19部屋目 バーミリオンと満ちる月
「アラアラ、大道芸がお上手ね~」
高みの見物をしていた玄武は、再び拍手したのちに地面を指差した。
「けどザンネン、水位は腰まで来てるの。これから更に加速するし、御一行には早めのリタイアをお勧めするわよ~? 老婆心ながら」
※:めっちゃ根に持ってて草
※:BBAさんはしつこい
※:酒場のBARさん、床屋のBARBERさん
※:つくば山に這いつくバーさん
「しつこいのはアナタたちでしょ! ていうか、画面消しなさいよ、鬱陶しい!」
「へへっ、怒んなバーさん。もうちょいしたら消しとくぜ」
いつの間にかQは、こちら側にもあったヒョロ長い海食柱を昇りきっていた。
「おうとも、戦い終わればノーサイド。このあと鍋でも囲もうや。――スッポン鍋とかさァ!」
※:これは闇のナメクジ
※:まるで光のナメクジがいるかのような言い方はよさぬか
「まっ、ここらで俺は退場だ! バーミリオンよ、お前の技では死なーん!」
「はあ?」
「フハハハハ、サラバだー!」
両手を勢いよく広げたQは、前方に飛び込むや胴体着水でド派手な水飛沫を上げた。すぐさま紫の光に包まれ、“霊界”へと消え去る。
※:し……シンだ!w
※:逃げるな卑怯者ー!!
※:なんとコスい件
※:サラダバー!
猪尾さんは頭を抱えていた。
「――はあ。私、アレの後追いなの?」
「アハハ……」
「まあ、そろそろ逝くけど」
「ありがとう、猪尾さん」
軽く手を挙げた猪尾さんは、白い光に包まれて“霊界”へと旅立った。
『薫くん。今ので2人はリタイアかな?』
「はい」
『じゃあ、僕も消えるね』
「ありがとうございます、ミツオさん」
水位の上昇は加速し、見る間にミツオさんの頭上をも超えた。サムズアップしていた右手も沈むと、その水域が銀色の光に包まれる。
※:b
※:ノシ
※:T2リタイアw
※:Hasta la vista,Mitchy!
なお、【水晶球】が2つ残っているのは、道具扱いでパーティー財産にしてくれていたためだ。さらに余談だが、Qが掲示板を【水晶球】のに切り替えていたため、今も残っているのがかなりシュールである。
※:外道「よお玄武! 約束どおり掲示板を消しといてやったぜ。――また出したけどな!」
※:銀の悪用で草
※:今も全員《ピンポイント》で霊界逝ったしな
※:やっぱチートやんw
繁縷の《ピンポイント》は、《目印》の場所にパーティーの誰でも瞬間移動できるという、これだけ聞くと無法極まる領域であった。しかし、肝心の《目印》が“霊界”のものしか指定できず、使うと必然的にリタイアするため、運用は【鳳仙花】の《自爆》と同程度に留まっていた。
※:ん?じゃあ今残ってるのは薫子様だけ?
※:たった1人のなか、水位はガンガン上昇中(ヤバイ
※:ソコに「激怒した玄武バーさんが相手」も追加で
※:終わった(絶望)
「ウッフフ、むしろこれからよ~? さらなる絶望へと叩き込んであげる。――【混乱の渦潮】!」
水位の上昇が勢いを増し、満月の室内は玄武の周囲以外すべて海へと沈んだ。魔法の渦潮がのたうち回るさまは、さながら大時化である。
「あっという間に到達ね~、最高水位の10m。さぁさ、なす術なく翻弄された所へ駄目押しよ~? ――召喚、【白虎】」
※:ぎやああああああ!!
※:BBA大人げねえーーーーーー!
※:獅子は兎を狩るにも全力を尽くアババABBA
玄武が立つ隣の海食柱に、全身白づくめの壮年男性が現れた。長い髪も総白髪で、立派なもみあげを蓄えている。
「喚んだか、玄武?」
「ええ、青二才ちゃんにトドメをお願い」
「分かった。では【生命感知】。そして……【ライトニングボルト】!」
指先から赤い光が弾けた途端、海中を凄まじい稲光が突き抜けていった。
「まだまだァ! 【ライトニングボルト】! 【ライトニングボルト】! 仕上げに……、【ライトニングボルト】・フルパワー!!」
※:うわあ、本気でブッパすんな!
※:白虎が雷ってのは解釈違いだぞー!!(ヤケクソ)
※:これ【盾】で防げるのん?
残念ながら、ダメージは防げるものの、ヒットはしているため、ショック状態になって動けなくなる。
※:白虎のフルパワーとか絶対ヤバイ(ヤバイ
※:おっさん獅子奮迅やん
※:↑虎よ
※:虎よ?
「オレの全力を相手の居場所に放った。ではな、玄武」
「ありがと、白虎」
魔力を使い果たした白虎は、その仕事同様に電光石火で還っていった。
「ウッフフフフ……、さぁ挑戦者さん? アナタは今、雷で黒焦げ? よしんば【盾】で防いでも、相当なショック状態のハズ。そこでトドメ! 【混乱の渦潮】・フルパワー!!」
※:完ッ全にオーバーキル!!
※:ガメオベラですわ
※:終わった(チーン
「ふうっ……。ワタシとしたことが、少~しムキになっちゃったわね~。さっ、この大渦が凪いだら、オフィーリアのような水死体を拝んでオシマイよ~」
もちろん、そうはならない。
渦の勢いが弱まり、今度は玄武のいる沖側へと水が引き始めた。さきほどQの昇っていた海食柱が、てっぺんだけ姿を見せる。
ザパァッ……。
そこに、僕は立った。
※:うおおおおお!!!!
