11部屋目 最適ルートのインストール
ドアの前でヒドく狼狽える兵藤くんをよそに、救護室のお嬢様とジニーはニヤついていた。
「ふふ~ん、あたし聞いたー。ヒョードルくんってば、冷静に水先案内人が出来るって言ったー」
「んむ、ワシも聞いたー。すごいのー、憧れちゃうのー」
カゼの設定など、ドコ吹く風の幼女精霊。
対する兵藤くんは、生温かい風当たりにタジタジだった。
「ぐっ……。き、貴様……。人類未踏の新ルームには、丸3日間もの単独探索権があるんだぞ? 初日をパイロットに費やしても、独占配信が出来るんだ。どれほどの価値になるか……!」
「なら、ますます兵藤くんに渡したほうがいいね。僕は兄貴のサルベージで掛かり切りになるから」
「――本気か?」
「いつもね」
お嬢様と幼女様に見送られた僕らは、組合を出た。
マンション前に行くと、ミツオさんを始めとした大勢の冒険者から拍手される。
「いや~、薫くん! 709の別解、鮮やかだったよ! 体調はどうだい?」
「ええ。ご心配をお掛けしました」
「今回のパイロットは君だから、探索メンバーを選んでね」
「さっきは誰で挑みました?」
「リーダーが小さな丈一くんで、あとは僕と、兵藤くんと高橋くんだよ」
ドラフトメンバーを手で示してくれた。高橋くんは、白づくめのノッポくんだ。
「それじゃあ、白は猪尾さんに変更します。そして、1度行ったあとは、兵藤くんに711の探索権を譲渡しますので」
みんながザワつくも、ミツオさんはほほ笑んだ。
「お兄さんに似てきたね、薫くん」
「え? 魔力も判断力もまだまだですよ?」
「でも、嬉しいでしょ」
「そりゃあ、少しは」
ミツオさんに含み笑いされてしまった。――参ったなぁ、絶対バレてる。
本当は、めちゃくちゃ嬉しいってことが。
僕らはエレベーターに乗り込むと、すかさず四隅に散った。ボタン前に陣取った僕が“異世界”“7”“1”“1”“決定”と押すと、無事に転移が始まる。
直後、ミツオさんたちは慌ただしく補助呪文を掛けていった。僕も、気休め程度の【盾】をみんなに張る。
「フン。俺から行くぞ、パイロット」
「わかった」
「よし、【シャドウ】召喚」
兵藤くんが手をかざしたエレベーターの床から、体長30cmほどの黒い小山が出てきた。到着するなり、サッと外に出す。
「クリア。無反応だ」
何か攻撃を受けると自動反撃するシャドウは、探索の初手でよく使われる。
ミツオさんの【水晶球】で、ホログラム越しに石造りの迷宮部屋だと確認。素早く案内板もチェックする。
――――――――――――――――――――
711 4つの箱
――――――――――――――――――――
――違う、か。
お父さんとお母さんの消えた部屋じゃない。
次に、猪尾さんが【生命感知】で精査した。
「菊知くん。半径100m内に、私たち以外の反応はないわ」
「ありがとう。じゃあ最後のステップだね」
僕が兵藤くんを見てうなずくと、彼は外に一歩踏み出した。
タンッ。
そしてすぐに足を戻す。
「異状なしだ」
以降、ミツオさん、猪尾さんの順で1歩だけ迷宮に足を出し入れし、初回の探索は終了。僕が速やかに“異世界”“1”“決定”と押すと、再び転移が始まった。
「ふうっ……。肩の荷が下りたよ」
「フン、まだだ。俺の代わりにメンバーをガイドしてもらうぞ」
「あ、もう権限移譲?」
「貴様が言ったことだろう」
「あはは。――うん、頼りにしてる」
ニッコリ笑うと、兵藤くんは顔をそむけた。
「弟、お前は追加で1回すれば用済みだ。どこへなりと行け」
「お役目からの解放だね。ありがとう」
猪尾さんとミツオさんに役を振らないのも、僕が今後、メンバーに選ぶ可能性が高いからだろう。
現実の1階に戻ると、兵藤くんは鹿野さんたちに国内3箇所のレベル4マンションへ割り振りを行ったのち、スマホで各所に連絡していった。
――彼に任せて正解だったね。
兵藤くんの代理となった僕は、〈闘犬女子〉の鹿野さん、〈白ノッポ〉の高橋くん、〈緑豆〉の那須野くんと共にエレベーターへと乗り込む。
「あ、あンなあ……弟くん?」
闘犬女子がこわごわ近付いてきた。
「ウチを助けてくれて、ありがとうな」
「鹿野さん」
「……って、キチンとお礼言ったきね。ヒョードル様に、さっきすごく怒られたき。『わだかまりが山ほどあろうと、助けられたら礼を言うんだ。これすら出来ん人間を、俺が好きになると思うか?』って」
犬耳が思いきりへたっていた。
「あとな……? おまさんに上手くいってほしいがは、本心やったき」
「うん」
「師匠を助けるために、ウチらも力を貸しちゃるけん。な、回復コンビ?」
「そうッスよ!」
「ですです!」
「――ありがとう」
到着後、彼女たちは1歩を踏み出せたので、僕は晴れてバトンタッチ。高橋くんは上野へ、那須野くんは高崎へ、そして鹿野さんは出雲へと、それぞれ旅立っていった。
◆ ◆ ◆
「――以上が、僕の初パイロットでした」
Q次郎との配信で報告すると、再びお祝いコメントでログが押し流された。
※:祝 ☆ 偉 業 達 成 !
