12部屋目 無茶だけど乗る
SNSに、応援してくれた方々への感謝コメントをアップし、マスコミ対応をミツオさんに一任した僕は、翌朝、マンション前にメンバーの5人で集まった。
「リスナーの皆さん、おはようございます」
今日の配信は、Qの【勿忘草】と、猪尾さんの【向日葵】の2体で行っている。
※:おっは~! >薫子様
※:本日はアリスの衣装でおめかしか
※:ヒョードルをオトした伝説の服やんけw
※:1カメ、2カメ精霊助かる
「ムムッ!? おいらも負けねーぞ!」
深紅の妖精【鳳仙花】が、シュルルッと宙を舞った。
「おいらは令嬢様をアピールだいっ!」
「オ~ホホホ! アリスちゃんを手玉に取る、赤のクイーンよ〜!」
女王様がバッと羽根扇子を広げるや、背後の【鳳仙花】が大の字ジャンプで《自爆》した。
※:雑に処すなやヘッポコw
※:爆発オチなんてサイテー
※:なんで【鳳仙花】すぐ4んでしまうん?
※:ア、アストラルに還ったダケだから(震え声
「シィポン、あなたゴッテゴテの赤ドレスよね……」
「えーっ? でも今日はクイズだけだしー」
「動きやすさを考えなさいよ」
猪尾さんは、銀髪ウィッグなしの白いシスター服だった。
「ま、ナメクジさんほどじゃないけど」
「おいおい、くるみ。俺は機動性にも配慮したぞ?」
※:ナメクジが配慮? ハハッ
※:ほざきおるわ(紫の羽織袴をガン見
※:北九州の成人式かよテメーは!
※:配慮とはいったい……うごごごご
「お前らは洋装だよな? 今日の俺は、ズバリ和装! コンセプトは、『若侍のお披露目』にござる!」
「バカ寒いアナタでお開きよね」
「ん~む。まあ、緊張するよりは良かろ」
※:キャー、ジニーちゃーん!
※:水色のスモック服がこれほど似合う大人とは(哲学
※:白帽にも「決勝版」って書いてあるしw
※:はたらくジニーさんで草
「くふ。このワシがお主らに、21才の頭脳労働を見せてくれるわ」
どうみても園児な幼女は、右目をチョキで挟み、左ほほに人差し指を当ててみせた。
「さて、490の日本バージョンじゃが。巨石のボードから平仮名の文字タイルを集めたのち、天秤に入れて答えるようじゃのお、薫?」
「うん。千桜さんたちのチャレンジも改めて確認したよ。番人との戦い、惜しかったね」
「ぴゃっ!? う、うん。えへへ……」
※:なーに照れとんねんw
※:カァー、見んね! 卑しか悪役令嬢ばい
※:開幕ヘッポコ、助かる~
「して、ワシの見立てじゃが。答える時間が10秒掛かるごとに、文字を2コずつ制限するルール……。これは、焦らぬことが肝要じゃ」
幼女は、余裕たっぷりに伊達メガネをかけた。
「日本語は、他の主要言語よりもタイルが多いじゃろ? 今までの挑戦者は、リタイアがチラつく所為かどうしても慌ててしもうたが、落ち着き払えばお茶の子さいさい、茶番も茶番。ヘソで茶を沸かすユルさよの」
※:茶色だけにね! って、ヤカましいわw
※:ほんまジニーさんはお茶目やでぇ
※:まあ70個ぐらいあるしな >タイル
※:こんぐらいのプレッシャーは日常茶飯事よ
僕らは千桜さんのパイロットでエレベーターに乗ると、ピラミッド内部の雰囲気が漂う490へと転移した。
部屋についたら、何はともあれ案内板を確認する。
――――――――――――――――――――
490 オシリスの謎
・1人で1問解け、慎重に。
・2人で2問解け、のびやかに。
・3人で3問解け、優雅に。
・4人で4問解け、にぎやかに。
――――――――――――――――――――
――すごく自由だよね、後半の文言。
僕は、隣に立つ黄色い看板にも目をやった。
――――――――――――――――――――
オシリスの謎・基本ルール
・タイルを羽根の上皿に入れて答えよ。
・人数分の問題を解けばクリアとなる。
◆天秤に乗ったパイロットは、1回だけ、
「1問解答扱い」か「他メンバー全員の帰
還」のいずれかが選択可能となる。
なお、そのパイロットは、番人と戦うまで
降りられず、この部屋で死んだら強制リタ
イアとなる。
――――――――――――――――――――
――必ずみんなで帰ろう。
異世界つっぱり棒でエレベーターを開け放しにした僕らは、荘厳な石造りの部屋へと足を踏み入れた。
