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第六話

 村から出て、街道を走る。地を蹴るたびに、土煙が後方を舞う。それほどの速さでアルトは走っている。


「とりゃあ!」


 掛け声とともに、剣が空気を裂いた。剣を取り出して、振り返りざまに切り払った。

 甲高い金属音が鳴る。火花が散る。


 魔族たちが、ゆっくりとこっちに向かっていた。三人とも同じ鎧をつけ肩には大剣を模した紋章が見える。


「フェリス様を迎えに来ました。お嬢さん、渡してくれますかな?」


 真ん中のケンタウロスが、できる限り柔和な声を出そうとしているのはわかる。しかし、威圧感を隠しきれていない。

 彼の目は少しも笑っていないのだ。


 アルトは大きく息をついて、フェリスを後ろに隠すように剣を構えた。


「迎えに来たなら、いきなり斬りかかるのは社交辞令かなんかなのか?」

「……いやはや、これは手厳しい。先手を取ろうとして防がれるとは思いもしませんでしたから」

「つまり、フェリス様を殺そうとしたで間違いないね?」


 アルトの言葉に、背後のフェリスが肩を跳ね上がらせるような気配があった。呼吸は浅くなり、掴んでる手に力がこもる。

 震えているが、逃げはしなかった。


「間違いないね」


 そのケンタウロスの言葉を合図に、左右で控えていた魔族たちが一斉に飛び出す。

 一人は大剣を、一人は長剣を振りかざした。


 最初に到達したのは大剣。両手で振り降ろしたそれは、アルトを力任せに押しつぶそうとするものだった。しかし、身をかわして軽々と避ける。

 大剣が地面に当たり、大きな音ともに地面を抉った。その合間を縫うように、長剣が差し込まれる。


 首下ギリギリを通った長剣は、首の薄皮一枚を斬った。

 生身のままなら死んでいた。魔族の身体能力でよかったと安堵してしまう。


 心の中で冷や汗をかきながらも、アルトは攻撃に転じる。


「ほう?」


 見ていたケンタウロスが感嘆の声を漏らしている間に、アルトは二人の魔族を切り倒していた。

 

「中々やるな」


 ニヤリと笑う彼は、背中からバトルアックスを降ろす。

 彼は獲物を見定めた狩人のように、目を細める。


「な、なんでこんなことするんですか!?」


 戦闘に割って入ってきた声は、フェリスのものだった。彼女は杖を握りしめたまま、前に出る。彼女の尻尾が不安そうに揺れていて、先は微かに震えていた。

 それでも、バトルアックスを構えるケンタウロスを睨む。


「こんなことして何になるんですか!?」

「何になるか……か。少なくとも、平和ボケしたあなたのお父様の考えを変えられると、ルファ将軍は思っているようだが」

「考え……?」


 まだ状況が飲み込めてないのか馬鹿野郎と、心の中で叫ぶ。

 フェリスの腕を引っ張り、剣を突き出した。甲高い金属音が鳴ったあと、振り下ろされようとしていたバトルアックスは粉々に砕ける。


「やっぱり、拾った武器は脆くてかなわん」


 ケンタウロスはそれだけ言うと、後方に飛び退った。


 雄叫びが上がる。街道脇の森に住んでいた鳥が、びっくりして飛び立った。

 ケンタウロスの腕が大きく膨れ上がった。血管が浮き上がり、ただならない雰囲気をまとう。

 茶色い肌が、血の気を失ったように蒼白くなる。彼の腕の中に、新たなバトルアックスが生成される。


強化ブースト魔法!?」


 それは、魔族が知るはずもない新しい魔法形態。身体能力を五倍も十倍も引き上げる代わりに、本人の命を削る魔法。

 その魔法を使える人間は、一人しか知らない。


 マリーナの魔法──かつて勇者と旅をともにしてきた魔術師が生み出した禁術。


「第二ラウンドと行こうぜ……!」


 風が彼の圧倒的な迫力を証明するかのように、周囲の落ち葉を巻き上げた。


──どうなってるか、ケンタウロスから聞き出したいところだが。


 ちらりとフェリスのほうを見る。彼女の瞳は、恐怖で揺れていた。


──フェリスを守りながらだと手加減はできないっ!


 ケンタウロスの迫力に押し負けまいと、アルトは地を踏みしめる。剣を両手で握り、相手を睨む。


 振り下ろされるバトルアックスは、先ほどのものとは比べものにならないくらい大きくなっていた。造形も黒や茨などをモチーフにされており、禍々しくなっている。

 巨大な圧にも負けず、アルトは剣で受け止める。剣身に右手を添えて、力を込める。食いしばる歯が、擦れて軋む音が鳴る。

 内蔵が揺れたような痛みが走る。

 腕の骨が嫌な音を立てる。肩から腰、足にかけて痺れが広がっていく。靴の裏からは擦り切れるような音が広がる。


 ただでさえ怪力の魔族が、強化魔法を使えばこれほど恐ろしくなるのか。アルトは身をもって味合わされた。


 フェリスの方に目を向けて、逃げろと掠れた声を漏らした。

 魔王の娘を逃がすために命を張るなんてどうかしてる。そう自嘲気味な笑いを漏らす。


 フェリスの目からは一筋の涙が溢れた。しかし、彼女の震えが止まる。


 杖を握っていた。底を床に打ち付けて、鈴のような音を鳴らす。


「やめてください!」


 はっきりとした声とともに、辺り一面が光りに包まれた。

 

 何が起こったかは分からない。しばらくは視界が真っ白に塗りつぶされる。しかし、あのバトルアックスの重みがなくなる。


 晴れた視界の先、見えたのは何の変哲もない街道。ケンタウロスの姿は、どこにも見当たらない。


「……え?」



 何が起こったか分からず、周囲を見渡す。


 フェリスと視線が合う。彼女は安堵したようなため息をつくと、ふらりと気絶した。

 倒れる彼女を抱きとめながら、アルトは小さく息をつく。

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