3.スーパースパルタ薩摩イーグル高等教育部
薩摩イーグルの入学式が目前に迫る中、ロザリンド・クリスタルは、イーグル魔術学園薩摩分校高等教育部第1魔術教育隊第1分隊の担任教諭になることが、正式に決定された。ロザリンドは、最年少での魔術大学教授の座を取り上げられてしまったが、それでも、18歳という若さにして魔術高等教育部の担任教諭になることは、異例中の異例である。イーグル魔術学園史上最年少の担任教諭として、歴史に残る出来事だ。
ロザリンドが薩摩イーグルに着任するまで、あと1か月を切った。そのころ、イーグル魔術学園薩摩分校中等教育部では、卒業式が厳かに行われていた。薩摩イーグル伝統「空気椅子待機」。椅子は、あるものであると思ってはいけない。学校長が来るまでの間は、いわゆる待機時間である。そして、待機時間とは、自らの体たらくぶりを見つめなおし、大いなる猛省を行う修練の場である。
「学校長だ!部隊気を付けい!」
何十分も待たされた挙句、ようやく殿様出勤した学校長が登壇すると同時に、薩摩イーグル高等教育部長の恐山崇が、甲高い声で学生を怒鳴り上げた。
「気を付け!」
第1教育隊の学生委員長となる、風上翔太郎が、間髪入れずに声を張り上げた。
「学校長に対し!敬礼!」
風上が叫ぶと同時に、第1教育隊の学生全員が、旧大日本帝国陸軍の魂を受け継いだかのような、一糸乱れぬ敬礼を学校長に披露した。
そしてそれに対し、学校長は仏帳面で仁王立ちし、眉一つ動かさずに学生を睨めつけた状態で、答礼もなしに微動だにしない。
「直れ!」
答礼が長時間無い為、風上は学生たちに号令をかけ、敬礼した手を下げさせた。
どうやら学校長は機嫌が悪いらしい。そもそも学校長が機嫌のいい場面を生まれてこの方見たことがない人が大多数だろう。
雰囲気が悪い中、学校長である「鬼神正志」がマイクに手を伸ばした。
「たるんでおるな!貴様ら!」
学校長がいきなり怒鳴り散らした。
理由は1つ。学業成績が極めて芳しくないまま、卒業式を迎えてしまったからである。
「数あるイーグル分校の中、薩摩イーグルの中等教育部は、最下位の成績となった!」
学校長は、中等教育部の学生に向かって、説教を始めた。恐らく、1時間程度は続くであろう。
長々とした大してためにもならない説教を聞く学生たちは、哀れなことに、ただただ突っ立っていることしかできない。まさに苦行そのものである。
『早く終わらねーかなー』
学生委員長の「風上翔太郎」は、心の中でつぶやいた。風上は、中等教育部の中で、頭一つ抜けた成績を残した学生だ。どんなに劣悪な教育環境であろうと、優秀な成績を残すものは一定数存在する。風上は、その一人といえよう。かつて、戦国の世を駆け抜けた、風使いの忍者集団である風魔一族の末裔として、風魔法を得意とする学生だ。風魔一族直伝の忍術は、一子相伝であり、歴史的価値のある魔術の一種である。風上は、この忍術で培った技術を応用して、中等教育部のトップクラスの成績を叩き出した。
『高等教育部に行ったら、また新しいシゴキが始まるわね・・・。今のうちに、魔術の予習を進めないと・・・。』
高等教育部にまだ進学すらしていないのに、すでに次の準備のことを考えている女子学生は、「火祭火園」という、中等教育部第二位の学生である。火祭火園は、鬼道を極めし巫女集団である火祭一族の末裔であり、炎魔法を得意とする。火祭は、太古の昔から続く鬼道を継承しており、この鬼道を応用することにより、優れた成績を叩き出し続けている。尚且つ、火祭は類稀なる努力家であり、常日頃から研鑽の日々を送っており、内申点にも多大に反映されている。
「薩摩イーグルは、大日本帝国の由緒ある魔術教育機関である『薩摩スパルタ魔術学園』の帝国魂を引き継ぐ、誉れ高き魔術学園である!しかし!貴様らの体たらくのせいで、薩摩の威光は地に堕ちた!どうしてくれる!」
まるで、自分には全くもって非がなく、怠惰な学生が全ての責任であるかのような言い草で、学校長が長々と説教をしている。
しかしながら、それでいて、どこか焦っているような印象を受ける。
数あるイーグル分校の中でも、頭ひとつ抜けて最下位の学業成績となった薩摩分校。
この惨状を作り上げた学校長の責任は極めて重大であり、死罪に値するといっても過言ではない。
学校長の鬼神は、猛烈なる危機感を抱いている。イーグル本校は、日本政府から金を巻き上げることが目的なので、薩摩分校の成績がどうであろうと関心は無いのだが、流石に限度というものがある。薩摩分校は、厳しい校則と徹底した精神論主義での教育を進めてきたが、その結果がこの有り様では、教育内容に何かしらの問題があるとしか言えない。このままでは、イーグル本校からのお咎めが無かったとしても、日本政府からの厳しい追求があることは間違いない。場合によっては、学校長の進退に影響したり、補助金の減額や学園の統廃合に関わってくるであろう。
鬼神は、この状況を学生に責任転嫁しようとしている。教職者として最低である。その上、このやり方は何度でも使えるわけではない。日本政府は、薩摩イーグルの存在意義に対して、大いなる疑問を持ちつつある。結果を出さない学校に国民の血税を使うほど余裕のある国は、この世に存在しない。そしてその事を誰よりも理解しているのは、他の誰でもない鬼神自身であろう。
鬼神は、学生をボロクソに怒鳴った後、壇上から下り、どこかに消えてしまった。
多くの学生は、今後の行く末を憂いていた。
果たして、高等教育部に入ったらどんな仕打ちを受けるのか、想像することすらも地獄である。この薩摩イーグルは、カースト制度に並ぶ、徹底した上下関係が存在している。教師と先輩の言うことは絶対であり、逆らえば、生きては帰れない。風上や火祭のような出来の良い学生が先のことを考える中、多くの学生は、学校長の咆哮に恐れおののき、完全に萎縮し、この世に絶望したかのような顔で立ち尽くすのであった。