20m四方の空間の中央には、人が乗れるほど巨大な天秤が鎮座ましましている。向かって左側の上皿には羽根の絵が、右側には心臓の絵が描かれていた。心臓の上皿には、飛行機のタラップのように、昇るための石階段もセットされている。
「やあ、おはよう」
天秤の前では、緑色の肌をした上半身裸の青年が出迎えてくれた。
「4月に来るとは珍しいな。日本の挑戦者は3月が多いから」
「急用が出来ましたので」
「ああ、知ってる。君の睡蓮が美味しそうに食べてたものな」
※:やっぱ視てたよ、この冥府の神w
※:「緑はイヤらしいですぞ!」
※:でぇじょうぶだ、こっちにもナメクジがいる
※:ナ×ック星人VSナメクジ、ふぁい!(瞬コロ
青年は胸を叩いた。
「予はオシリス。冥界では死者の心臓を天秤に乗せ、その善し悪しを判断している」
「魂の計量、プシコスタジーですね」
「おや、予習かい? 感心だ」
※:マアトの羽と重さを比較するんやで
※:あるいは女神像とやぞ
※:↑ずいぶん勉強したな…まるでエジプト博士だ
※:日本で言うと閻魔様か
「では早速、ルール説明といこう。今から予が問題を出す。君たちは文字タイルで答えの単語を作り、それを羽根の上皿に投げ入れて答える。これを人数分こなせばクリアだ」
「最後の問題は、番人を倒すのもセットですよね?」
「ああ。タイルを入れた数が多いと、番人は力をセーブするな」
「逆に、1つも入れてないと本来の力だとか」
「その通り。では次に、審判を呼ぼう」
オシリス神が指を弾くと、天秤の真ん中に木製の机一式が現れた。
「席にいる彼はトート。予が問題を出すさい、判定まで行ってはお手盛りだからな。こうして審判を頼んでいる」
「いや、いねえぞ?」
「え」
Qの指摘にオシリスが振り向いた。
誰もいない。
「あれ? おーい、トート?」
※:おらへんで草
※:机がトート神やったか?(すっとぼけ
「え、嘘。マジ?」
「マジです、オシリス」
「いるじゃん!」
※:後ろから、ぬ゛っ!w
※:知恵の神トート、とーとつに出現
※:この動きは…トキ!(テーレッテー
朱鷺の頭に成人男性の体をした神、トート。冥界では書記係をしていて、書物の管理者とも呼ばれる。
「私は翻訳も担っています。言葉が通じない場合、そもそもオシリスの問題が分からないので。それは、本質ではありません」
「予をオドかすのも、本質じゃないよなあ!?」
※:冥府の神のバックを取る、悪知恵の神よw
※:これ絶対サスペンスで最初にやられるヤツー
※:「お」まえは「しりす」ぎた
「閑話休題。あなた達が問題に答えるさい、オシリスと私も、答えを提示します」
「マイペースだな……、トート」
「審判なのでね、オシリス」
ふわりと浮いたトート神は、背中の巨大なパフォーマンス筆を、そっと机の脇に置いてから着席した。
「あなた達の答えた文字数が、私の答えと同数以上だった場合、上皿にタイルを5つ追加します。さらにあなた達は、オシリスが用意した100問の題名を見たのち、好きな1問を次の問題として選べます」
――今回のボーナスは、タイル5つと問題選択権か。絶対欲しいね。
トート神は、パピルスの巻物を几帳面に整え直すと、やや大きめのノート型パソコンを開いた。
「なお、あなた達の文字数が私未満で、かつ、オシリスの文字数が私以上だった場合、オシリス側が好きな問題を選べます。この場合、タイルの変動はありません」
「おおっと、予としたことが。肝心のタイル紹介がまだだったな」
オシリス神は、黄金のスカラベが意匠された右手の小指の指輪をなでた。
「今日はサービスだ。文字に加えて、数字も用意しよう」
「あ、ありがとうございます」
やった、使えるタイルが10増える!
オシリス神が再び指を鳴らすと、天秤の両脇に巨石がせり上がってきた。向かって右が、たまに出てくる数字タイルで、左の羽根側が、いつもの日本語タイルだろう。
「――あれ?」
「どうした、相棒?」
「なんか、左の石に文字が彫られてるような……」
「んー、どれどれ? 最初は……Aかァ?」
「筆記体ね」
猪尾さんが、心底イヤそうに吐き捨てた。
「しっかり綴られてるわ。『アルファベット』って」
「だよね、コレ。まさか……?」
「フッフッフッフ」
オシリスは、カールした顎髭の先を優雅に擦っていた。
「最近は日本語が続いたのでな。たまには、英語のアルファベットも乙だろう?」
※:うわうわうわ
※:コイツやりやがった!
※:難易度デレかと思ったら鬼かよォ!?
