知くんも? 良かった~、あたしもデジャヴを感じてたの」
「先輩たち、うっさいッス!」
髪まで白いノッポ少年が、ビシッと指差してきた。
「とくに、弟! お前、ヒョードルさんを卑怯な手段で土下座させるとか、クビの腹いせにも程があるッスよ!?」
「ですです」
チビッコ少年も、緑のおかっぱ頭を揺らした。
「さっきだって、お兄さんの情報をガッツリ伏せてたせいですし!」
「ア~ラ、それは違うわ~」
令嬢モードの千桜さんが、羽つき扇子をエレガントにそよがせた。
「むしろアナタたちこそ、彼への報告を怠ったのではなくって? 『菊知くんのお兄様が、愛くるしいレディに変身しました』って特ダネをねぇ」
「そ、それは……僕らもまさか、知らないとは思わなくて……」
「アラまあ。自分たちのリーダーが、世事に疎いおマヌケさんだって仰るの?」
「ち、違うッス、シィポンさん! ヒョードルさんは、俗世のニュースを遮断して、マンションに没頭してただけッスよ!」
「ならば尚更、アナタたちの落ち度ね。同じチームにいるのでしょう? 連絡なさいな」
「むぎゅっ」
アッサリやり込められた彼らは、再び僕に矛先を向けた。
「や……やいッス、弟! Bランクのお前は、1日おきにしか昇る価値なしって、公式からもお墨付きッスよ!?」
「えーっと、それって君らもだよね」
「お、俺らのコトはいいんスよ! Aに限りなく近いBBBなんスから!」
つまり、Bランクである。
「と、ともかくッス! お前みたいなシングルBは、マンション禁止なんスよ! そもそも、もう昇る資格もないッスけどね!」
資格については正論だ。「異世界マンション」に立ち入るには、国指定の冒険者団体に在籍している必要がある。今の僕は無所属だ。
もっとも。
「Sランクの人に招集されたら、毎日だって昇れるよ」
「フフン! オマケの弟を連れてく凄腕が、どこにいるッスか!」
「兄貴」
「ジョニーさん! いたッス!」
ノッポ少年はおでこを叩いた。
「あ! でも、やっぱりジョニーさん頼りじゃねッスか!」
「ですです」
チビッコ少年はうなずいた。
「そりゃあ、ジョニーさんは『男の中の男』ですから、足手まといがメンバーでも文句は言いませんよ? ですけど、縁故採用がロコツすぎます」
「そうッス。そのうえ、今のジョニーさんは幼女ッス。戦力だって大幅ダウン! 万一リタイアさせたら、大問題ッスよ!?」
「ですから、我らがリーダーをお供にすべきです。Sに限りなく近いAAAのヒョードルさんも、『男が惚れる男』なんですから!」
2人とも、腰に手を当てて誇らしげだ。
「ええっと……。君たちは、兵藤くんが大好きなんだね」
「当然ッス! 憧れの強さッスよ!? 誰にも好かれない目の前の弟とは大違いッス!」
「ですです。なので、本当にジョニーさんが心配なら、シングルBはお供を辞退すべきです!」
「フフン、俺ら上位ランクの言葉ッスからね! 下位の人間には命令に等しいッスよ!?」
「アラ。黙って聞いてれば、命令なの?」
シィポンお嬢様が、パチリと扇子を閉じた。
「ならばアナタたち。あたくしのランクは?」
「うっ……。AAッス」
「正解。じゃあ言うわね。『お口をつぐんで、さっさと校舎にお入りあそばせ?』」
「むぎゅぅっ」
扇子で優雅に指し示すと、観客から拍手がわき起こる。
彼らは悔しそうに僕を見たのち、そそくさと校舎に入っていった。
「千桜さん、ありがとう」
「あんな捨て台詞、真に受けちゃダメよ?」
「耳が痛いけどね」
「ううん、あれは菊知くんの表面だけを見てるの」
見世物が終わるや、観客は解散。いつもの登校風景に戻る。
「あのね? 改善したいときは、応援してる人たちの言葉に耳を傾けて。それで十分だから、ね?」
「千桜さん……」
「大丈夫。菊知くんを好きな人は、ちゃんとココにもいるわ」
「え? それって……」
思わず聞き返すと、千桜さんはカァッと頬を染めた。
「も、もちろん、あたし……」
「――千桜さん?」
「あたし! が、思うに!」
ぐっと迫ってくる。
「お兄さんは、菊知くんのことメチャクチャ大好きよ! ええ、絶対! 100%自信ある!」
