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今日も朱莉は絶好調!  作者: naomikoryo


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3/4

~夏祭りはハプニングの香り~

〇鬼頭家・昼下がり


(風鈴の涼しげな音、遠くから聞こえるお囃子の練習の音)


朱莉「(ソワソワしながら)あなた!あなた!聞いてます?今日は待ちに待った、町内の夏祭りですよっ!」


リビングで経済新聞を読んでいた真治、ピクリとも動かない。


朱莉「ねえったら!無視しないでくださいよー!浴衣着て、屋台回って、盆踊りして…!」


真治「…ああ。知っている。三日前から毎食後、その話を聞かされているからな。」


朱莉「だって、楽しみなんですもん!あなたと一緒に行く、初めての夏祭り…!」


真治「…。」


朱莉、少し不安になる。


朱莉「(上目遣いで)…もしかして、行くの、嫌ですか…?」


真治「(新聞から目を離さず)…仕事よりは、いい。」


朱莉「やったー!それって、すっごく楽しみってことですよね!?」


超ポジティブな解釈に、真治は小さくため息をつくだけだった。



〇鬼頭家・夕方


朱莉、タンスをひっくり返して、一人ファッションショーを開催中。


朱莉「うーん、この水玉模様も可愛いけど…こっちの縞模様も粋よねぇ…。あ、そうだ!」


朱莉が取り出したのは、明らかにサイズの小さい、子供用の浴衣。


朱莉「これは私が七五三の時に…って、さすがに無理か。てへっ。」


次に、やたらと大きい、風格のある浴衣を羽織る。


朱莉「こっちは、お義父さんの…って、歩けないわね、これじゃ。」


真治が呆れた顔で見ていると、朱莉は意を決して、奥から一枚の浴衣を取り出す。

白地に鮮やかな朝顔が描かれた、美しい浴衣だ。


朱莉、手早く着付けを済ませ、真治の前に立つ。


朱莉「…どう、でしょうか?」


少し恥ずかしそうにする朱莉。真治は一瞬、目を見張り、すぐにフイと顔をそむけた。


真治「…まあ、悪くない。」


朱莉「(満面の笑みで)えへへ、よかった!」


その言葉だけで、朱莉は天にも昇る気持ちだった。



〇夏祭り会場・商店街


(賑やかなお囃子、人々のざわめき)


浴衣姿の二人、連れ立って商店街へ。通りは提灯で明るく照らされ、まさにお祭り騒ぎだ。


朱莉「わー!すごい人!すごい熱気!見てください、あなた!りんご飴!焼きそば!お面!」


完全に子供のようにはしゃぐ朱莉。真治はそんな朱莉を、少し後ろから見守っている。


真治「…少し、落ち着け。」


と言いつつ、屋台で生ビールを買い、一口飲む。いつもより、心なしか表情が和らいでいる。


朱莉「あ、あなた!的当てですよ、的当て!やりましょう!」


朱莉、真治の手をぐいぐい引っ張る。



〇的当て屋


朱莉「おじさん!一回お願いしまーす!」


朱莉、自信満々でコルク銃を構える。


朱莉「ふふふ…私、こういうの得意なんです。元アーチェリー部だから!」


真治「お前は、中学時代、手芸部だったはずだが。」


朱莉「細かいことは気にしない!よーく狙って…えいっ!」


(パンッ!)


コルク弾が飛んでいく。

しかし、当たったのは的ではなく、隣で射撃していたカップルの彼氏が持っていたラムネの瓶。

瓶は派手な音を立てて地面に落ちた。


彼氏「ああっ!俺のラムネ!」


朱莉「(焦りながら)ご、ごめんなさい!わざとじゃ…!次こそ!」


朱莉、もう一度構える。今度はさらに集中し、引き金を引いた。


(パンッ!)


コルク弾は、屋台のおじさんのねじりハチマキに見事命中。ハチマキがくるくると宙を舞った。


おじさん「お、俺の魂が…!」


見かねた真治が、朱莉から銃をひったくる。


真治「貸してみろ。非効率的すぎる。」


真治、スーツの時とは違う、どこか様になった構えで的を見据える。銀行の営業で培った(?)驚異的な集中力。


(パンッ!)