※:ブラボー……おお、ブラボー!
※:「ワシが育てた」
※:ジニーさんって意味ならあってて草
※:こ~んなステキな男の娘は、ナンボいてもいいですからね!
※:女装の歴史は古い、古事記にも書かれている
※:本当に書かれてるのはNG
「あのぉ。では皆さん、そろそろ本題に……」
※:お、せやせや
※:ハイハーイ、以後称賛や脱線したい人は別の場所でね~
※:え? このあと何やるの?
「はい。兄貴を助けるロードマップの構築です」
「つーわけで、リスナーども。叩き台の案を出してくれ」
※:ヨッシャ!
※:ったく……/// しゃーねーな(ガシガシ
※:攻略動画を見まくっとるワイにスキはなかった
※:813は誰で挑むのー?
「1人は桐山さんの予定です。――Q次郎、感触は?」
「おお、速攻でスケジュール埋まってたらしいがな。なーに、さっきの配信で最終日のOKもらっといたぜ。極上のスマイルでな」
※:極上……? 妙だな(首かしげ
※:ほんとかー、ひきつってなかったかー?
※:笑顔とは本来凶悪なもの……
「それとよ、薫。配信中にフサフサから電話が来て、クリアを褒め千切ってたぜ」
「え。――それだけ?」
「へっ。当然、サルベージは手伝えねえとの嫌味付きだ。〈安心プロジェクト〉が聞いて呆れるな」
冒険者が総崩れになるリスクを避けるため、部屋には目安の難易度が設定されている。たとえば、“104:路地裏”だとC、“709:海岸”ならAという具合に。
マンダンのような大手でも、今のサルベージ対象はおおよそ7階の難度Aまでだ。その考えは理解できる。
――でも、それだと813の兄貴が助けられない。
「他には何か言ってた?」
「おう。『ハハハ、ナメクジくん。異世界への転移は1日1往復がルールだよ? パイロットなんかはあくまで例外さ。悪友の君が、優等生の薫くんを唆さないでくれたまえ』とか抜かしてたな」
「1日1往復、パイロットは例外か……」
僕はウィッグ越しに頭をかいた。
「それじゃあ、探索権だけは兵藤くんに譲ったけど、無制限に昇る権利は僕のまんま……とか、言ってもいい?」
※:んー、これは優等生!w
※:引き下がる気は毛頭なし!(ペカーッ
※:実際どうなん有識者? 出来るんけ?
※:OKやけど、ジニキばりに薫子様もいい性格してて草
「へへっ。ならいっそ、パイロット権ごと返上させようぜ」
「そうだね、傍目にも分かりやすいし」
「ハッハー! フサフサが因縁つけたばっかりに、お宅のヒョードルちゃんが涙目~!」
「――うん。めっちゃ怒るね、課長」
※:そらもう怒髪天を衝くやろ(髪があるとは言ってないw
※:頭(脳プレイ)が光りますな
※:ロングの薫子様ってば、チョウハツ的で好き
※:おまいら配慮せいw 「ハゲ」散らかすほど同意だがな!
「けど、まぁ……。ここは無理せずいこっか。兄貴もルールを守ってたし」
「そンなら、残り4日で4部屋だな。ラストは813だから、選ぶ部屋は3つだぜ」
※:1ミスが命取りか
※:なーに、ジニキの課題をクリアしたんだ、いけるいける
※:ナクラを完全体で出せんかなー
※:そら無理やろ、ジニーさんもオーブありきじゃなかったし
「あ、すみません……。僕が桐山さんにキチンと渡せてれば……」
※:ええんやで(ニッコリ
※:しゃーない、切り替えてこ
※:薫子様の魅力がアレで全世界に広まったからおk
※:ヤダ……薫子様(の運)、ガバガバ……?
「あはは……」
※:話戻すが、ジョニーさんは薫子様にサルベージを託したんだよな?
