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幼女兄貴と往く異世界マンション攻略配信! ~頭を下げてお断りからの逆転成り上がり~  作者: ラボアジA


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2/11

2部屋目 何でもやる(ん?)

 帰るとき、事務のミツオさんに機材を返した。


「いやあ、薫くん。業界大手の課長さんにカミ技を使うなんて、心臓に毛が生えてるねえ」

「あはは……」

「ワイバーンも倒したそうだし、ジョニーくんも安心かな?」


 フードを被った幼女兄貴は、僕の背中で眠っている。


「かなり疲れてたんですね。手続きを色々してたって聞きました」

「うん。もし彼の休息中に何かあったら、力になるよ」

「お忙しい中、ありがとうございます」



 ◆  ◆  ◆



 住宅街を足早に歩くなか、背中でモゾモゾ動きがあった。


「んぅ……薫」

「あ、起きちゃった? もうじき家だからね」

「――大きくなったな」

「兄貴が小さくなったんだよ」

「ハハハ」


 頭をよしよしと撫でられた。


「これはもう、一緒にマンション探索だ」

「え、本当?」

「ああ。精霊を教えるに足る人物となったぞ。立派にな」

「――ありがとう、兄貴」


 お世辞でも嬉しかった。

 ミツオさんたち数人だけが知る、ヒミツの精霊である。探索が順調なら、おくびにも出さなかったハズだ。


「それにしても僕、ビックリしちゃったよ。兄貴が再起不能って聞いたからさ」

「フム。リタイアを考えていたのは事実だぞ」

「え?」


 ドキリとした。


 再起不能リタイア――マンションで致命傷を負ったさい、いつでも入り口で復活できる仕組みを指す。リタイア自体は屋外でも可能で、仮にいま幼女兄貴が実行したら、この場で21才の姿に戻るだろう。


 ただし。


「俺はマンションから永久に拒絶され、親父とお袋の探索も終了だがな」

「兄貴……」


 小さな両手が、僕の胸元にある青いブローチへと重ねられた。


「これからは、薫がメインだ」

「うん」


 兄貴が財布を忘れたとき、僕が立て替えたことがあった。その埋め合わせとしてプレゼントしてくれた、サファイアの精霊石である。


「大丈夫だよ、兄貴。今はゆっくり休んでて」

「そうだな、しばし眠りに就くとしよう。――ああ、次に起きたときは仰天させるからな?」

「えー、精霊関係?」

「フフフ。では、目覚めるまで、頼むぞ……」

「まかせて」


 今まで苦労をかけ通しだったもんね。出来うるかぎり肩代わりしなくっちゃ。


 幼女兄貴は、すぐにカワイイ寝息を立て始めた。サプライズを自白しちゃうほどだし、よっぽど疲れてたらしい。


「――ん。女装で尻込みしてちゃダメだよね」


 青い屋根の一軒家が近付いてきた。兄貴と2人暮らしの自宅である。


「何でもやるよ、僕」

(ほお)


 突如、脳内に声が響いた。


(今、何でもやると言ったかのお?)


 ん?


 小さな女の子の声に、あたりを見回す。


(くふっ。ワシの美声も、話し手が変わると別人かのお)

「え」

(お主に、おんぶされとるんじゃが)

「――ま」


 まさか!?


 咄嗟に首を向けると。


(初めましてじゃな、丈一の弟や)


 さっきまで兄貴だったハズの幼女は、瞳を紫にしてほほ笑んでいた。


(ワシの名はジニー。風の精霊をやっておる)

「あ……兄貴の、使役精霊……!」

(いかにも。お布施で稼ぐとは、実にクールじゃのお。さすがは「薫子様」じゃ)


 チュッと、ほほに湿り気を覚える。


「え、えぇっ!?」

(くふっ。お礼じゃよ)


 幼女ジニーは舌なめずりをした。


(丈一は冬眠状態に入ったでの。代わりにワシが、お主をみっちり鍛えてやるぞえ)

「あ……!」


 兄貴のサプライズ、効きすぎー!



