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探検LoG 009 変わらない母

4人に囲まれている俺は俯いた。


全身から汗が湧き出てくる。


ここで「神がいた」なんて話せば、魔探局に報告される。

そしてその話は、あっという間に街へ広がるだろう。


英雄になれるわけじゃない。


それはつまり――俺自身が利用されるということだ。


魔探局とは、そういうところだ。


「古代の人形みたいな魔物に襲われた。それで気がついたら浮遊島にいた。それからスパイラルバンに追われて……浮遊島から落ちるしかなかった」


俺は最大限、話し方に気をつけた。


まるでそれが真実であるかのように。


沈黙が続く。


無言のまま、

「そんなの嘘だろ」と言われている気がした。


「話したり広めたりしませんよ。誰にも。だから教えてください」


青髪の女が優しい顔で言った。


……逆に怖い。


悪意は見えない。

だが、取り繕っている気がする。


「魔探局に報告するんだろ?」


俺が言うと、4人は目を配らせて頷いた。


「おぅ、勘違いしてるみたいだな」


親父が言った。


「俺たちは浮遊島を目指してる。魔探局にも誰にも話さねぇよ」


「先を越されたくないからな。……もう越されたみたいだが」


俺は何も答えなかった。


「俺が嘘をつかないのは、お前もよく知ってるだろ?」


確かに嘘じゃない。


俺は仕方なく、浮遊島について話した。


大した情報はない。


ただ――魔石の中に少女が入っていることには、みんな驚いたようだった。


だが。


行き方だけは話さなかった。


ただ、気づいたら浮遊島にいたとだけ。


「信じ難い話だな」


「おぅ」


「コロン神なんて……絵本の中でしか見たことありませんけど」


皆、硬い顔をしていた。


話したことだし、帰るか。


俺は門へ向かって歩き出した。


その時。


後ろから親父の声がした。


「家に帰ってこい」


少し間があって、親父は続けた。


「……いや、帰ってこいとまでは言わねぇ」


「レビィに、顔だけでも見せてやってくれ」


俺は驚いた。


その言い方が――お願いみたいだったからだ。


⸻回想⸻


俺はガキの頃、探検家になるのが夢だった。


だが、それは幼いころのことで

物心ついた時には諦めていた。


だが、何故か初心学校の卒業の時には気持ちが変わった。


探検学校に行くと。


初心学校を卒業した日。


初めて家族三人で食卓を囲んだ。


その時に言うつもりだった。


「探検学校に行きたい」と。


それまで俺は、卒業したら普通学校に進むことになっていた。


当たり前みたいに。


だが、自分の希望を言えば、

きっと認めてもらえると思った。


「探検家になりたい。探検学校に行きたい」


『おぅ、駄目だ。絶対にな』


答えは一瞬だった。


「なんで?父さんは探検学校に行ったじゃん!」


俺は焦りながら言った。


「おぅ、いいか。よく聞け」


親父は俺の胸に拳を軽く当てた。


「死ぬぞ」


そしてもう一度。


胸に拳を押し当てた。


「鼓動も止まり、体も動かない、そして何も見えなくなる」


「世界から消えるってことだ」


何度も、静かに拳を当てられた。


危険職。


そんなことは、分かっていた。


だが俺にはこう聞こえた。


『お前は弱い』


俺は怒りながら言った。


「分かったよ。普通学校に行く」


だが――


どうも俺は、ガキの頃から騙すのが好きだったのか。


それとも狂っていたのか。


その日の夜、夢を見た。


何かが、誰かが、導いてくれる夢。


内容は覚えていない。


12歳だった。


家の水道についていた水の魔石を乱暴に外し、それだけ持って家を出た。


母には悪いと思っている。


感謝もしていた。


母は優しすぎる性格だった。


いつも中立。だから敵でもあり、味方でもあった。


家出してからは遠い街を目指した。


馬車の屋根に乗り、夜の木船に飛び移り、遠い水の街へ行った。


街では路地で寝た。


よく行ったのは沼地の探検フィールド。


だが門が開いても、俺は大人たちに弾き飛ばされた。


入ることすら難しい。


何も持って帰れない。


そんな日ばかりだった。


金なんてほとんど無い。


畑仕事をしているおじさんに、泥沼フィールドの泥を大量に運ばされたり。


魔物を倒して部位を売ったり。


それで生活していた。


……まぁ。


今話したのは、ほんの一部だ。


本当は。


屋台から物を盗んだり。


迷子の子供のふりをして魔石を盗んだりもしていた。


街を歩けば追いかけられ、怒鳴られる。


ずっと地獄みたいだった。


だが。それでも楽しかった。


10年経った今でも。


Cフィールドを巡っている今でも。


『ありふれた生き方のまま朽ちて死ぬより

面白そうな道を選んで死んだ方がいい』


家出した時、俺はこの信条を信じていた。


だが。今でもこれが正しいのかは分からない。


なぜなら。


それが正解かどうかは――死んだ時にしか分からないからだ。



顔くらいは見せるか。


母、どれだけ老けてるかな。


「家に帰る。本当に」


「おぅ、すまないお前ら。俺も早めに切り上げていいか。レビィの顔が見たくてな」


「あぁ、行ってこいよ」


黒シャツの男が言った。


「魔探局には、生存者はいなかったと報告しておこう」


赤髪の男が言う。


それを聞いて、俺は目を見開いた。


「生存者がいない?」


「お前以外、生存者はいない」


「金髪の女はいなかったか?貴族みたいな装備で、赤い宝石のポーチをつけてた」


「残念だが、中心付近で死んでた」


黒シャツの男が言った。


「ここらの貴族じゃなさそうだ。大事にならなければいいが」


「おぅ、一生背負っていけ」


俺は吐き捨てた。


「気にする価値もない」


俺は家へ足を向けた。


「おぅ、すまないお前ら。俺も帰る」


それから。


親父と俺は、何も話さず歩いた。



神秘樹から実家まではすぐだ。


畑に囲まれた小さな集落。


クレート村。


数10軒しかない木造の家。


だが。


『神秘樹』と『トルノ巣』へ来る探検家や観光客のおかげで、村はまだ生きている。


村の端。


黒い木で作られた一階建ての家。


広い庭。石垣。一本の高い木。


なぜか村の象徴にもなっている木だ。


ここが実家だ。


懐かしい。


庭に入ると母が木の下で椅子に揺られ、本を読んでいた。


綺麗な二度見だった。


親父の横にいる俺を見た瞬間。


母の顔が崩れた。


涙が溢れていた。


だがおかしい。


10年経ったのに。母の顔はほとんど変わっていない。


20代みたいな肌。長い金髪。優しい目。


気づけば芝生に本が落ちていた。


そして。母の顔が俺の肩に乗っていた。


「おかえり、マルコ」


静かな声だった。


親父はそれを聞くと。


何も言わず、家の中へ入っていった。

おかえりなさい。

帰ってきたの。

悪い子ね。


ーーー記録者 レヴィ•ポロローーー

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