探検LoG 002 消えた男
魔石探検家へ。
私は自然に殺された。
命を賭けてまで探す価値のあるものなどない。
自然に飛び込むな。魔石探検に関わるな。
未知のフィールドや魔石の探索を今すぐ辞めろ。
自然は突然、牙を剥く。
――記録者 ギルガメシューー
俺は木々の間を飛び移りながら進み、
そいつ目掛けて大きく木から飛び降りた。
着地点は――
白髪の男にドンピシャ。
よし。ここなら水の魔石に力をこめれる。
水力で魔石をこちらに手繰り寄せるか、
爆発させて混乱させるか。
どうする?
だが、その瞬間。
変質者の足元から濃い霧が湧き出した。
霧は男の体と水の魔石をすぐに包み込み、
瞬く間に周りの木々の間へ広がっていく。
まじかよ。
くそ、水の魔石もアイツも何も見えない。
俺は霧の中へ飛び込んでしまった。
「くそ……どこ行った?」
霧を切り裂くように手探りする。
だが――誰もいない。
消えた?
困惑しているうちに、霧はゆっくりと薄れていく。
視界が戻る。
だが、
周りを見渡しても、白髪の男はいなかった。
その時だった。
背後で、誰かが笑った気がした。
「にヒィーん///」
振り向く。
その瞬間――
俺の意識は飛んだ。
最後に見えたのは。
そいつが持っていなかったはずの――
武器の一部だけ。
⸻
目が覚めたとき。
空と神秘の森は、オレンジに淡く染まっていた。
俺は芝生に大の字で体を預け、ぼんやり空を眺める。
木々の葉の隙間から、空高くに浮かぶ島が見えている。
浮遊島。
端からは滝のように水が流れ落ち、
下にはゴツゴツした岩が幾重にも重なっている。
そして一番下の先端。
正方形の岩が、刺さるようにぶら下がっていた。
まだ誰もあの島に行ったことはない。
そこには神が住んでいる――
そう言われている。
浮遊島の下を、雲がゆっくり流れていく。
俺はそれを目で追った。
そしてふと腰のポーチを開く。
……見るまでもない。
光の魔石は入っていなかった。
終わっ……たー。
これじゃ生活に響くなぁ。
門が開くのは、あと50日後。
大体のフィールドの門は、50日周期で開く。
理由は単純。
魔石が成長するまで待つためだ。
⸻
【魔石の成長過程】
1 透明な石が地上に形成される
2 約35日かけてゆっくり縦に成長
3 成長停止から5日後、初めて色づく
※普通魔石の場合
⸻
あー、戦うやつミスった!!
「馬鹿か俺!金に目がくらんで、判断ミスってんじゃねぇ!」
……いや。
あながち間違いでもなかった。
Cフィールドだぞ、ここ。
あんなやつ普通はいない。
Cフィールドに来るのは、
・観光気分の探検客
・探検家学校の生徒
・落ちこぼれの探検家
・年老いた趣味探検家
大体このどれかだ。
あれだけの実力の奴が、わざわざ来る場所じゃない。
グレードCのフィールドに来る本職の探検家は、
恥だと言われるくらいだからな。
……いや。
そもそも、あいつ。
魔石が目的じゃなさそうだった。
魔石を地面に落として、
深呼吸してたくらいだし。
⸻
魔石が採れるフィールドには四つのランクがある。
下から
C
B
A
X
これは危険度を表している。
この森にいるのは夜行性の魔物だけ。
しかも全部、音を立てるだけで逃げる雑魚ばかり。
魔物も弱い。
地形も安全。
だから――
この【神秘樹】は最下級のCフィールド。
⸻
シダが風で揺れ、顔をかすめた。
「ざけんな!」
思わず声が出る。
……いや違う。俺の声じゃない。
門の方から聞こえた声だ。
吐き捨てるような怒声。
どうせ魔石の取り分で揉めてるんだろう。
魔石探検家にはパーティーを組む奴もいる。
だが、
「自分が見つけた」
「俺が割った」
そんな理由で揉めるのは日常茶飯事だ。
俺が仲裁してやるか。
「間を取って――これは俺の魔石ということで」
そして全力逃走。
完璧な解決策だ。
俺は立ち上がり、門へ向かった。
⸻
森は石塀に囲まれている。
王国へ魔物が出ないようにするためだ。
木より高い石塀。
その上には赤い旗。
門はその下にある。
門の前まで来た時、
まだ13人の探検家が残っていた。
……いや。
閉じ込められていた。
巨大な黒い両開きの門は――
閉まっていた。
なぜだ。
俺は門の横で座っている大男に聞いた。
「なんで門が閉まってる?」
「わからない」
男は呟いた。
もう出られないと悟っている顔だった。
その時。
後ろから女の声がした。
「ねぇ。このまま門が開かなかったとしたら」
振り向く。
金髪の女。
高級そうな探検装備。
腰には赤い宝石付きのポーチ。
「ここで野宿することになるわ」
女は言った。
「ここを抜け出すために――」
「協力しましょ」
協力?
……よく言う。
今、一番狙われているのは
お前だ。
街の貴族が遊び半分で探検に来たんだろう。
Cフィールドは観光客も多い。
資格なんていらないからな。
だが残念。
ここにいる連中は――
全員、一匹狼だ。
ほら。あいつも。あいつも。
倒木に座ってる男も。みんな。
女のポーチか、
胸元を見ている。
……まぁいい。
この女が襲われそうになったら助けに入るか。
命の恩人。
それで家族ぐるみの関係まで持っていければ――最高だ。
そう思った時だった。
森がざわついた。
「なぁ、今なにか感じなかったか?」
俺は皆に聞こえるように言う。
「感じるって?」
「おい若いにいちゃん、そっちの話かよ」
倒木のおっさんが笑う。
違う、
森の中心の方から――何か来ている。
カサカサ。
葉が擦れる音。
確実に近づいてきている。
「怖いこと言わないでよね」
金髪の女が言う。
その瞬間だった。
誰も警戒していなかった。
倒木に座るおっさんの――
すぐ後ろに。
すでに。
何かがいた。
ソイツの顔がゆっくりとこちらに向いた。
久々に森で弱いオバケが出た。
今だ、今だ、早く。早く、やらせろっ///
おっと、落ち着こう。
ーーー記録者 ユ ーーー




