探検LoG 004 転移の魔石
目を開く。
景色が変わっていた。
目の前には、やはり神秘的な森。
だが木の位置が、まるっきり変わっている。
視線を落とす。
そこには、さっきの白い魔石。
だが周りはもう池ではない。
⸻
足の断面が芝生に擦れる。
激痛。
いや。痛みを通り越して、冷たく、熱い。
俺は自分の体を見た。
何度も。
分かっているのに。
そのたびに涙が込み上げてくる。
血が芝生を赤く染めていく。
意識がぼやけてきた。
吐き気もする。
⸻
風が強い。
やけに強い。
俺は後ろを振り返った。
……地面が途切れている。
幻覚か。
ついに幻覚まで見えるようになったらしい。
驚く気力すらない。
だが。
森を囲んでいるはずの石塀が――ない。
地面が終わっている場所の先には、
空が広がっていた。
下には、雲。
平らで、歩けそうな雲がゆっくり流れている。
⸻
ここはどこだ。
……そうか。
山頂だ。
きっと山のてっぺん。
今、空を飛んでいるんだ。
さぁ。
雲の上を歩いてみよう。
⸻
……そんな子供みたいな夢から覚めた。
だが。
俺はまだ空の上にいた。
下。
はるか下。
そこには陸地がある。
レンガ色の迷路のような街。
街の中央には、
要塞のような白い城。
さらに奥には、大きな湖。
水色の砂丘。
赤い砂漠。
左には青い火山。
右には黄色いジャングルと山々。
世界が、
全部見えていた。
俺はその景色を見続けた。
足の痛みは、もう感じない。
この景色の中では――
痛みも。
時間さえも。
迷い込めないようだった。
⸻
あぁ。
不思議と心地いい。
自然なんて、
今まで綺麗だと思ったことは一度もなかった。
だが。
この景色は違う。
見ていると。
記憶が全部消えてしまいそうだった。
気付くと、泣いていた。
なんで俺は泣いているんだ?
あぁ。
また意識が消える。
駄目だ。
ここで意識を失えば――
死ぬ。
本能で分かる。
⸻
俺は腕で体を引きずった。
体の向きを変える。
匍匐前進。
森の中へ。
森には、一本の直線ができていた。
まるで――
道のように。
奥へ。
奥へ。
本当は三足歩行で進みたい。
だが腰が上がらない。
俺は這い続けた。
⸻
やがて。
白い建物が見えてきた。
神殿のような建物。
ここまでどうやって来たのか。
もう覚えていない。
白い鳥居。
俺は匍匐前進でくぐった。
西洋風の神社。
白い森に溶け込む、繊細な建築。
それほど大きくない。
だが――
ひっそりと、
神のように建っている。
⸻
扉は閉まっていた。
巨大で、近寄り難い扉。
俺は言った。
「助けてくれ」
その瞬間。
扉がゆっくり開いた。
俺の声が届いたのか。
⸻
中から出てきたのは。
白い服を着た少女だった。
不思議な雰囲気。
どこかで見たことがある気がする。
……いや。
無いか。
「助けてくれ」
少女は俺を見ると、
静かにお辞儀をした。
そして階段を降りてくる。
白と黒の服。
髪は後ろで結んだショートヘア。
その動きが妙に綺麗で、
俺は目を離せなかった。
「早く助けてくれ。頼む」
少女は言った。
「こちらへどうぞ」
そう言うと、
少女は神殿へ戻っていった。
……俺を置いて。
歩けないのが分からないのか?
どうやって階段を登れっていうんだ。
触りたくないってか。
俺は階段を這い上がった。
体を引きずりながら。
⸻
神殿の中に入る。
奥。
そこに。
王座に座る女性がいた。
緑の衣装。
緑の髪。
見ているだけで、
自然を感じるような存在。
その女性は優しい目でこちらを見ていた。
少女が言った。
「コロン様。お連れしました」
ただ痛かった。泣いていた。
俺は何のために探検してんだ。
金のためだけならパン屋でも開けばいいだろ。
とにかく今日はさんざんな日だった。
ーーー記録者 マルコ・ポロロ ーーー




