3部屋目 一心同体
千桜さんってば、ホントに悪役令嬢と素のギャップが大きいよね。
この魅力が兄貴にも伝われば、相思相愛だと思うんだけどな。
「のお、薫や」
ベッドの脇から、ジニーが顔を出した。
「この赤面娘、お主へのキスじゃと誤解しとるぞ」
「――えぇっ!?」
あれ、ジニーとのキスだって、言ってなかった!?
途端に、心臓が早鐘を打つ。
えぇっと……。それってつまり、僕がスゴい勢いで千桜さんにキスを迫ってたワケで……うわあー!
「あ、あのね千桜さん! キス! キスは僕とじゃないから! 兄貴とだから!」
「ふぇ?」
慌てて僕は、幼女精霊のいきさつを話した。
「そ……そーよね、菊知くん! 体の維持に魔力がいるから、ジニーちゃんとの契約なのよね!?」
「う、うん! それも、ホッペタでOKだから!」
「ななな、な~んだ! ならセーフよ! ええ、何回でも来て! ジャンジャン来ちゃって、ジニーちゃん!」
「ん、んむ……。意気込んどるトコ悪いが、1回で十分じゃ。ワシ、キス魔じゃないし」
ジニーは若干引いていたが、無事に千桜さんのほほへ口づけを済ませると、魔力の吸引を始めたのだった。
「ん~む、もうちょい吸えるかのぉ……」
ジニーが吸引量の微調整をするなか、僕ら2人はベッドにモジモジと腰かけていた。
「あのさ……千桜さん」
「な、なぁに?」
「もし平気なら……今後の方針、決めたいんだけど」
「――え、え~え、モチロンよ!」
ファサッと赤毛をかき上げてみせる。
「色恋だって百戦錬磨のあたくしが、キ、キキキ、キッスぐらいで動揺だなんて!」
「いや、その……。『魔力欠乏が平気なら』って話」
「――ふぇ?」
「さっきの僕が、結構キツかったから……」
「あ……あぁー! だ、ダイジョブ! 2人で分担したし! ぜんっぜん、問題ないわ……。はみゅぅ」
――気まずい。
それでも、どうにか以下のことを決めた。
・兄貴を元に戻す
→813号室の飛行目玉を退治する
→高層階なので、ミツオさん達に協力してもらう
・退治に役立つものは「精霊進化のオーブ」
→有力なオーブをゲットできそうな部屋に行く
→709号室に挑む
・ジニーの強制リタイアを万全に防ぐ
→魔力供給の安定には、あと2人と契約がベター
→僕はQ次郎に、千桜さんは聖女ちゃんにお願いする
・供給メンバーでパーティーを組む
→千桜さんたちが僕らのパーティーに加わる
「あれ、千桜さん? 最後のって、マンダン脱退にならない?」
「へーきへーき。最近あの会社、利益重視に変わっちゃったし。いい頃合いよ」
「――聖女ちゃんも、説得できる?」
「ええ、ミルニャンはあたしに任せて」
大きく胸を叩いた。
「菊知くんのお兄さんを助ける方が、よっぽど大切だわ」
「――千桜さん!」
不意に感極まり、両手で彼女の手を握った。
「ありがとう!」
「ぴゃぁっ!? ――オ、オーホホホ! 貴族として、当然の振る舞いをしたまでよ~!」
復活した悪役令嬢サマは、とても頼もしかった。
◆ ◆ ◆
夜。
寝床に入ってからは、静かに基礎練習を行うのがルーティンだ。
「ん~む、狙うは天井の的か」
「うん、精密さを磨くためにね」
幼女ジニーは、兄貴のTシャツをネグリジェ風に着ていた。
「お主が使う魔力は、最小限か。キチンと丈一の言いつけを守っとるようじゃの」
「まだまだ、兄貴の努力には及ばないけどさ」
「くふ、安心せい。頑張り屋の弟については、よ~く丈一から聞いておったぞえ」
兄貴の枕を抱えたジニーは、「よっ」と僕のベッドに潜り込んできた。
「しかし済まぬの。薫も休息は大事じゃというに」
「ううん、リタイアを防ぐためだもんね」
ジニーの体は受肉したばかりで、いまだ不安定らしい。突発的に膨大な魔力がいる事態もありえるそうだ。
