公爵閣下の溺愛花嫁~好色な王の側室になりたくないので国で一番強い公爵閣下に求婚したら、秒で溺愛生活がスタートしました~
◇◇◇
「閣下!お願いします!私と結婚してくださいっ!」
しんと静まり返るパーティー会場。あちこちでどよめきの声が上がる。けれど、そんなことはどうでもいい。いまこの男をゲットできなければ、どのみち私には破滅しか残されていないのだから。
国王の甥であり、帝国最強の魔術師であるシリル・グッテンバーク公爵。
彼こそ私の救世主よっ!
◇◇◇
「アイラ、お前の嫁ぎ先が決まったぞ」
十六歳の誕生日前日。父であるアリサトナ伯爵にそう告げられたとき、私は遂にこのときが来たかと覚悟を決めた。私とて上位貴族の娘。いずれは家のため、政略結婚することは覚悟していた。しかし、
「お前の相手は、リアヒム国王陛下だ」
と言われて思わず耳を疑った。
「じょ……」
「残念ながら冗談ではない」
「陛下はお父様より年上ではないですか!」
しかも、好色家として有名なリアヒム国王陛下の後宮では、すでに正妃様以外にも数多の美しい側室たちが寵を競っている。
陰謀と権勢渦巻く、恐ろしすぎる女の園。伯爵家とはいえろくな財もなく、強い後ろ盾を持たない私など、瞬く間に駆逐されてしまうだろう。
「い、いやです!なぜ私が後宮に行かなければいけないのですか!」
そもそも私は、陛下が気に入るような妖艶な美女ではない。できれば何かの間違いだと言ってほしい。
「陛下から、ぜひお前を側室として迎えたいと言われたんだ。たまには毛色の変わった娘が良いと……」
「それ、絶対すぐ飽きるヤツじゃ無いですかっ!」
そっと目を逸らす父。体が小さくて童顔の私は、美女を食べた後の箸休めとして陛下のお眼鏡に適ったらしい。そんなおつまみ程度の感覚で、乙女の純情を捧げなきゃいけないなんて嫌だ。冗談じゃない。
「とにかく、王命では断れない。お前は父様が城門に吊るされてもいいのか?」
「父様こそ、私が城門に吊るされてもいいんですか!」
悲しそうな顔したって騙されないんだから!大方王室からの多額の支度金に、目が眩んだに違いない。
「アイラ、お前ならきっと大丈夫だ。後宮でも逞しく生きていけるだろう。父様はお前を信じている。ということで、輿入れの準備をしておくように」
あっさり執務室から追い出されて。こうしてはいられないと学園に舞い戻った。こうなったら、今日の卒業パーティーで、なんとしても結婚相手を見つけるっ!
そして、冒頭に戻るのだ。
グッテンバーク公爵閣下は、貴族学園の特別顧問として、年に数回魔術の講義を行っている。そのため、毎年貴族学園の卒業パーティーには、王族代表として必ず顔を出して下さるのだ。
周りから正気を疑われるのは百も承知。けれど、私には勝算があった。突然の私の言葉に驚くでもなく、小さく首を傾げるグッテンバーク公爵。
「結婚って、いつ?」
「今すぐにでも!」
私の言葉に閣下はふわりと微笑む。
「いいよ。お嫁においで」
あまりにあっさり了承する閣下に、目が点になる人達。
「え?ほ、本当にいいんですか?」
私も同じく、目が点になる。いや、駄目だと言われたら困る。困るんだけど!こんなにあっさり言われるとなんだか怖い。
「僕と結婚したいんだよね?」
「は、はいっ!」
けれども今は、この人に賭けるしかない。
閣下は私をふわりと抱き上げるとにっこりと微笑む。
「捕まえた。もう、逃してあげないよ」
こうして私は、貴族学園の卒業式に令嬢側から電撃プロポーズを決行し、その場で了承されるという伝説を作ったのだった。
◇◇◇
「閣下!ご結婚おめでとうございます!」
「アイラ様!ようこそ!グッテンバーク公爵家へ!」
ずらりと並んだ使用人たちに出迎えられ、あれよあれよという間に風呂に入れられ磨き上げられる。
待って。展開が早すぎてついて行けない。
「か、かかかか閣下!?こ、これは一体!?」
「我が公爵家の使用人達は優秀だろう?僕が花嫁を連れて帰ると、屋敷に連絡してくれたみたいだね」
「は、はぁ」
「うう、ようやく閣下にも春が!」
そう言えばそんな事言いながらダッシュで走っていく人がいたなぁと、頭の片隅でぼんやり思う。
「じゃ、いただきます」
ぽすんとベッドに押し倒されて。
「へ?んんんんんん〜〜〜〜〜!?」
いきなりのキスに目が回る。
「ま、ま、ま、」
「はぁ。甘い」
ぺろりと舌舐めずりする閣下のなんと色っぽいことか。
いやいやいやいや!!!
「ま、ま、待って!」
「嫌だ。待たない」
もう一度麗しい尊顔が近づいてきて、私は思わず、本当に思わずバチンとその顔を両手で挟んだ。
「ヒドイ。暴力反対」
上目遣いで見つめられ思わず怯むが、このまま流されてたまるもんか。
「ちょっとは私の話をきいてください!!!」
肩でハァハァ息を切らしながら叫ぶと、ちょっと口をへの字に曲げながら、離れてくれた。
「ここまできてお預けなんて酷くない?」
酷いのはそっちである。
「結婚前になんてことするんですか!」
うら若い乙女の貞操をなんだと思っているのか!
