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第三話

 魔族の村を襲撃するオークの集団。それを見て、アルベルトは愕然とする。

 アルベルトの知っている知識では、オークも魔族の一員とされてきたからだ。


「な、なんで仲間割れみたいになってるんだ?」


 その困惑が口から漏れる。


「なんでとはなんででしょう? オークは魔力の残滓から生まれた魔物ですから、敵対するのは当然です。そもそも、話が通じませんから」

「い、いやいや。オークも魔族だろ?」

「……? いえ、オークは魔物です。この世界の癌です」


 フェリスとは認識が合わない。どうやら、何か前提が違っているらしい。


 彼女は手に杖を取り出して握る。それは木でできたシンプルなものだった。杖の頭には、赤色の珠がつけられている。


「『守護する光よ、防ぎたまえ』」

「光魔法!?」


 フェリスが唱えたのは、防御魔法を展開する光属性の魔法。それは聖女が得意とするものであった。


 防御魔法は治癒魔法よりも高度な魔力調整能力が必要とされる。一人分を覆うのにも高い集中力が求められる。

 しかし彼女は、村一つ分を軽々と覆った。


 光の壁に阻まれたオークたちは、雄叫びを上げ、鼻息荒く、地団駄を踏む。


「どうしたのですか?」


 呆気にとられているアルベルトに、フェリスは振り向いて小首をかしげた。


「私が侵入を防いでおきます。アルトはオークたちを倒してください」

「あ、あぁ……」


 その純粋でまっすぐな瞳に見つめられて、思考が一瞬止まる。

 気がつけば思わず頷いていた。


 しかし、アルベルトの剣は魔王に折られていることを思い出す。そのことをフェリスに言うと、彼女は杖に魔力を送りながら優しく微笑んだ。


「大丈夫です。魔族はそれぞれ固有の武器を持っていますから。望めば、形になります」


 納得はできない。

 望めば出てくるなど、到底理屈では説明つかないのだから。


 しかし、確かにフェリスは杖を出すときは何もないところから握り出していた。


 半信半疑で手を前に出してみる。

 目を瞑って念じてみると、何かそこにあるような気がした。空気が震えて、指先に重さが乗る。


 アルベルトはそれを掴む。


 目を開けると、黒い柄に白銀の刀身の剣が握られていた。勇者の剣のようで、少し威圧的な印象のある剣だ。


 アルベルトは構えて、地を蹴る。

 跳躍力が前より増していた。展開されている防御結界を軽々と越える。


「えっ、──わっ!」

 

 風にひらめくスカートを抑えながら驚く。


 空中でくるりと体勢を整える。宙を蹴るように、アルベルトはオークたちに向かって加速した。


 剣身が光る。その白銀色の輝きが尾を引くように、剣を振るう。先頭にいたオークたち数体を、ものの一秒でごま切れにしてしまった。


「……ぇ」


 自分の身体能力の向上に、思わず喉の奥から震えた声が漏れる。勇者の時でさえ、ここまで力は出せなかった。


 自分が人間ではなくなりつつあることに、心の奥に暗い影を落とす。


「ぶおおおおおおお!」


 仲間を殺られたオークが、鼻息を荒くする。瞳は血走っており、完全に怒り心頭といった様子だ。

 棍棒を振り回してくる彼らに、アルベルトは少し後ずさった。


「ちょ、ちょっと待って!」


 自分でもまだ自分の変化を処理しきれていないのだ。こんな時に平常心で戦えるわけがない。

 しかしそれでも彼らは待ってくれない。


 近くのオークが、棍棒を振り上げる。あれが振り下ろされれば、人間一人なら簡単にぺちゃんこだ。


「『サンダー』」


 そんなアルベルトの耳を掠めるように、フェリスの呪文が聞こえた。


 落雷の音が周囲を駆け巡る。


 防御結界の後ろから、オークに対して雷魔法を当てている。その威力は絶大で、数体まとめて黒焦げにした。


 フェリスのアシストに、胸をなでおろした。

 今は魔族だとか人間だとか考えてる暇はない。まごついていたら、それだけで命を落とすのだ。


 剣を握り直して、アルベルトはオークたちに向かって駆け出した。



 オークたちを全滅させたあと、村人たちから歓声が上がった。男も女も手を取り合って喜んでいる。


「ありがとう、その杖ゼウネスさんの娘さんね?」

「はい、そうです」


 村人からの感謝を受け取るフェリスはどこか恥ずかしそうである。頬をかき、ぎゅっと杖を握りしめていた。


 一方、アルベルトは深い息をつく。自分が魔族を守ってしまったことに対して、底しれない罪悪感が湧く。

 勇者として信じてきたものが崩れる。そんな気がした。


「お姉ちゃん、ありがとう!」


 そんな彼女の元に、魔族の子どもたちが寄ってきた。その純粋な好意を目の当たりにして、言葉に詰まる。


 代表するように一人の女の子が、小さな花を渡してくれた。

 受け取り、ぎこちない笑顔を浮かべながら「ありがとう」という。


 笑い合う村人たちを見てアルベルトは、人間と同じだと小さく呟いた。

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