「僕が、イザってときは抱きしめて、強制的に魔力を送るよ」
「頼りにしとるぞえ」
小さい手で僕の頭をなでてくれた。
「いやはや、しかし薫がロリコンでなくて良かったわ。もしそうじゃったら、ワシ躊躇したぞ」
「コラ」
ジニーのおでこをつつく。
「そういう僕のイジリ方って、兄貴に聞いたの?」
「くふ、丈一との旅は長かったからの。いくばくかは影響を受けたやもしれぬ」
「今までの傾向を見てると、染まりきってる気もするけどね」
呆れたように息を吐いてみせるも、すぐにお互い笑い合う。
「ジニー。サポートお願いするね」
「まかせよ、薫。ワシらは一心同体じゃ」
◆ ◆ ◆
次の日、僕らは朝食のヨーグルトを無事に食べ終えることができた。
玄関の鏡で、灰色ブレザーの制服をチェックしたのち、靴を履いてドアを開ける。
「オ~ホホホ! 気持ちのいい朝ね、菊知くん!」
バタン。
「ふぇ? ちょ、ちょっと、菊知くん? 閉めないでよ~!」
「フウッ……。0歩でヘッポコ令嬢と遭遇したよ、ジニー」
「んむ、やはり閉めたくなるよな」
「ちょっと~!」
朝っぱらから赤黒ドレスのシィポン嬢は、少々胃がもたれる。
改めてドアを開けると、千桜さんは明らかにホッとしてみせたのち、口に手を当てた。
「オ、オ~ホホホ! 直前の生配信、ご苦労様。貴族たるあたくしが、見逃すとでも~?」
「あのさあ、いっつも思うけど……。何でソレ気付けるの?」
お気に入りに登録してても、マメに確認はいるハズなのに……。ホンット、僕のチェックだけは抜かりが無いんだよね……。
スマホで見せてきた配信アーカイブでは、今しがた撮った制服姿の僕と、水色のスモックを着た園児姿のジニーとが、笑顔で手を振っていた。
「ヤッホー! ワシは“リアルのじゃロリ精霊ADVENTUBE兄貴”こと、幼女精霊のジニーちゃんじゃよ~!」
「兄貴……。また、ずいぶんと設定盛ったね」
※:やべぇ、ジョニキが自分の破壊力に気付いたw
※:幼女兄さ~ん? 今日はその聖衣で組合に凸ですか~?
「んむ、薫とチームで探索する許可を取るぞい」
「学園の隣だし、一緒に登校だね、兄貴」
「ジ・ニ・イ」
「え?」
「ワシを呼ぶときはジニーじゃ、薫」
※:ワシかわいい
※:あれ? 今後はNOジョニー?
「くふ。小さな『よ』は、『幼児』の後ろにくっついて『ようじょ』になったわ」
「そんなムチャな」
「ほれ、薫。言うてみい」
「ジ……ジニー」
「んむ!」
※:腰に手を当ててムフー、かわョ
※:幼女ランクSSS
「それでは皆の衆、今朝はコンパクトにここまでじゃ。精進せいよ~」
「まったねー」
※:ノシ
※:ふおぉ……! やっぱり幼女は最高だぜ!
※:↑おまわりさん、この人です
僕は千桜さんにスマホを返した。
「さっき閃いて、急いで撮ってみたんだけど、どうかな?」
「いい案だと思うわ、『キャラ設定』って」
「んむ」
ジニーは【精神感応】でも会話できるけど、魔力を使うから、普段は声を出してる。
そのため、会話の端々から、精霊だとバレるリスクがあった。
そこで。
「ワシは『幼女精霊のジニーちゃん』に転生したのじゃ。常にキャラを守りつつ、な」
「オホホ。あとは浸透させるダケね~」
バレる前に自らバラすって、裏技っぽいけどね。
「あ、ジョニーさん!」
学園が近付くにつれ、生徒たちから挨拶される。
「昨日の配信、見ましたよ!」
「おお! 今朝もアップしたので、あとで見るのじゃ~!」
大きく手を振る園児の姿に、お嬢様も顔をほころばせる。
「オホホ。薫子様も負けてられないわね」
「うん」
千桜さんもジニーも、一生懸命だ。
「僕も、2人の足を引っ張らないよう頑張るよ」
「フン。寝言を抜かすな、ジョニーさんのオマケが」
え?
