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婚約していないのに婚約破棄された私のその後  作者: 狭山ひびき
婚約していないのに婚約破棄された私
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プロローグ

新連載開始します。

ちょっと妙な婚約破棄宣言からはじまる物語です。

どうぞよろしくお願いいたします!

()()()()()()()()()()()()伯爵令嬢! 突然ですまないが、婚約を解消していただきたい! 何故なら俺は……男が好きなんだぁああああああ‼」


 あー、あー、あー、と顔も知らない男の絶叫が、華やかなパーティーホールの高い天井に反響して響き渡る。


 紳士淑女が談笑する声。

 軽やかなワルツ。

 それらで構成されていた華やかな喧騒の中にあったパーティー会場が、しーんと水を打ったように静まり返った。


 突然必死の形相で近づいてきたと思ったら、わたしの手首をがしっと掴んで一世一代のカミングアウトをしてくれた目の前の男は、きらっきらの銀色の髪をしていた。

 その水色の瞳も吸い込まれそうなほどに綺麗だ。

 背も高く、均整が取れていて、シャープな輪郭には無駄がない。


 何が言いたいかというと、恐ろしいほど端正な美青年だ。

 その美青年に、何故か婚約破棄をされている。


 わたしはしばらく沈黙したあとで、まず、とんでもない勘違いを正したほうがいいなと判断した。


「あの……わたし、()()()()()()()()()()()です。カンブリーヴ伯爵家の……」

「……………………え? あ⁉」


 硬い表情だった目の前の男が、ゆるゆると目を見開いて、ぽかんと口を開ける。

 それから、慌てふためいてわたしから手を離すと、おろおろと視線を彷徨わせはじめた。

 先ほどまでの切迫した表情はどこへやら、その慌てようがちょっと可愛らしいが、今は目の前の見ず知らずの男に可愛らしいなんて感想を抱いている場合じゃない。


 ……どうすんの、これ……。


 本日はルヴェシウス侯爵家のパーティーである。

 ルヴェシウス家の嫡男が留学から戻って来たことを祝うパーティーなのだが、パーティーがはじまって早々……というか、主催者であるルヴェシウス侯爵の挨拶がはじまる前にこのような騒ぎを起こしてしまって、いったいどうなってしまうのか。

 わたしは巻き込まれた側だが、そんな言い訳が通用するのかどうなのか。


 頭を抱えたくなったわたしの視界の端で、姉と、姉の婚約者があんぐりと口を開けているのが見える。

 驚く前に助けてほしいが、会場中の注目を集めているこの場にやって来られるほど、姉も、姉の婚約者も肝は据わっていない。

 つまりは、この場は自力で何とかしなければならないということだろう。


 ……お父様がいてくれたら助けてくれたかもしれないけど、いないものは仕方がないわよね。


 父は半年前から臥せっていて、そのため、今日も父の代理で姉と姉の婚約者、そしてついでに婚約者のいない、我が家の嫁き遅れ候補であるわたしが参加することになった。


 ……どうやって切り抜けよう。


 自慢じゃないが、わたしの容姿は平平凡凡だ。

 姉のように華やかな容姿ではなく、壁に埋もれるような外見のわたしは、自慢じゃないが生まれてこの方注目を集めたことがない。

 十八年生きてきた人生で一番注目を集めたのが、この、いわれのない婚約破棄とは……。泣きたくなるのを何とか堪え、どうすればこの状況を打破できるのかと考えた。

 目の前の男は、勘違いで婚約破棄宣言をしてしまったことにショックを受けているのか、茫然としてしまっている。


 ……茫然としたいのはこっちの方よ!


 というか、この男はどこのどいつだ。

 わたしと同じくらいか少し年上くらいだが、「おたくはいったいどんな教育をしているんですか⁉」と親に文句の一つでも言ってやらなければ気がすまない!


 二年前に社交デビューをしたわたしは、まあ、二年間ずっと壁の花ではあったのだけど、それなりにパーティーに出席していたから年の近い貴族の子女の顔はわかる。

 全部でないにしろ、侯爵家のパーティーに出席するくらいの家格のご令嬢やご令息の顔は、ほとんど把握しているはずだ。


 さらに言えば、目の前の男の顔は目立つ。

 恐ろしいほどに整っているのだ。

 一度見たら忘れられない顔だと思うのだが、どういうわけかわたしの記憶に存在しなかった。


 怪訝に思っていると、茫然とした男の背後から、血相を変えた二人の男女が走って来た。

 ハッとして、わたしは慌ててカーテシーをする。

 あの二人は、このパーティーの主催者であるルヴェシウス侯爵夫妻だった。


 ……ああ、騒ぎを聞きつけて仲裁に来てくれたのね。なんて優しいのかしら。


 じーんと感動するわたしだったが、二人の顔は仲裁に入りに来たと言うよりはもっとこう……、慌てていると言うか怒っていると言うか、そんな感じだった。

 まだ四十歳手前と若いお二人は一目散にわたしたちの元まで走ってくると、茫然としている青年の頭をがしっと掴んで、わたしに向かって押し倒す勢いで頭を下げさせた。


「ぐ、愚息が! 愚息が大変失礼をした……‼」


 ……愚息。


 普通に生きていれば耳にする機会も少ない単語のせいか、わたしは言葉の意味を理解するのに時間がかかった。


 ……愚息。愚かな息子。えーっと……つまり?


 頭を抑えつけられているきらっきらの銀髪の青年は、ルヴェシウス侯爵の子息ということであっているだろうか。

 言われてみれば、きらっきらの銀髪は侯爵と同じだし、顔立ちも、お隣のとんでもなく美人な夫人によく似ているような……。


 ……ってことは、わたし、パーティーの主催者の息子に、公然と婚約破棄されたってことでいい?


 くら、と眩暈がする。

 ただでさえ注目を集めているのに、相手が侯爵令息。

 しかも、ルヴェシウス侯爵は宰相だ。宰相家の息子だ。あり得ない……。


 さすがに宰相相手に「おたくはいったいどんな教育をしているんですか⁉」なんて言えるはずもなく、もはや気力だけで立っている状態のわたしは、本気で泣きそうになった。

 そんな、今にも倒れそうなわたしの様子に気づいたのか、ルヴェシウス侯爵夫人がそっとわたしの背中に手を添えてくれる。


「あなた」


 その一言で、侯爵がハッとしたように息子から手を離し、大きく頷いた。

 そして、朗々と通る声を張る。


「愚息の勘違いのせいで大変お見苦しいところをお見せしました‼ 私たちは席を外すが、どうかパーティーを楽しんで行ってください‼ では‼」


 そう言って、がしっと息子の腕をつかむと、引きずるようにして会場を後にする。


 わたしは侯爵夫人に連れられながら、このパーティーって、確かその「愚息」さんが留学から帰って来たお祝いじゃなかったですか、主役が早々に退出していいものでしょうかと、どうでもいいことを考えていた。






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