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第一話

 勇者──アルベルトは、大きな王の間で一人だけ剣を構えていた。

 玉座に座るのは、褐色の肌に白い髪の大男。頭部に生える大きな角は、彼の威厳を示しているかのようだ。赤色の瞳はこちらを品定めするように動き、息遣い一つに重たさが伝わる。

 腰掛けに肘をかけて頬杖をつく様子は、どこか諦観めいた印象を与える。これが魔王の迫力かと、喉を鳴らした。


 かけられたランタンの青い炎が、アルベルトの緊張を現すように揺らめいていた。


 それでもアルベルトは剣を向ける。ここまで来るのに仲間たちはリタイアしていったのだ。自分一人が諦めるわけにはいかない。


「勇者よ、よく来た」


 その魔王はゆっくりと重たい声を放つ。


「粗茶でも飲んでいくか? ゆっくりしていくか? 長旅で疲れたであろう?」


 そして、次に放たれた言葉が、彼の思考を止めた。


「な、何を言っているんだ! こっちは世界平和のためにお前を殺しに来てるんだぞ!」


 その言葉に魔王ふーーと長いため息をついた。

 腰掛けに深くもたれかかり、額に頭を置く。


「……何の世界平和だ?」

「何のってお前に奪われた平和だ!」

「……そうか、お主勇者でありながら本当のことを知らないのだな? いや、勇者であるからこそか、それとも国はお前を勇者として仕立て上げただけか」


 後半はまるで考えこむように静かに淡々と語る。何を言っているのか、まるで分からない。

 しかし、アルベルトは見たのだ困窮した村を、魔族に襲われたという村を。そういうもののために、彼は戦うと決めた。


「惜しいな……」


 顔を手で覆いながら、魔王は勇者を指の先から見つめる。


「そのうちに秘める力は本物だと言うのに」

「何をごちゃごちゃ言ってるが知らないが、かかってこないならこっちからやらせてもらう!」


 大声を上げて、自分で喝を入れる。剣を両手で握って飛び上がった。

 大きく振り上げられた剣は、魔王の頭を捉える。


 彼は玉座から動かない。やれる。呆気なく。

 確信めいた手応えとともに、振り降ろした。


「……は?」


 握っていた剣が折れた。魔王の頭には傷が一つもついていない。

 折れた剣と魔王を交互に見て、冷や汗をかいた。


「どうした勇者。これでもお茶にしないのか? 我は、お主を心の底から歓迎しているのだぞ?」


 そんな勇者の気持ちとは裏腹に、彼は少し穏やかな笑みを浮かべていた。

 その温度のズレに、アルベルトの鳥肌が立つ。思わず後方に飛び退ってしまうほどだ。


「何を考えている!?」


 その問いに、魔王は小さく息を漏らした。


「……何も。強いて言えば、平和についてだろうか?」

「魔王が平和など笑わせる!」

「……その魔王というのはやめてくれぬか?」


 彼は心底嫌そうに顔を歪める。椅子に座り直す魔王の顔には疲れが滲み出ているかのように見えた。


「我は魔王と名乗ったことはない。名前はゼウネスだ」

「そんなことは聞いていない!」

「聞く耳を持たぬか。そなたの悪いところは、真実をよく見分けもせずに突っ走っていくところだな。本当に惜しい……逸材であるだけ本当にな……」


 魔王──ゼウネスがブツブツと喋っている間に、勇者は両手を構えて後ろに引く。魔力が周囲から集まっていき、雷を鳴らすようにまたたいた。


 両手を前に出す。魔力を魔法に変えて放つ。

 雷系統の魔法は硬質で、相手の体を貫く特性がある。

 仲間だった魔術師から習った魔法だ。魔法オタクだったので、彼女に勧められたというだけでかなりの価値のある魔法だ。


 しかし──


「そんなに強張るな。リラックスするがいい」


 被弾したにも関わらず、彼は涼しい顔だった。どころかこちらの心配までする。


「そんな……」


 アルベルトの中にあるすべてが瓦解した。膝をついて、地面に手をつく。

 頭が項垂れる姿は、負け犬同然である。

 

「落ち込む必要はない」


 そんな彼の頭に、魔王の声が降りかかった。


 体が急に引っ張られるような感覚に、喉の奥から潰れたような声を漏らす。

 そのままゼウネスの体の前まで持っていかれ、目を白黒させる。


「お主は本当に強い。現に、我の一番の配下を倒してきておるからな」

「魔王に評価されたところで……っ」

「だから我は魔王ではなく、ゼウネスだ」


 大きな手が触れた瞬間、勇者の視界は闇に塗りつぶされた。

 まるで世界そのものから切り離されるような感覚が走る。

 あ、これは終わったやつだと、脳内が告げている。


 死の余韻を感じるまもなく、アルベルトの目の前はまっくらになった。

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