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第四話

「フェリス様、オークが襲ってくることは日常茶飯事なんですか?」


 村人たちの手で片付けられているオークの死骸を見つめる。アルベルトは岩に腰を掛けながら頬杖をついていた。


「一体や二体ならありえますけど、こんなに群れで襲ってくることはほとんどありません」


 フェリスは村人たちの作業を見つめながら、少し考えるように首をひねっていた。

 どうやら彼女も思うところがあったらしい。


 アルベルトが見た限り、村にはこれと言った守護結界が張られていない。衛兵の姿は何人か見えるが、はぐれた魔物から村を守れる程度の人数だ。


 最初、アルベルトは魔物と魔族は同じ敵だと扱っていた。だから守護がなくても大丈夫なんだと思った。しかし、現状は違う。


 オークは魔族を襲う。


 それを意味することは、防衛設備がなくて村が存続している理由が分からないのだ。

 あんな大襲撃が何回も続けば、命がいくらあっても足りない。村人たちも毎日気が気でないはずだ。


──何かあるな。


 アルベルトの直感がそう告げているが、口に出さないことにした。

 魔族たちに教えてやる義理はない。それに、こんな分かりやすい兆候すら気づけないのなら、助けてやる義理もない。


「アルト、宿に戻りましょう」


 フェリスが微笑みを向けてきた。彼女はこの異常事態に気がついていない。

 ならば、合わせて見なかったふりをするだけだ。


「フェリス様、そのアルトっていうのはなんですか?」


 心の中を悟られないようにしながら、ずっと気になっていたことを尋ねる。


「えっと……本名だと色々大変だろうと父が」

「……なるほど」


 あの魔王は気を遣ってくれているのかいないのか分からない。頭を抑えて、言葉を飲み込む。


 実際、本名がバレれば何が起きるか分からない。最悪──人間たちに捕まって、何をされるか察するのも嫌だった。


「分かりました。私はアルトと名乗ります」


 そうアルベルト──アルトが言うと、フェリスは嬉しそうに微笑んだ。



※※※※※※※※※※



 夜。村の者たちがみんな寝静まった頃、アルトは先ほどのオーク撃退現場にやってきていた。

 地面についた血の痕跡を触って確かめる。


「……やっぱり」


 魔物のものとは別の粘ついたような魔力反応が混ざっていることを察する。つまり、オークは操られてこの村を襲撃してきたのだ。

 なぜ襲撃が起こったのか、考えられる要因はフェリスだろう。彼女の訪問以外で、この村を襲う価値などあるはずがない。


 暗闇に混ざって、どこか粘着くような視線を感じた気がした。嫌な雰囲気だと、アルトは顔をしかめる。

 自分の尻尾が、心情に合わせて上下に揺れていたことに気がついて思わず顔を真っ赤にする。


「揺れるな……勝手に!」


 尻尾を抑え、なんとか平静を装う。


──魔王の娘の存在は人間側は知らなかった。少なくとも、私の知ってる範囲では。


 教会が情報を隠していたのならあるいはと考えたが、こんなにも手際よく魔物の襲撃を行えるとは思わない。

 “あらかじめ、ここに来ることを予想できていなければ”この奇襲は成立しないのだから。


「魔王め、完全にわかって私を護衛に置いたな?」


 魔族も一枚岩ではない。だから、ゼウネスの魔力で制御できる勇者を、フェリスの護衛役に置いた。実際、フェリスを殺そうと思ったそばから、彼女への殺意がそぎ落とされてしまう。


 小枝を踏んだような音が背後から聞こえて、慌てて振り返る。そこには、目をこすって眠たそうなフェリスが立っていた。


「フェリス様、何か用ですか?」

「……アルトこそ、どうしたんです? 一緒に寝ようと思ったら、部屋にいなくてびっくりしました」

「……一緒!?」


 アルトの驚きに、フェリスは首をこてんと傾げる。


「一緒に寝たほうが、アルトも護衛しやすいでしょう?」


 あぁ、この子は本当に世間知らずなのだ。

 「任せた」とため息混じりに言うゼネスの姿が、アルトの脳裏をよぎった。


「それで、こんなところで何してるんですか?」


 尋ねられて、何でもないと首を横に振る。

 先ほども言ったが、教えてやる義務はアルトにはないのだから。


「眠れなくて少し散歩をしてただけです」


 話をそらすように言うと、彼女が納得したように頷いた。


「そうですか、では抱きしめながら寝ましょう。あったかくするとよく眠れますよ」

「……ぶっ」


 自分がどれほど危ない発言をしているのか、この子は分かっているのだろうか。

 いや、純粋そうな瞳を見て、分かっていないんだなと察する。


 魔王の娘にしては箱入り娘すぎると、大きくため息をついた。この先自分の心臓が持つかどうか心配になってくる。

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