「――うん。そうだね」
自然と笑みが零れた。
「本当に、千桜さんってば兄貴が大好きなんだね」
「オ、オーホホホ! そりゃあもう!」
扇子でパタパタしながら、校舎に向かうお嬢様。
――ちょっと格好いいセリフを言うと、スグに照れちゃうヘッポコ具合なんだよね。
だけど……すごく励まされてるよ。ありがとう。
僕は、愛おしい気持ちいっぱいで、その背中についていった。
◆ ◆ ◆
僕らの通う魔法学校は、代々木公園の旧・中央広場に建っている。
園内に突如として現れた、5階建ての『異世界マンション』。これへの探索用だ。
「え~、チミたちィ?」
お爺ちゃん先生が、メガネをクイッと上げた。
「世界のアチコチにー、1階から5階建てのマンションがポコポコ現れましたー。その中でー、5階建てのマンションを一般探索者に開放してるのはー、日本だけですー」
黒板に、テンポ良く『2006年1月1日~』と書いていく。
「他の国はァ、みんな秘密主義でー、開放してるのは4階建てまでですー。ンまァ、現状? 1階マンションの場合でもー、異世界の220号室まではフツーに行けるのでー、4階マンションでも880まで行けると考えられてますー。現在、分かってる中で1番大きなナンバーは818ですー。あぃ、4階マンションでも余裕ですー」
次々と、『1F 101~220』から『5F ~1099?』までを書いていく。
「初期の探索ではー、多くの調査隊が挑みー、そしてリタイアしましたー。マンション独特のルールを把握するためにー、尊い犠牲があったんですねー。うぅ~っ……先生、悲しい! ヨヨヨ……」
ちなみに、リタイアなので生きてる。
「あぃ、それから20年以上経って分かったことはー? ンンー、そう! チミたちの魔力をー、適度にあのマンションに与えていないと、魔力を求めて、異世界がコッチに侵食してくるとゆーコトです」
自分で答えちゃうのが、お爺ちゃんクオリティ。
「そこでー、マンションの監視とー、チミたちのサポートを兼ねてー、冒険者組合が建てられましたっ。えー、窓の外にある建物ですね。あぃ、以上」
先生のおじぎと同時に、放課後のチャイムが鳴った。途端にクラスが騒がしくなる。
「よお、薫」
荷物をまとめたQ次郎が来た。
「お前、初回の耳タコ授業もノートかよ。さすがは優等生だな」
「このクラスだと、千桜さんのことかな」
「ヘっ、教室にいねぇから優等生ってか? 冒険者制度のバグだよなあ」
Aランク以上の場合、ネット授業の視聴でも出席扱いとなる。早退した千桜さんは、マンダンを脱退する手続きのため新宿に行っていた。
「さ~て、薫子様よ。本日のステージ衣装だぜ」
手提げ袋を僕に投げてくる。
「新たなる旅立ちに、俺の選り択りをブッコミだ」
「ネタには全力だよね、Q」
「相棒が、オシャレに目覚めたと聞いてな」
袋をのぞくと、そこには不思議の国が広がっていた。
◆ ◆ ◆
視聴覚室のブースで、僕は座ったままお辞儀した。
「皆様、こんにちは。薫子です」
※:アリス in 薫子様!
※:はうぅ、水色と白のコントラストがお美しい……
※:金髪ズレないよね?w
「あはは……ウィッグホールダーを使ってます」
※:落下注意w
※:2323「欲 し い !」
「おいお~い、ここ野生のフサフサが見てんのかよ~」
僕の背後では、シルクハットを指で回すコスプレQ次郎が立っていた。
「まっさか本人じゃねぇよなあ……っと、手からカブり物が滑ったぁー。フン!」
※:×スベる ○両手で叩き落とす
※:くっそナメクジで草
2m四方のパーテーションで区切られたブースは、複数人のネタ配信にも余裕がある。
「まずは皆様に、兄貴の現状報告を。すでにご存じの方も多いと思いますが、兄の丈一は、幼女『ジニー』となりました」
※:当然みんな知ってるよなあ?(オールバックを除くw
※:いや、アイツもDOGEZAして思い知ったからw
「僕らのパーティですが、今後はジニーと組みます」
「つーわけで、以降はジニーチャンネルでの配信だぜ」
※:いよいよか……胸がアツくなるな
※:今からマンションに昇るのはナシ?