見ると、黒髪をオールバックにしたやや小柄な少年が、学園の正門前で腕組みしていた。
「弟。配信が久々にウケたそうだな」
「兵藤くん」
「ハッ! ジョニーさん抜きでは、誰もお前に注目などせんぞ」
黒マントを大きく翻した兵藤琉架くんが、悠然と歩いてきた。
『うわ、ヒョードルだ……』
『学年1位が、弟と悪役令嬢に絡んでったぞ……』
生徒が遠巻きに見守るなか、黒づくめの兵藤くんが千桜さんの前に立つ。
「喜べ、令嬢。マンダンの新プロジェクトが始動だ。俺のパーティーと組むぞ」
「ア~ラ、残念ですわ。実はあたくし、菊知くんと先約がございますの~」
「――ほお」
僕を一瞥したのち、視線を戻す。
「課長肝いりの案を蹴って、昨日クビになった奴と組むとはな。ホレた弱みか」
「えぇっ!? そそ、そんなワケない、ですわ! お兄さんを助けて、さらにはご両親を探そうと……!」
「ハッ! 色恋にうつつを抜かして、Sランクになれるものか」
「そ、そういうアナタはどうなのよ?」
「俺は即決だ。相手にホレたら、その場で告白する」
『お~っ……』
大勢のギャラリーが沸いた。誰かが指笛も吹いている。
「フン、真の強者はうろたえん。ジョニーさんのようにな」
「――のお」
ジニーが、くいくいと黒マントの裾を引っ張った。
「お主、さっきから『ジョニー』の名を連呼しとるが、もしや丈一のコトかのお?」
「当然だろう。あと、彼を呼び捨てにするな、幼児よ」
「んーむ……それ、ワシじゃ」
「は?」
顔を指差すジニーに、兵藤くんは大笑いした。
「面白い冗談だ。幼児にしては上出来だな」
ぞんざいに黄色の園児帽を叩くと、たちまちギャラリーがざわつく。
『お、おい。いくらヒョードルでもヤベェよ……』
『ああ……アイツ死んだな……』
戸惑いと緊張がもたらす不穏な空気を、彼も感じたらしい。
「おい、令嬢。このエラソーな幼児はなんだ?」
「菊知丈一さんね。調べてみれば?」
「フン、そうしよう」
園児帽をペチペチ叩きながら、右手でスマホをいじり出す。
「――え?」
手を止め、ジニーの顔をガバッとのぞきこむ。再びスマホを注視し、両手で高速操作。
「あ、あぁぁ……!」
大量の汗がふきだす兵藤くんに、ジニーがニッコリ。
「ヤッホー」
「す、すみません! ジョニーさん!」
深く頭を下げた。
「変化をつゆ知らず、とんでもないご無礼を!」
「ドンマイ」
ジニーは下から見上げた。
「じゃがよー、非礼を詫びるわりに、まーだワシより頭が高いんじゃのー」
「え?」
「ま、縮んだワシが悪いんじゃよなー」
「――あっ!」
後ずさって土下座する。
「誠に申し訳ございません! ジョニーさん!」
「あ、この姿の時はジニーちゃんな」
「ジニーちゃん!」
「んむ、苦しゅうない」
しゃがんだジニーは、オールバックのおでこをペシペシ叩いた。
「精進せいよ」
「ははーっ!」
「のお、薫? あやつ、なかなか面白いのお」
「ジニー……。兄貴に染まりすぎてない?」
「くふ、そうかもしれぬ。なにせ、一心同体じゃからのお」
ファイブタッチをした僕らは、校舎にヨロヨロと入る兵藤くんを温かく見送った。
◆切り抜き動画、「【悲報】幼女に土下座する高校生www」より抜粋
※:何ソレご褒美やん!
※:デコぺち裏山~
※:土下座への誘導とか、ジニーちゃん鬼畜w
※:弟大好きだし、多少はね?
※:やはり幼女……幼女は全てを解決する……!




