探検LoG 005 自然の神
「良い子ね、カエリ」
さっきのクソガキはカエリという名前らしい。
カエリは神殿の奥へ移動し、静かにそこに立った。
俺はコロンと呼ばれている女の前で、
やむなくひれ伏す形になった。
「あなた、名前は?」
落ち着いた声だった。
「ポロロ・マルコ。
それより足がヤバいんだ。手当てしてくれないか」
「今、治してあげましょう」
自然のような女は椅子から立ち上がり、こちらへ歩いてくる。
治せるはずがない。
……それでも。
その言葉を聞いた瞬間、
俺は安心していた。
⸻
それから――記憶がない。
⸻
「目覚めましたか」
声で目が覚めた。
俺は知らない場所にいた。
白い柱が並ぶ神殿。
奥の椅子には、女神のような女。
その横には白黒の服の少女。
……あぁ。
俺は死んだのか。
見た感じ、地獄ではなさそうだ。
「ここはどこなんだ?」
俺は女に聞いた。
「浮遊島ですよ」
女は答えた。
「あなた、そこから来たのでしょう?」
「浮遊島……?」
俺が?
「そう。各地に五つあるうちの一つ」
女は静かに言った。
「ここはコロン浮遊島」
そして。
「私がコロン」
コロン神。
自然を司る神。
……いや。
そんなのは空想の話だ。
「俺は死んだのか?」
「死後に行き先などありません」
コロンは言った。
「何があったのかは、足を見れば思い出すかもしれませんね」
足?
俺は自分の足を見た。
……何もおかしくない。
いや。
おかしい。
そうだ。
足は無かった。
人形にやられて――
池に落ちて――
特殊魔石に力を込めて――
空に。
……そうか。
浮遊島だったのか。
……は?
浮遊島?
「礼は言うが」
俺は言った。
「どうやって治した?
俺の右足は池に落ちたはずだ」
「容易いこと」
コロンは微笑む。
「神に不可能はありません」
……便利な言葉だ。
「俺はここから帰れるのか?」
「えぇ、もちろん」
コロンは言った。
「もう一度、白い魔石を辿れば」
そして続ける。
「親も心配しています。早く帰った方がいいでしょう」
だが。
コロンは言葉を止めた。
「ですが」
「一つ、使命を与えます」
「使命?」
「カエリを地上に連れていくこと」
「嫌だね」
即答した。
「俺はそいつが気に入らない」
「神に不可能はないんじゃないのか?」
コロンは首を振る。
「私はこの神殿から離れてはならないのです」
そして静かに言った。
「使命を放棄するなら、足を元に戻してあげましょう」
……。
脅しか。
「わかった」
俺は言った。
「だが、その少女を地上に連れていく理由は?」
コロンは奥のカエリを見た。
「こんな狭い浮遊島で生涯を終えるのは、つまらないでしょう」
「ただ」
「カエリに地上の景色を見せてあげたいのです」
俺はカエリを見た。
少女は、じっとこちらを見ている。
「とは言っても」
コロンは言った。
「あなたは魔石を持つだけでいい」
「カエリ、こちらへ」
少女がコロンの前に立つ。
コロンは胸元で手を向かい合わせにした。
指先の間に――
白い光が生まれる。
少しずつ形になる。
魔石。
……魔石を生み出しているのか?
「この魔石に辿りなさい」
その瞬間。
カエリは魔石に手を伸ばし――
消えた。
「まさか」
俺は言った。
「魔石に入ったのか?」
「えぇ」
コロンは頷く。
「人を取り込む特殊魔石です」
「そこから自由に出られるのか?」
「出られません」
さらっと言いやがった。
「ですから」
コロンは言った。
「いずれ、ここに返しに来なさい」
「そうですね」
「旅が終わった時に」
「俺の旅が終わるのは」
俺は言った。
「俺が死んだ時だ」
コロンは微笑んだ。
「そうですか」
そして。
「まぁ返さなくても構いません」
小さく続けた。
「いずれ戻って来るでしょうから」
……なんだその言い方。
「引き受けた」
俺は言った。
「まともに世話できる保証も、安全の保証もないけどな」
魔石から出られないなら。
まぁ、そこまで問題でもない。
「絶対に肌身離さず持ちなさい」
コロンは言った。
「死が見えたら、親に届くよう誰かに託すのです」
コロンは魔石の上を指でなぞった。
すると。
緑の紐が生まれる。
魔石はペンダントになった。
「頭をこちらに」
俺はしゃがみ、頭を下げる。
コロンがペンダントを掛けた。
「そうだ」
俺は思い出した。
「門が閉まったままだ」
「それに人形の魔物もいる」
コロンは言った。
「早く行きなさい」
「調査員が来ています」
「門は開いています」
そして。
「4日も眠っていたのです」
「母親も心配しているでしょう」
「人形の魔物は?」
俺は聞いた。
「今どこにいるんだ?」
コロンは言った。
「いませんよ」
「そんな魔物は
俺は言われるまま神殿の入り口へ向かった。
……4日も眠っていたのか。
首に掛かった魔石を見る。
神殿を出て、最初に来た場所へ歩き出した。
緩やかな階段を降りる。
ペンダントに触れる。
紐は植物だ。
しなやかだが、妙に硬い。
魔石はうっすら白く光っている。
もし壊れたら。
……少女はどうなる?
死ぬのか。
それは避けたい。
神を敵に回す趣味はない。
森を進んでいると突然、声が聞こえた。
「ガァァァァアアー!」
不快な何かの声が森中に響き、木がざわつく。
ばっと振り返る。
嘘だろ。
臭い、汚い、無礼な男がやってきた。
本当は行きたくないけどしょうがない。
こんなやつと一緒に過ごすなんて、
それにどうしたら。
ーーー記録者 カエリ ーーー




