第五章 痛みと覚悟
前回から一週間後、和田から連絡を受けた沙織は、探偵事務所に再度足を運んだ。和田が出迎え、もう一つの調査結果を渡した。健太が不倫相手とどれほど密接に関わっているのか、またその子どもにどれだけの時間を費やしているのかに関する詳細だった。
《……ご主人は、女性とその子どもと、まるで家族のように接していました》
報告書の一文が、沙織の胸を刺し、ページをめくる手が震える。
鳥海山 木のおもちゃ館、土田牧場、横手の雪まつり……、三人で仲睦まじく外出を楽しんでいる様子が何ページにも渡って記録されていた。
そこには、見知らぬ子どもを優しく抱き上げる健太の写真があった。
――奈緒が苦しんでいる時、よくもこんなことを…
喉の奥が焼けつくように痛んだ。
健太が女性の肩を抱き寄せ並んで座る様子は、長年連れ添った夫婦のようにも見える。沙織は、健太を見つめる女性の甘えたような視線に、嫌悪感を覚えた。
《ただ、ご主人は、常時一緒にいるわけではないので、障害児を育てている女性の負担はかなり大きいはずです。おそらく、その子どもは、今後の障害の進行具合により、さらに多くのケアが必要になると思われます》
報告書の言葉は、沙織を更に深く考えさせた。この子どもが健太にとって、どれだけ重要な存在だったのかを知った沙織は、ある種の理解が芽生えた。だからといって、健太の行動が許されるものではないことも分かっていた。
沙織は、決心を固めた。
――このことを、健太に突きつけるべきだ。感情を抑えて、冷静に話さなければ……
沙織は、探偵に報酬を支払い、感謝の言葉を静かに伝えた。「ありがとうございました。これで、全てを知る準備ができました」
和田は、少し心配そうに見守りながらも、頷いた。「あなたがどう進むかは、あなた自身が決めることですが、心の準備はしておいてください」
そして別れ際、言いにくそうに沙織に耳打ちした。「これは報告書に記載していないことですが、ご主人は奥様とは別れないとおっしゃっているそうです。あくまで噂レベルの話ですが」
沙織は一瞬、動揺を見せたが、深く息を吸って「ありがとうございます」とだけ伝え、静かに事務所を後にした。和田は、沙織の震える視線を静かに見つめていた。