コルク弾は一直線に飛び、一番大きな景品であるクマのぬいぐるみのど真ん中に命中した。


ぬいぐるみは、スローモーションのようにゆっくりと倒れる。


朱莉「きゃー!あなた、すごい!かっこいい!」


朱莉、真治に抱きつく。真治は「当然だ」とでも言うように、フンと鼻を鳴らした。



〇金魚すくい屋


巨大なクマのぬいぐるみを抱えた朱莉、次は金魚すくいに目を輝かせる。


朱莉「金魚さんたち!今、この私が助け出してしんぜよう!」


朱莉、ポイを手に取り、水槽に狙いを定める。


朱莉「狙うは、あの一番大きな琉金よ!いざ!」


ポイを水に入れた瞬間、


(ビリッ)


開始コンマ1秒で、ポイの紙が破れた。


朱莉「えっ。」


店主「はい、終了ー。」


朱莉「ま、待ってください!今のは準備運動です!もう一回!」


朱莉、何度も挑戦するが、ポイを水に入れた瞬間に破れるという神業を連発。

店の「最短記録」を大幅に更新してしまった。


真治「…金の無駄だ。」


真治、呆れながらも財布を取り出し、自らポイを手に取った。


真治「いいか、あかり。金魚すくいとは、ポイにかかる水圧をいかに分散させるかという、流体力学に基づいた知的ゲームだ。紙の耐久性と金魚の重量、そして水の抵抗値から最適解を導き出す必要がある。」


朱莉「(目をキラキラさせながら)あなた、何を言ってるか全然わからないけど、素敵!」


真治、経済学の知識を応用した(というテイの)完璧な手つきで、見事に出目金を一匹すくい上げた。


朱莉「わー!取れた!あなた、天才!」


朱莉、その出目金を「デメはる」と名付け、大事そうに抱えた。



〇盆踊り会場


祭りのクライマックス、やぐらを中心に盆踊りの輪が広がっている。


朱莉「あなた!最後は盆踊りですよ!」


真治「俺はいい。ここで見てる。」


朱莉「ダメです!お祭りは参加してこそですよ!」


朱莉、真治の手を強引に引っ張り、踊りの輪の中へ。


朱莉は、見よう見まねで踊り始めるが、手と足の動きがめちゃくちゃ。

右隣のおばあちゃんの足を踏み、左隣の子供の頭に腕をぶつける。


朱莉「てへっ、ごめんなさーい!」


真治は、仏頂面で突っ立っているだけだったが、楽しそうに踊る(暴れる?)朱莉の姿と、祭りの高揚感に、少しだけ体を揺らし始める。


その動きは、あまりにもぎこちなく、カクカクしている。まるでロボットのようだ。


それを見つけた子供たちが、真治の周りに集まってきた。


子供A「あ!ロボットだ!」


子供B「ロボットおじさん、踊ってー!」


真治「(顔を真っ赤にして)…だから、嫌だと言ったんだ…。」


朱莉、その光景を見てお腹を抱えて大笑いしている。


朱莉「あはは!あなた、人気者じゃないですか!」


真治は、心底嫌そうな顔をしていたが、その口元は、ほんの少しだけ緩んでいた。



〇帰り道


祭りの喧騒が遠ざかり、二人は静かな夜道を歩く。

朱莉は巨大なクマのぬいぐるみとデメ治を、真治はそんな朱莉を支えるように、隣を歩く。


朱莉「あー、本当に楽しかった!あなたと来られて、今までで一番楽しい夏祭りでした!」


真治「…そうか。」


朱莉、ふと立ち止まり、少し着崩れた真治の浴衣の襟元を直してあげる。


朱莉「来年も、また一緒に来ましょうね。約束ですよ?」


真治「…ああ。」


短い返事。しかし、その声はとても優しかった。


真治は、朱莉が抱えているクマのぬいぐるみを、黙ってひょいと取り上げる。


朱莉「あ…。」


真治「…邪魔だ。」


ぶっきらぼうにそう言って、スタスタと前を歩いていく真治。その大きな背中と、大きなクマのぬいぐるみ。


朱莉は、その不器用な優しさが嬉しくて、幸せな笑みを浮かべながら、小走りでその後を追いかけるのだった。


(ヒュ~…ドン!)


夜空に、小さな花火が一つ。二人を優しく照らしていた。

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