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【書籍化】婚約していないのに婚約破棄された私のその後  作者: 狭山ひびき
婚約していないのに婚約破棄された私

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血迷った求婚者 4

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 ――の、だけど。


「あの……うちの領地に何か御用ですか?」


 三日後、目の前に現れたフェヴァン・ルヴェシウス様を、わたしは憮然と見上げた。


 どうして我が家の玄関に、花束を抱えたフェヴァン様が現れたのだろう。

 わたしを見下ろす高身長のフェヴァン様は、にこにこと楽しそうな笑顔を浮かべている。


「姉君に、君が領地に帰ったと聞いたから」


 いやいや、答えになってませんけど?


 わたしと共に玄関にやってきたお母様は、フェヴァン様の美貌を見て「あらまあ」と言ったきり、口をあんぐりと開けて固まってしまっている。

 まあ、稀に見ない美貌よね。それはわかるけど、お母様、その表情のまま固まるのはちょっと失礼じゃないかしら?


 すると、えっちらおっちらと杖を突きながらようやく玄関にあらわれたお父様が、「遠いところようこそいらっしゃ……」と言いかけて固まった。

 え、こっちも? と振り返ったわたしは、お父様の瞳がフェヴァン様の持つ花束をロックオンしていることに気が付いて怪訝に思った。


 いったい何が……と改めて花束を見たわたしは、そこでようやく気が付いてひゅっと息を呑む。


 ……一、二、三、四……ひーっ! 十二本全部がエターナルローズッ‼


 なんてとんでもないものを抱えてやってきたんだと、わたしは目を回しそうになった。

 あれだけで王都に大豪邸が立つほどの価値がある。いや、もしかしたらそれ以上かもしれない。金に糸目をつけずにあの薔薇を欲しがる貴族なんて五万といるだろう。


 あわわわわ、とわたしが震えていると、真っ先に我に返ったお父様がわたしを押しのける勢いでフェヴァン様の前に出た。


 ……というかお父様、挨拶! 挨拶‼ 目が完全にエターナルローズに釘付け‼


 フェヴァン様は血走った目でエターナルローズを凝視しているお父様に首を傾げた後で、何かを企んだような顔でニッと笑うと、花束をお父様に差し出した。


「カンブリーヴ伯爵、お近づきのしるしに。私はフェヴァン・ルヴェシウスと申します。お嬢様を口説く許可をいただきたく参上いたしました」


 すると、反射的に薔薇を受け取ったお父様が、いい笑顔で頷いた。


「どうぞどうぞ好きなだけ滞在なさって好きなだけ口説いてくださいませ‼」


 お父様ああああああああ‼


 完全にエターナルローズに釣られたお父様があっさりフェヴァン様の滞在を許可してしまった。

 これにはお母様も唖然としているけれど、普通に生活していたら手に入らないエターナルローズが十二本も目の前にあるのだ。娘の心労と薔薇を天秤にかけて薔薇に傾くのは致し方ない気がしてきた。だって、お父様だもん。


 これで、フェヴァン様が「結婚の許可を」と言っていたらまた態度が変わっただろうが、あちらが「口説く許可」と言ったところがよかったらしい。口説くくらい自由にしろと言わんばかりのお父様の態度にイラっとしつつも、家長が許可を出したのだからわたしにはどうすることもできなかった。


 ベイルによれば、お父様の魔法薬研究も大詰めを迎えているらしい。

 もうじき自分の体調を回復させる魔法薬が完成するお父様はここのところずっと機嫌がよくて、ついでにもっとエターナルローズを使ってあれこれ研究がしたいと研究熱も上がっていそうだ。わたしの部屋にある残りの薔薇を狙っていたのも知っている。

 そこへ向けて十二本もエターナルローズが用意されれば、お父様が飛びつかないはずがないのだ。


 ……タイミング悪すぎ‼


 いや、相手にしてみたらいいタイミングだったと言うべきか。まさか図ったわけではないだろうが、フェヴァン様……もしかしたら、侮れない方なのかも。

 お母様も「仕方がない人ねえ」とお父様を見ながらフェヴァン様を招き入れる。

 もし、あの婚約破棄騒動を知ったら叩き出すくらいしそうだけど、幸いにしてまだお母様の耳には入っていない。今のお母様にとって、フェヴァン様は娘を口説きに来た美青年である。歓迎しないはずがない。


 わたしはげんなりしつつ、にこにこの笑顔で玄関に入って来たフェヴァン様を見上げた。


「何を考えているんですか……」

「何って、言った通りだよ。アドリーヌ嬢、君を口説きに来たんだ」


 冗談にしては面白くない。


「フェヴァン様ならわたしなんよりずっと綺麗な方を選びたい放題でしょう? いったい何を企んでいます?」

「企んでいないし、君は可愛いって言っただろう?」


 またそれか。

 いったいわたしの何を見て可愛いと言うのか、まったくもって理解できない。


「まあいいです。飽きるまで好きにしてください」


 どうせすぐに飽きるに決まっている。


 この時わたしは、そう、高をくくっていた。





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