 ◆  ◆  ◆



『そうだよ、薫くん。今の丈一くんは、ジニーが受肉した姿なんだ』

「――伏せてたんですね、ミツオさん」

『ゴメンゴメン、彼から口止めされててさ』

「はぁ……。痛み入ります」


 兄貴ってば、とことん僕を驚かせるのが好きだよね。


 電話を終えると、両手で頬杖をつく幼女がニンマリしてみせた。


「合ってたじゃろ、弟や?」

「うん。速くて変幻自在な風の精霊、【牡丹一華アネモネ】。中でもジニーは、高度な知性をもつ個体って聞いたよ」

「左様。ちなみに名付け親は丈一じゃ。今は休眠中のな」


 ジニーは視線を落とすと、僕の肩掛けカバンから替えの服を漁る作業に戻っていた。


「そもそもじゃが、赤目玉の呪文は体を分解させるシロモノでのお。直撃したら、一発で強制リタイアじゃったわ」

「ジニーが防いでくれたの?」

「んむ。魔力で実体化して、消えつつあった丈一の体にひっつけた。そこから意識だけをコッチに移して、再び切り離してやったわ」

「ありがとう、ジニー」

「なんの、朝飯前よ。――もっとも、維持には難儀しそうじゃがな」


 ジニーは、むにっと頬をつまんだ。


「この体を保つには、膨大な魔力が必要でのお。安定して補充できんと、ワシごと丈一の意識も消滅するぞえ」

「えっ? ――それって、タイムリミットは?」

「明日の朝飯前」

「ヤバいじゃん!」


 思わず立ち上がった。


「そうだ、ジニーは精霊だよね!? なら、僕の魔力を渡せない!? ずっと取ってていいから!」

「おや、契約成立じゃの」


 ジニーは唇を触った。


「回路は先ほどつないだし、速やかに吸えるぞ」

「あ。――さっきのキス」

「くふ。風は仕事も速いのじゃよ」


 投げキッスの要領で、2本指を向けてきた幼女精霊。指先が琥珀色に光った途端、激しい脱力感を覚える。


「うぐっ……!?」

「よし、成功じゃ。お主の魔力もタップリあるじゃろうし、どんどん吸うぞ」

「えぇっ!? ま、待って……」


 慌てて手で制する。


「僕、今日はマンションで、たくさん青魔法を使ったから……」

「んむ?」


 ジニーは目を瞬いた。


「ヤバいの、誤算じゃった。足りんぞ」

「そんな……!」

「ん~む。ひとまず、そこそこ回復してから吸うモードに変えたが……マズいのお」


 しばらくして、最低限の魔力が戻ってきたらしく、体はラクになった。


 ――でも、「供給量は減った」ってコトだよね。


「ねえ、ジニー。君に渡す人数って、増やせるかな」

「可能じゃが、誰ぞおるか?」

「うちの近くに、千桜汐音ちざくらしおんって子が住んでるんだ。彼女なら、兄貴を大好きだし、うってつけだと思うよ」


 千桜さんは、僕に「菊知くんのお兄さんが好き」って打ち明けてくれた、同級生の幼なじみだ。

 もっとも彼女ってば、妙に出会い運がないのか、なかなか兄貴と遭遇できない。そのクセ、兄貴がいる時は、「畏れ多いから」って僕のソバにいるし。


 そういえば、兄貴が財布忘れたのって、千桜さんへのプレゼントを選んでた時だっけ。結局、僕の案だった『ルビーのブローチ』が採用されちゃったし。――あれ。実質、僕からのプレゼントになってない?


 ピンポーン。


「ん、誰だろ」

「ワシが見に行こう」


 ジニーが、カメラ付きインターホンの確認に行った。背が届かないので、椅子に乗ってボタンを押す。


 ピッ。


「どちら様かな?」

『オ~ホホホ! お兄様ですわね!? あたくしの名前は、シィポン・サウザンドブロッサムズ! え~え! あたくしが来たからには、もう安』


 ピッ。


「のお、薫? なんか、赤と黒のミニスカドレスを着た、高飛車な貴族令嬢がおったんじゃが」

「ああ……それ、千桜さんのキャラだよ」


 赤髪ロングの、ヘッポコ悪役令嬢サマだ。たしか、純白の聖女・ミルニャンと組んで、《華麗なるマンションダイエット》って動画をシリーズ化してたハズ。


「大丈夫、不審者じゃないからさ」

「ぬぅ~む。イマイチ不安じゃが、開けるとしよう」


 ジニーは玄関へ向かった。僕も出迎えようと席を立つ。


 ――うぐっ!?


 直後、再び魔力を吸い取られた。


「はぁっ、くはぁっ……!」


 キ、キツい……けど、我慢!


