第一章 突然の告白
秋田の秋は、今年はいつになく早く訪れた。十月に入ったばかりだというのに、竿燈大通りのケヤキが真紅に染まり、歩道に落ちた葉がひとつひとつ、踏みしめる度に音を立てた。
その音が、重しを引きずるかのように重く、沙織の胸に響く。刺すように冷たい風が頬をかすめ、彼女は目を閉じた。心の奥底から、冷え切った感覚が広がっていくようだった。
「今年は、一段と骨身に沁みるわね……」。 沙織は、そんなことを呟きながら窓の外を見つめた。
その夜、沙織は健太を食卓に呼び寄せた。普段なら、食後に二人でテレビを見たり、ゆっくりとした時間を過ごすのだが、この日は違っていた。健太がソファに腰掛け、新聞を広げようと手を伸ばした瞬間、沙織は深い息をつき、言葉を選ぶように一語一語を口にした。
「少し、話があるの」
健太は顔を上げ、驚いたように目を細めた。「どうしたんだ?」
「ねぇ、私たちの間に、知らない時間がある気がするの。……覚え、ない?」
その言葉が部屋の中に重く響き渡る。困惑した健太は、眉をひそめた。沙織はその表情に苛立ちを覚え、腹の底から怒りが湧き上がってきた。意志の力でなんとか抑え込み、冷静に言葉を続けた。
「これ、見て」。沙織は立ち上がり、手に持っていた封筒から写真を取り出し、健太に向かって見せる。
健太の顔が一瞬で青ざめ、言葉を失った。その瞬間、沙織は心の中で覚悟を決めた。胸の鼓動が激しく響いたが、どこか冷静さを保っている自分を感じた。
「これは、何?相手と、日時と、状況を、具体的に説明して」
健太は、唇をきつく結び、所在なく両目をキョロキョロと動かした。
「浮気してるんでしょう?」 。沙織の声は、低く、そして淡々としていた。「そして、あなたの子どもがいるのよね?」
その言葉に、健太はようやく口を開いた。「お前…。そんなふうに言われると、俺だってつらいんだよ」
「今さら、言い訳?」 。沙織は彼を見据え、冷徹な口調で続けた。
「ねぇ、奈緒が病気で苦しんでいるとき、あなたは何をしてたの?あなたが愛人の元に通い続けている間、私は娘を一人で必死に支えていたわ」
沙織の目が潤む。三年前のことを思い出すたび、胸が締めつけられるようだった。一つ一つ切り出した言葉が、次第に冷たく、鋭くなっていく。
「あなた、ずっと私と娘を騙してきたのよ。あなたがしてきたことは、私にとって、そして奈緒にとっても、最も許せないことだった」
その言葉が、健太の心に深く突き刺さった。彼は何も言えずに黙っていた。沙織は平常心を崩さずに、静かに告げた。
「私たちに、未来はあるの?」
健太は言葉を失い、うつむいて唇を噛みしめた。