「いや、結婚するでしょ?」
「まだしてません!」
「しかたないな」
閣下が軽くベルを鳴らすと、先ほどダッシュで公爵家に報告に走った侍従さんが、うやうやしく手に持った書類を差し出してきた。閣下はそれを受け取るとサラサラっと署名をし、はいっと私に渡してくる。
「こ、これは……」
紛うことなき由緒ある大神殿発行の結婚証明書を前にくらっとする。
「いつでも結婚できるように用意してたんだ。さ、アイラもここにサインして」
「どんだけ結婚したかったんですかっ!」
「あれ?熱烈なプロポーズをしてきたのは君なのに」
にっこりと微笑まれて言葉に詰まる。だが、このままではまずい。せめて側室のことは言っておかないと。
「閣下に結婚を申し込んだのはやむにやまれぬ理由があったからなんです!」
私の言葉に閣下は顎をちょっと上げて続きを促す。
「じ、実はその、父から陛下の側室になれって話がきて」
とるに足り無い側室候補とはいえ、このまま結婚してしまうのは、さすがにまずいのではないかと思う。
「そ、それで、婚約者ができてしまえば、陛下も諦めてくださるかと」
恐る恐る閣下の顔を見ると、にっこり微笑んだままナイフを手にしていた。
「ひっ」
「あのクソジジイ。僕の想い人に手を出すとはいい度胸だ。今日が命日ってことでいいかな?」
「閣下、さすがにそれは混乱が生じるかと」
侍従が静かに首を振ると、
「チッ。ハゲろ」
明らかな舌打ちのあと、開け放った窓から思いっきりナイフをぶん投げた。ナイフは魔力を纏い、一直線に王宮のほうへ飛んでいく。怖い。あれ、どのへんに刺さったんだろう。陛下の残り少ない毛髪はご無事でありますように。
「これでよし。君の父上にも結婚の許可が必要かな?」
「け、け、け、結婚の許可とは?」
まさかうちの父(毛髪)までターゲットに!?
「邪魔したら殺すってメッセージが簡潔に伝わると思うけど」
二本目のナイフを手に取ると、手の中でクルクルっと回してみせる。公爵家の家紋入りのナイフをそんなことに使わないで欲しい。
「ふ、普通の方法で!父には普通の方法で伝達をお願いします!」
いきなりナイフが飛んできたらそれだけでハゲるかもしれない。しかし、
「ご安心下さい。すでに伯爵家には伝達を出しており、了承の返事を頂いております」
私にすっと差し出された手紙には、震える字でイエスとだけ書かれてあった。一体どんな目にあったのだろう。
「じゃあ、もうなんの問題もないね。サインを」
あらためて結婚証明書にサインを迫られる。
「ほ、本当に、陛下は大丈夫なんですか」
「問題ないよ。心配なら今すぐ血祭りにあげてこようか?」
「だ、だ、だ、大丈夫です!」
心配なのはこの国の陛下のお立場です!
「心配しないで。君は僕が守るから」
だけど、にっこりと微笑まれて不覚にもときめいてしまう。怖い。怖いのに、目が離せない。
「ぷ、その顔。真っ赤だよ」
おでこにチュッとキスが落ちると、全身がカッと赤くなった。そ、そう言えば、さっきもキスを〜〜〜〜〜ッ。あまりの恥ずかしさに頭から湯気が出そうだ。
そんな私をみて、閣下はよしよしと頭を撫でてくれた。
「君くらいなんだよね。なんだかんだ僕のこと怖がらないのって。君、僕のこと好きでしょ?」
真面目に問われると、もはや言い逃れできない。こくりと頷くともう一度キスされた。今度はもっと甘く、ゆっくりと。気がつけば、また二人きりになっている。
「大丈夫。怖くないよ。ね?」
宥めるようなキスに強張っていた体が解れた。
「結婚するなら、閣下がいいです」
愛のない結婚も当たり前の貴族社会で。いつかは家格の釣り合う誰かに嫁ぐだろうとは思っていた。貴族学園に在学中から、なぜか私を妙に可愛がってくれる閣下の行動に戸惑ってはいたけど、嫌だった訳では無い。むしろ、目を掛けてくれるのが嬉しかった。
それでも、家格も何もかも釣り合わない私には閣下は過ぎた相手で。結婚相手として夢見たことなんか一度もなかった。
けれど側室の話があったとき、閣下のことが真っ先に頭に浮かんだのだ。そして、閣下ならきっと助けてくれると思った。
「アイラ、好きだよ。可愛くて食べちゃいたい」
愛の言葉さえこんな風に軽く言うから。からかわれてるんだと思った。それでも可愛いと言われるたびに、どうしようもなく意識してしまって。こんなの、恋に落ちずにいられないじゃないか。
「閣下は、本当に私でいいんですか?」
なんの取り柄もない平凡な私でも?
「本当はね、今日僕からプロポーズしようと思ってたんだ。卒業おめでとう」
そっと指に指輪がはめられる。キラリと光るその宝石は、私の好きなアクアマリン。
「いつだって真っ直ぐで素直で。飾らない君が好きだよ。愛しています。アイラ嬢、僕と結婚してくれますか?」
指先にキスを落とされて。イエスと言う以外の選択肢なんてどこにもなかった。
◇◇◇
翌朝ヘトヘトの私は、甲斐甲斐しく世話をする夫を白い目で眺めていた。
昨日のプロポーズ劇は瞬く間に貴族社会で広がり、朝からぞくぞくとお祝いの品が届いているらしい。震える文字で書かれたひときわ目を引く豪華な贈り物は陛下から。なんだかいたたまれないがご尊毛はご無事だったろうか。次にお逢いするのが怖い。
「結婚式はいつする?可愛いドレスを作ろうね」
なにもかも順番が違うと叫びたいけど。
「愛してるよ。僕の奥さん」
一晩中囁かれた彼の恋の魔術に魅せられた私は、すでに後戻りできないほどに、彼に骨抜きなのだった。
おしまい
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