※:待って、ジニーさんがピカソにw
「――え、えげれす語?」
「うわっととと……。お、お兄さん」
千桜さんが、フラつく幼女を支えた。
「あの、『マンション内は自動翻訳だから、英語は捨てた』とかいうウワサ……、さすがに嘘ですよね? お兄さんはムリでも、ジニーちゃんなら大丈夫ですよね、ね!?」
「ワ、ワシ……」
震える手でメガネを外したジニーは、ギュッと目をつぶった。
「にほんごしか、わからん……! だってワシ、よんさいじゃから……!」
※:ジ、ジニキー!(号泣)
※:令嬢も崩れおちたァーッ!
※:おいたわしや、兄上……
※:英語はお茶濁してたし残当
(あー、君たち)
オシリス神から【精神感応】がきた。
(わざわざタイルを変えた本当の理由、察しがつくよね?)
(んぐっ……、ワシが精霊じゃからか)
(そう。予が問題を出すのは、答えを通じて、人間の生きてきた軌跡が見たいからだ。なのに、【牡丹一華】の君が、人間のフリまでして頭数に入る? 相当ズルいよね)
(おーっと、オシリスさんよ)
Qが手で制した。
(精霊だの人間だので分けるのは、そりゃもう差別だぜ。これだけ喋れて意思もあるなら、人間カウントでいいだろ?)
(――君は、Q次郎だったかな)
(おうよ。あとなァ、ジニーは英語じゃ戦力外だ。実質4人で5問なら、制裁としても十分すぎンだろ)
(ふむ、実にお喋りだね)
(お誉めの言葉ありがとよ)
(神にも臆さず、大した強弁だ。――褒美に、ジニーが精霊だと暴露してやろう。この場でな)
(ゲッ!)
Qはスグにひれ伏した。
「マジすんませんっした、オシリス様!」
「――君、変わり身早いね」
「薫、汐音、くるみ! おめーらも頭下げろ!」
「誰のせいよ」
「くるみ下げろ!」
一同そろって頭を垂れると、オシリス神はため息を吐いた。
「まあ、盤外戦術は予の本意ではない。全力の叡智を見たいダケだよ。本来、日本語の話者にアルファベットなど邪道だからな。――ああ、これは本心だぞ? フッフッフッフ……」
※:なにワロてんねんw
※:絶対ウソで草
※:い、一部視聴者にも刺さるのヤメロ(ドキドキ
「おお、そうだ。叡智を楽しめるよう、制限時間にも趣向を凝らそうか」
指をパチンと鳴らすや、周囲の壁に等間隔で巨大なオブジェ群が出現した。砂時計に似ているが、中身は水で、合計42個。
「くびれのことを蜂の腰と言うのだが、水時計のここを大きく広げて、1秒ずつにするのはどうだろう?」
「ええっ!?」
「おや薫、なぜ驚く? 予からの謎は、まだ始まっていないんだ。つまり君らは、不服ならいつでも帰れるんだぞ? 無傷でな」
「うぐっ……」
※:ロコツに足下を見てる……イヤらしい
※:別ルートで再走だろ
※:うがぁー、でも他の部屋もキッツいぞー、、、ってアレ令嬢!?
※:オイオイのぼってるー!!!!!
「――千桜さん!?」
「菊知くん、分かったわ……。理不尽なルールをはねのける方法が」
階段を昇りきったお嬢様が、ガシャンと心臓の上皿に飛び移る。
「さっさと乗っちゃえば良かったのよ」
「千桜さん!!」
アッサリ行ったため、却って止められなかった。
「ム……ムチャだ! 今の1秒ルールが!!」
「いいえ、菊知くん。ゲームにはもう審判がいるわ。さっきのは疑問形だったから、ただの提案。そして、トート神の公平性は、前も体験したから大丈夫よ」
「でも!」
「今までは、オシリスの言うとおり『無傷で帰れた』。だから、トート神も口出ししなかったわ。イヤなら受けなきゃいいんだから。――でも、あたしたちは違う。もとより『帰れない』。なら、乗るしかなかったのよ」
千桜さんは自嘲気味に笑った。
「ゴメンね、菊知くん。あたしの覚悟が足りてなかった」
「千桜さん……」
「でも、もう大丈夫」
親指をグッと立てたお嬢様は、一転、オシリスを冷ややかに見下ろした。
「ねえ、神様。人間の生きてきた軌跡をご所望? なら、とくとご照覧あれ」
自身に向けていた親指を、くるっと下に向ける。
「選ぶわ。『1問解答扱い』」
「――いいだろう」
視聴者コメント
※:うおおおおおおお!!
※:グッド!
※:b→p
※:もう戻れんぞ
※:そっちか!
※:宣戦布告やでぇ




