前編
ホラーっぽいですがミステリ風SF
相変わらずジャンルが分かりません
「なんじゃこりゃあああ!?」
梅雨のある日、D大学の学生寮である若竹寮の1階で叫び声が響き渡った。
廊下から自室の105号室のドアを開けて中を見た瞬間に叫んだのは寮生でD大学1年生の上浜だ。
「巻木杉のバカはどこだあああ!」
続けて上浜は同室に住む同期の名前を叫ぶ。
なお、この寮では基本的に1年生は1室2人の相部屋で、2年生から個室になる。
そこへ寮長である4年生の雨栗が現れた。
「どうした上浜?巻木杉なら昨日から泊まり込みのバイトに出てるから2~3週帰ってこないはずだぞ?またあいつがなんかやらかしたか?」
入学して3ヶ月足らずの間に様々な失敗をやらかしている巻木杉はある意味学年一の有名人になっていた。
本人のどこか憎めないキャラが救いではあったが。
「あ、雨栗さん、すみません。いや、ちょっと俺の部屋見てくださいよ!」
騒ぎを聞きつけて他の寮生達も廊下に出てきた。
築50年を越えるこの寮では防音など無きに等しいので誰かが騒ぐとすぐ人が集まる。
寮生達とともに雨栗が105号室を覗く。
部屋の畳のうち、3枚ほどが水浸しになっていた。
そして、この寮に住み慣れた者が部屋の中を見れば、その原因は一目瞭然だった。
「巻木杉のバカが。下皿置かないで霜取りしたのか」
上浜の部屋にはいつ誰が購入したのか分からない巨大な冷蔵庫が備え付けられて、代々の住人に引き継がれてきた。
製造年代はなんと昭和である。
この冷蔵庫、使用を続けていると、冷凍室内が霜で埋まって使いずらくなる。
また、冷蔵室の上部も冷凍室ほどではないが霜が厚くなっていく。
なので、定期的に中身を別の冷蔵庫に移してコンセントを抜いて霜を融かす『霜取り』をする必要があるのだが。
巻木杉は冷蔵庫の下に下皿を置かずにコンセントを抜いて冷蔵室と冷凍室のドアを開けて霜取りをしたようだ。
当然霜が融けてできた水は、それを受ける皿が無いので室内に溢れだす。
間の悪いことに昨日の上浜は講義後の飲み会があり、その後友人宅に泊まったため部屋に帰ってなかった。
そして上浜が帰ったときには既に手遅れだったという次第だ。
なまじ今時の畳は表面にある程度撥水性があるので被害面積が広がってしまっていた。
「掃除手伝うか?」
「あ、いえ、水拭き取るだけですから一人で大丈夫です……巻木杉のバカ絶対許さねえ」
そうして上浜が換気のため部屋の窓を開け、掃除用具を取りにいったところで集まった寮生達も散っていった。
◇◆◇
水浸し事件から一週間後。
あの後、上浜も泊まりがけのバイトに入っており、その日は3日ぶりの帰宅だった。
「!?……っうあああああーっ!」
105号室のドアを開けた次の瞬間、一週間前の怒りの叫びとは違う、恐怖の叫び声が上浜の口からあがった。
先日水浸しになった畳に黒っぽい黴が生えていた。
それだけならまだしも、一枚の畳の一部にはビッシリと白いキノコが生えていた。
キノコが生えている部分の長さは160センチ程。
その輪郭は頭と胴そして手足がある人間のように見える。
生えたキノコがレリーフ(浮き彫り)のように人型を浮き上がらせていたのだ。
まるでそこに横たわっている人間が全身をキノコに覆われているようにも見える。
上浜の悲鳴を聞いて次々と集まってきた寮生達も驚きと恐怖の声を上げた。
「なんだあれ!?」
「死体!?いやキノコ!?」
「昔この部屋で死んだ寮生の祟りとか?」
「俺、聞いたことある。この寮を建てるときに事故で死んだ外国人作業員を埋めたって」
「そこまでだ」
騒ぎの中、寮長の雨栗の声が響く。
「これは科学で説明可能な生物学的現象だ。調査の上、詳しいことが判明するまでこの部屋を封鎖する。済まないが上浜は荷物を出して空き部屋に移ってくれ。それと寮外で祟りだなんだと憶測を話さないように。今撮った画像も含め、ネットにアップするのも禁止だ。破ったことが判明した者は半年間の雑務当番を課す」
「ふざけんな!お前にそんな権限あんのか!」
雨栗の命令に1階フロア長で4年生の戸釜が強く異を唱える。
「変な噂が広まって廃寮にでもなったらお前が責任をとれるのか?」
「そういう問題じゃねえ!」
「1週間だ」
雨栗が周囲にも聞かせるように宣言する。
「この件の調査をして1週間以内に幹部会議で報告する。それ以降はどこで何を話そうがネットにアップしようが構わない。1週間だけ待ってくれ」