※:立った……、薫子様が立った!
※:うほっ、水もしたたるイイ男の娘――
※:バックが満月で超映える~
「ありがとうございます、玄武様。今までどおりのお怒りモードで」
「なっ……! なんでアナタ、ピンピンしてるのよ!?」
「【混乱の渦潮】は、球状にした【ウォータースクリーン】でやり過ごしました」
「はあ!?」
ナックラヴィーの完封に用いた技を、今度は自分中心に使ったのだ。どれだけ外が荒れ狂おうと、【ウォータースクリーン】ならば表面の水をなでるだけ。中は空気もあって快適である。
「そっ……それじゃあ、白虎の【ライトニングボルト】は!? あれ、水の中でも散らずに直撃するでしょ! ショック食らうハズでしょっ!?」
「いいえ、純水の膜なら食らいません。絶縁体なので」
「えぇーっ!?」
そう。一般的な水が電気を通すのは、塩やミネラルといった不純物が混じっているためだ。
今作ったのは、純水のさらに上。超純水のレベルである。
――質を上げるのは大好きだからね。
「僕たちは、“152:川のヌシ”で電気ウナギとも特訓してました。【ライトニングボルト】は対策済みです」
「はああああ!? たかがウナギと同じ!?」
※:ぷw
※:まさに大ショック
※:ドンマイ白虎
※:玄武にとっても青天の霹靂やったなw
僕は【水上歩行】を使い、下がっていく海の上を足早に歩いていった。
「では玄武様、失礼ながらひっくり返します。さっきのフルパワーで、魔力はカラですよね?」
「くっ、こんな方法があったとは参ったわ……なんて、言うワケないでしょ!」
玄武は前方にジャンプするや、【外形変化】を解いた。茶色の光に一瞬包まれたのち、巨大な黒亀と黒い蛇頭の尻尾を持つ姿に膨れ上がる。
「生憎だったわね! 真の姿なら、呪文を解くだけで戻れるのよ!」
※:戻して
※:↑戻ってコレなんだよなぁ……
※:月とすっぽんぽん
※:あーダメダメ叡智すぎます
「さあ、この巨体なら! アナタが何をしようと全てムダ! 仰向けになんてならないわ!」
※:ん?(フラグ
※:前フリにしか聞こえんで草
※:おごるな玄武!! きさまの体の返し方は薫子様が知っておるわ!!
※:↑お前は知らんのかいw
僕は10年前の動画を思い返していた。兄貴は【石柱】で頭を押し上げて反転させていたが、それは地面の土を大量に使える茶色だから出来たことだ。
青の僕が同じことをするには、大量の水がいる。
――だからこそ、このパターンだった!
「あるじ!」
胸ポケットから、小さなナックラヴィーが顔を出した。
「あるじのさくせんどーりだな! 水がいっぱいだぞ!」
「うん。やったね」
※:あらカワイイ
※:ナクラちっちゃ!
※:上級精霊をチビ化とか草
※:スゲー技術やが、使いモンになるんか?w
「ムッ! わがはい、あるじの【聖水】をのんでるんだぞ!? すがたはちっこくても、パワーはマックスだぞーっ!?」
「うん。いけるよね、ナックラヴィー?」
「いつでも!」
フンスッと、自慢げに輝くコバルトブルーの精霊を胸に、玄武の射程外で立ち止まると、彼女の眼下の水を指差した。
「【アイシクルアロー】!」
海から伸びた巨大な氷柱が、玄武のアゴをクリーンヒットする。
「ぐっ……!」
まだ浅い。体勢を戻そうとするので、その矢先。
「【アイシクルアロー】!」
立て続けに放ち、再度アゴをとらえる。
※:もいっぱあああああつッ!!
※:薫子様ーーー!!!! ツララでぶんなぐっちゃえーーーっ!!!!
※:ボディーはヤバイよ! 顔やんな、顔を!!
「ぐっ! こ、この……!」
「【アイシクルアロー】!!」
「ぐほっ!」
矢継ぎ早に命中させ、玄武の上体を浮き上がらせる。
「いまだっ、あるじ!!」
「よし! 【アイシクルアロー】・フルパワー!!!」
ズシャアアアアン!!
渾身の一撃を放つと、大きく仰け反った玄武が両手と尻尾をわたわたさせた。
「ぐ、わっ……。く、くぬぬぬぬっ……!」
※:倒れてろっ!
※:あっ
※:裏返るッッ
※:カメエエエ!
「もっ……! もうダメエエエ!!!」
踏んばりきれなくなった玄武は、スローモーションのように後ろへと倒れていった。
ドッ……ボォオオオオンン!!
巨大な水飛沫が立ち、それが緩やかに波へと変換されていく。
ふと気付けば、夜空から天蓋のごとく淡い光が降り注いでいた。見上げると、“次の部屋は109”の文字が輝いている。
「やった……!」
※:きたああああああ!!
※:夜バージョンのお披露目キター!
※:88888888
※:最後は気合いで押し込んだな
緊張の糸がゆるむなか、両肩にズシリと重みがくる。軽度の魔力欠乏からくる疲労だろう。
けれども、それはとても心地のよい倦怠感だった。
※:イッヤ~、ジョニーさんの【石柱】リスペクトで【氷柱】が最高やった!
※:激怒モードの大量眷属→大海嘯→ライトニングボルト→メイルシュトローム
※:しのぎまくってから怒濤の反撃!
※:本当に、本当に、なんて遠い廻り道………
「あるじ~っ! いえーい!」
「いぇい!」
ハイタッチをせがむナックラヴィーに、手の平をチョンッと当ててあげた。