「今日の僕らはオフ日だったので、いつも通り、練習成果の報告ですね」
※:い つ も ど お り(薫子様の衣装をガン見
※:男の娘は、すでにルーチンだった……?
「こ、この姿以外は、いつも通りです!」
※:薫子様照れてるぞw
※:\カワョ/ \カワョ/
※:あの~、当の幼女ちゃんは?
「ジニーは後から参加ですね」
「ま、手続き多いし、しゃーねーな」
Q次郎が僕の肩を叩いた。
「ネタ成分は、アリスのコスプレで補給だぜ」
「うん。なので皆さん、存分に眺めてってくださいね」
「俺はベッタベタ触れるけどな~!」
※:薫子様の肩を……うらやまケシカラン!
※:溶けろナメクジ ミ塩 ミ塩
「おいおい、衣装の手配は俺だぞ? な、薫子様?」
「はい、実はそうなんです」
※:マジかよ、同志ナメクジ!
※:褒美に2階級特進だ
「いや待て、特進コメ。俺は死んでる前提か?」
※:勘のいいナメクジは嫌いだよ
※:ハハハ、そんなめくじら立てるなって
「クッソー! お前ら、クダラネーことばっか頭回るなあ!」
「貴様ら、静かにしろ」
「そうッスよ」
「ですです」
近くから、兵藤くんたち3人の声がした。
「フン。相変わらず騒がしいナメクジだな。人外は失せろ」
「てめーもヒヨドリだろが」
「――ほ~お」
ブースの入り口まで来た兵藤くんは、出迎えたQ次郎を人差し指で突き押した。
「口だけは一丁前だな、虎の威を借るナメクジよ。実力もないくせに、様々な冒険者とコラボ配信なぞ、一番キライなやり口だ」
そのまま、ブース内の僕へと指を向けてくる。
「無論、弟。貴様も……なっ!?」
ナゼか、口をポカンと開けた。指先が震え、みるみるうちに顔が朱色へと染まる。
「お前ッ……。あれっ、いや、キミは……!」
「え?」
「おーっと、ヒヨドリちゃん」
僕が反応する前に、Q次郎が制した。
「今日のコラボは『アリスちゃん』とだがよぉ。お前、誰かと勘違いしちまったかぁ?」
「ぐっ……!」
「おいおい、顔真っ赤だぞ。まさか、一目惚れかよ~?」
「う、うるさい!」
見ると、下級生たちも顔を赤らめている。
――え? 僕を意識してるの?
ためしに、ニッコリ手を振ってみせると、2人は慌てて視線をそらした。
「おふ……ッス」
「は、はわゎ……」
うわぉ、純情なんだね。――ん?
兵藤くんが、鼻息荒くブースへと入ってきた。
「おいおい、ヒヨドリちゃ~ん」
背後から肩をつかむQ次郎。
「もしや、アリスにコクる気か? やめとけやめとけ、ピュア~な心がブレイクしちまうぜ?」
「だ、黙れ! 即断即決がモットーだ!」
Q次郎を振り払った兵藤くんは、意外なほどソフトに僕の手を握った。
「好きだ、アリス! 俺と付き合ってくれ!」
呆気に取られた僕は、スグにほほ笑んでみせた。
「ありがとう、兵藤くん」
「おお!」
歓喜の表情を浮かべる彼の眼前で、長い金髪を取ってみせる。
「好きになってくれて」
「あひゃあああああ!?」
兵藤くんは、お供の2人を巻き込みつつ、ハデに尻もちをついた。
ライブ配信の視聴者コメント
※:ヒヨドリ……ナイスガッツ!w
※:幼女兄さんの弟きゅんが、学年♂1位の性癖を広げちゃうぅ~!!
※:ピュアーな少年たちもなっ!
※:ホンマ薫子様は、魔性の男の娘やでぇ……