 机の脇でしゃがみ込んでいると、玄関で扉を開ける音がした。


「ようこそ、汐音」

「オーホホホ! 光栄ですわ、愛しのお兄様……って、菊知くん!?」


 千桜さんが慌てて駆け寄ってくる。


「ねえ、大丈夫!?」

「う、うん。少し、疲れたダケだから……」


 僕は、千桜さんに肩を貸してもらい、どうにかベッドで横になった。



 ◆  ◆  ◆



「ありがとう、千桜さん……」

「精神的に、ずっと張り詰めてたのね。菊知くん自身も環境が激変してるうえに、お兄さんが女の子だもの」

「ん……面目ない」

「うぅん。むしろ、ご家族のために頑張れる菊知くんって、すっごくカッコイイんだから」


 ――たまに千桜さんは、僕をドキッとさせる。


 今だって、前に『あ……あたしは、お兄さんが好きだから。ほ、ほほ、ホントよ、ホント?』っていう、シドロモドロな告白を聞いてなかったらアブなかった。


 なので、正解の反応は。


「えーっと、シィポンお嬢様?」


 むくれた感じのジト目である。


「こんな僕を、褒めそやしたオチは?」

「オ……オーホホホ! 一生懸命な姿が、と~ってもカワイくってよ、青髪ウィッグの薫子ちゃ~ん?」

「うぐ、やっぱ見てたんだ……」


 千桜さんってば、どういうワケか、僕の動画は必ずチェックしてるんだよね。


「オホホ。さ~てと薫子ちゃん。自分も女の子になって、さぞかし大変でしょ~?」


 悪役令嬢サマは、ルビーのブローチに手を当てた。


「あたくしに何でもお言いなさい。力になるわよ~?」

「――ん?」

「アラ、食いついた? オホホ、すこ~しならエッチなこともOKよ? もっとも、薫子ちゃんがお口に出せるのなら、ね」


 からかうお嬢様をヨソに、僕は意識を切り替えた。


 そうだ……。兄貴がピンチだから、ジニーへの魔力を頼まなくっちゃ……!


 上半身を起こした直後、再び魔力を搾り取られる。


「ぐぅっ! う、ぐぐっ……!」

「菊知くん!?」

「はぁ、はぁっ……。だ……大丈夫」


 意識が持っていかれそうになるなか、必死で千桜さんの手にすがりつく。


「千桜さん……」

「なに、菊知くん!?」

「キ……キスして、ほしいんだ……」

「――ふぇ?」


 千桜さんは、ナゼか急激に顔を赤らめた。


「そ、そんな……。あ、あぁぁああたし、照れてる薫クンが見たいな~って思ってたダケで、マサカそこまで剛速球を返されるだなんて……」

「してくれなきゃ、リタイアするから……」

「えぇっ!?」


 千桜さんがさらに取り乱してるけど、僕も必死だ。


 ――このままだと、ジニーは体が維持できないって言ってた。

 阻止するには、彼女の協力が必要なんだ。


 つまり……絶対に退けない!


「お願い、千桜さん……。キスして……!」

「ひゅっ!? ぴゃ、ぴゃぁ~!」


 煙でも吹きそうな勢いの千桜さん。何か早口で喋ってるけど、か細くて聞き取れない。


 だけど、何でココまでパニックに……? あぁ、そっか。幼女姿とはいえ、「兄貴とのキス」だもんね。嬉しすぎて、舞い上がっちゃってるんだ。


 少し経ち、体がややラクになったので、耳元で囁いてあげた。


「クスッ……。シィポンちゃん、カワイイ」

「はぅっ! か、薫子サマ……」


 すっかり火照った悪役令嬢ちゃんは、しゃがみ込むと、掛け布団の端っこで口元を隠していた。


「あうぅ~……イジワル」


 ――やっぱり、ヘッポコだ。

シィポン嬢のこそこそ早口言葉

「ぴゃ、ぴゃぁ~! もう絶対バレちゃってるわ、あたしが薫クン好きなこと! 今までバレなかったのが不思議なぐらいなんだから、もう隠し切れないってば~。目の前で『誰好き?』って聞かれたとき、思わず『菊知くん……! の、お、お兄しゃんがシュキ!』って答えたけど、そのときの『嬉しい』って笑顔が天使かよ天使だよ薫きゅん、ハニャ~……」

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