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第十話

「あーもう、まじイライラする」


 マリーナはルファ将軍の簡易駐屯所の喧騒から離れながら、地団駄を踏んだ。


 あの偽善者勇者のアルベルトから離れられたまでは良かった。


 自身の死を偽装して、自然と脱落。あとは魔王と勇者が共倒れしてくれれば良かったのだ。

 待っているのは人間たちの祝福。

 そして、魔族を好き勝手に実験して新しい魔法を開発する悠々自適の人生だけだった。


 しかし、蓋を開けてみれば魔王によりあっさりと殺された。

 本当に使えねぇなと、舌打ちを百回くらい勇者の死体に浴びせたい。


「ほんと、なんであたしがこんなくっさい魔族と一緒にいないといけないわけ?」


 遠くから聞こえてくる下品な笑い声に耳を塞ぎたくなる。

 

 教会は魔王を倒せなかったことを許してくれなかった。そして魔王を倒すまで国に戻るなとまで命令がくだった。

 さすがのマリーナも教会には逆らえないので、従わざるを得ない。


 だったら最大限においしい思いをしてやろうと思って、フェリスという魔王の娘を捕まえることにした。

 ルファという魔族の将軍を使い、裏切るまでに至らしめた。内部事情を聞き出し、フェリスがいる地域にオークを送り込んで彼女の場所を突き止めた。


「なのになのになのに……っ!」


 使えない魔族たちは、彼女を捕らえることはできなかったのだ。


 こうしている間にも、いつ魔王が動くか分からない。ときは一刻を争うというのに。


 苛立たしげに杖を振り降ろした。マリーナが素材から拘って自分で作った杖だ。自分の攻撃魔法を最大限強化するようにできている。

 杖の先から放たれた炎は、テントの一つに引火する。巨大な炎を作り、中にいる魔族ごと焼き払った。


「何ごとだ!」


 異変に気がついたルファ将軍が駆けつけてくる。マリーナと塵となったテントを見比べて、大きく肩を落とした。


「マリーナ殿……あまりそういったお戯れはやめてくだされ」


 デュラハンである彼は首の炎が感情のように動く。大きく炎が膨らんだときは、必ず起こったときである。


「そんなの知ったこっちゃないわよ。あたしの目の前で騒ぐほうが悪い」

「これだから人間は……」

「何? 消されたいの?」


 杖の先を向けると、怯えたようにルファ将軍は身を縮める。

 黙っているが、彼の抱えた頭がこちらを睨んでいた。


「何もできないやつほど偉そうだよね〜本当にやになる」


 大きくため息をついた時だ。天空から何か大きな光が迸った。


「『プロテクト』!」


 反射的に防御魔法を展開した。ルファ将軍も大剣を出す。


 空から降ってきたのは、無数の光でできた斬撃。魔族たちの喧騒が悲鳴へと一気に変わった。

 ルファ将軍はさすがの身のこなしで全部弾き飛ばしていたが、彼以外が生き残っているかは怪しい。それほど攻撃の密度が濃かった。


 その証拠に、マリーナの展開した防御魔法が少し欠けてしまっている。勇者アルベルトですら、刃を通すことができなかった魔法なのに。


「不意打ちとは卑怯な! 姿を見せよ!」


 ルファ将軍が吠えると、彼は大剣を振り回す。巻き起こった風が、周囲の空気を一掃する。


 更地になった場所には二人の魔族の女の子が立っていた。

 一人は褐色白髮の女の子。もう一人は白肌白髮の女の子。どちらも似たような角と尻尾をつけて、赤い瞳をこちらに向けている。

 白肌の方は、マリーナと視線が合うと肩を跳ね上がらせた。それでも持ってる杖を強く握りしめている。


「フェリス様……!」


 ルファ将軍の声を聞いて、マリーナはニヤリと口角を上げた。

 鴨が向こうからネギを背負ってやってきたのだ。これこそ天の恵みといったものだろう。


 一歩前へ出て、ルファ将軍に尋ねる。


「どっちがフェリスなの?」


 少し考えた後、彼は杖を握りしめる少女の方を指差した。


「へぇ〜。じゃああんたは褐色の方の相手をお願いするわ」


 そう言って、彼の肩に手を乗せる。


「『強化魔法(ブースト)』」

「なに……を?」


 ルファ将軍の困惑した声が途切れた。彼の身体が、大きく膨張する。鎧は歪に歪み、炎は大きく揺らめいた。


 天に大きな声を上げる姿は、まるで理性をなくした獣のようだ。その醜い姿に、マリーナはクスクスと笑う。


「外道だな」


 褐色肌の魔族に言われて、カチンとくる。


「魔族のあんたたちに言われたくないわ」

「少なくとも私はお前ほど堕ちてないよ」

「ふん、その減らず口、今すぐ閉じさせてあげるからざーこ!」


 マリーナの声に呼応するように、ルファ将軍が雄叫びをあげながら大剣を振り上げた。

 大きく砂煙をあげて、地面を揺らす。


「ちょっと! フェリスは生け捕りにしてよね!」


 そんな嫌味を言っている時だった。


「……っ『プロテクト』!」


 砂煙から一瞬光が見えたため、慌てて防御魔法を展開する。しかし、それを貫いてマリーナの肩に穴を開ける。

 思わぬ鈍い痛みに、悲鳴を上げながら膝をつく。地面は自分から流れた血で汚れている。


 自分の魔法が貫通されたなんてありえない。その思いで顔を上げた。


 砂煙が晴れた先、褐色肌の魔族が大剣の攻撃を受け止めている。その後ろにはフェリスがこちらに向けて杖を構えていた。

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