※:そら(709をクリアしたから)そうよ
※:本人に聞けば……ってカゼやったね
※:お大事に言っといて下され >薫子様
「あ、はい」
はうっ、良心が……。う、ゴホゴホ。
※:なーに、ジニキイズムは過去動画で履修済みよ
※:課題全クリした今の薫子様ならば……これだ!
男の娘度:SSS
※:かわョ度:SSS
※:兄ラブ度:マママママーベラス
「オイ、てめーら。なんで揃う?」
※:ナメクジ、切れた!w
※:これには薫子様も苦笑い
※:全くおまいらときたら(呆れ
「ったくよぉ……。ガチの評価しろや」
※:あいよ つ魔力量B、質SSS、射撃SSS、制御SSS
※:まったく、とんだピーキーだぜ!(だいしゅき
※:呪文の精度は高いけどすぐガス欠か
※:――これ、いっそ盾きたえる方がいい?
「ん? えっと、盾とは?」
※:ああ、108の亀退治ルートでんな
※:発動条件が[神に認められし者]必須じゃないですかヤダー
※:それ、ほぼ神退治しろってコトじゃね?
※:またカミの話してる……
※:でも薫子様の【盾】強くできたら大化けするぞ
「ふむふむ」
※:最終日の813で防御の人数減らせるのは良き
※:代わりにアタッカーか索敵投入で
※:そこにジニーちゃんもプラス
※:いけるやん!
「分かりました。では、明後日の108を攻略の軸にしましょう。あとは、[神に認められし者]の称号を取れそうな部屋と、【盾】の習熟ができる部屋をピックアップします」
「よっしゃ。気合い入れろ、野郎ども!」
※:オメーのためじゃねーよ
※:しゃしゃるなナメクジ
※:ミ青めの塩
※:薫子様のためダルルォ?
「当たりキツいな、野郎ども!?」
そして30分後。
明日は490のクイズ部屋に挑戦し、5日目に108、6日目はそれまでの結果で分岐させると決まった。
「では、明日の確認ですが。千桜さんが先月490に挑戦していたので、部屋には行けます。ただし、そこはパイロットに強制リタイアの危険があるため、別ルートをとるかもしれません」
「ま、そんならその時だ。ドコを選ぶにせよ、神は倒す。カンタンな話だな?」
「うん」
急遽復活した僕らのチャンネルは、こうしてお開きとなった。
あとは、千桜さんの許可だけである。
◆ ◆ ◆
「ムリィィー!!」
「えーっ!?」
僕は自宅のリビングで愕然とした。
「ち、千桜さん!? たった今、『どこでも任せて』って言ったじゃん!」
「でも、490だけはダメなのー!」
「それって、強制リタイアのリスクがあるから!?」
「違う!」
「じゃあ、なんで!?」
「……なるから」
「え?」
「重く、なるから!」
グッと手をつかまれる。
「いい!? 490ってね、パイロットが天秤に乗る選択も取れるじゃない? そのとき、クリアに失敗するとエレベーターで帰れなくなるんだけど、システム的には、天秤に乗った時点で体重が1トンになってるの!! しかも、クイズを進めるたびに倍々になっちゃうのー!!!」
「く、詳しいね」
「めっっっっちゃ、調べたから……。この部屋に限っては、菊知くんよりも!」
ヤバイ、目がマジだ。
けれど千桜さんは、不意に力を抜いた。
「ふふっ……。まっあ~、こう言って断るのは、菊知くん以外の場合ね? 菊知くんには、それなりの……う、ゴホンゴホン。お、お兄さんっぽい……ゴホッゴホッ、せ、『説得』をしてくれたら、悪役令嬢が昇ってあげてもよろしくってよ? オッホホホホ~……」
「――あー」
兄貴っぽく勧誘してみせろってことね、はいはい。
「いっつも言うけどさあ、僕と兄貴は違うからね?」
「そ、そこはホラ! あたし、妄想力あるし!」
「……悪役令嬢ってなんだっけ」
「オ、オ~ホホホ! さ~薫子ちゃん? あたくしを満足させなさ~い?」
それで、スーグ調子乗るしね。
深いため息をついたのち、僕は兄貴っぽい振る舞いをインストールした。具体的には、自信ありげに剛胆な笑みを浮かべ、グイとお嬢様に迫って壁に手をつく。
「『なあ、汐音』」
「ひゃ、ひゃい!」
「『俺と一緒に来てくれ』」
「ピャッ!? い、いく! いきます! う、ウォッケーィ!」
――大丈夫かな、千桜さん。悪化してない?
ともあれ、490が本決定した。
隣室のジニー「大丈夫じゃない、問題じゃ」
薫「あれ、ジニー。聞いてたの?」
ジニー「汐音がどんだけ叫んだと思うよ」
汐音「ゴメンなさい」
※次話は掲示板回




