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異世界召喚はもういらない  作者: るぷるぷ
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変化する日常③

 翌朝。海咲はいつもより早く学校へと登校した。




 まだ誰も来ていない教室で、席につく。登校するには、早すぎる時間帯だった。




 窓の外に運動場がみえた。校門をくぐる生徒の数も、まばらだった。




 教室の中が、シンとしていた。すると、教室のドアがひらく音がした。


 ショートカットの女子生徒が教室にはいってきた。日に焼けた肌がまぶしい。




「真田さんだ。超はやいじゃん。おはよー」


 彼女は、昨日カラオケで一緒になったクラスメイトの女子だ。たしか、名前は明石あかし 優香ゆうか。カラオケに行ったメンバーからはアカッシーと呼ばれていた。




「ウチはこれから朝練さー。何でうちの部には朝練なんかあるんだろ。進学校なのにさ」


 アカッシーぼやきながら、部活用のカバンを持って、教室を出ていこうとする。




「ねえ、明石さん」


「アカッシーでいいよ。皆そう呼んでるし」


 アカッシーは運動部らしいさっぱりとした性格で、人の良さそうな笑みを浮かべた。




「そうだ。私も真田さんのこと、ミサキングって呼んでいいかな?」


「……」


 そんなあだ名を許可するつもりはなかった。




「椎名ナギって誰のことか分かる?」


「ナギ? うん。ナギでしょ。なんで?」


 アカッシーは、質問の意味がわからないといった様子で、目を丸くした。




 まだナギのことを覚えているらしい。


「記憶は、改変されたままか……」


 現時点では、まだ魔法は解けていない。




「ううん、何でもない。朝練、頑張って」


 海咲は部活へ行くアカッシーをみおくった。








 更にしばらくして。続々と教室にクラスメイト達が登校してきた。




「あれ? ミサキング来てんじゃん。おはー」


「ミサキングが私より先に来てる。今日早くない? おっはよー」


「おはよう。キサキング」


「ミサキングー!? 昨日のカラオケ楽しかったね!」




 ソルティー(塩矢 裕二)、しおりん(坂本 詩織)、ルカ(引野 ルカ)、エリー(凌 絵里)が、順番に挨拶してきた。四人とも昨日カラオケにいたメンバーだ。




 海咲も、きこえてくる会話から、彼らの名前ぐらいは覚えていた。


「そのミサキングって、何? あだ名なの? もう定着してるの?」


「昨日ナギからメールが回ったんだよ。『真田さんのあだ名はミサキングだー』って」


 ソルティーが答えた。




「うん。そうそう」


 エリーが同意した。どうやら四人とも、まだナギの記憶を持っているらしい。


 昨日は、魔法を解除すると約束させた、その約束を守られる保証はどこにもなかった。


 始業のチャイムがなる。もうすぐクラスの朝礼が始まる時間だった。




 三十分前まではあんなに静かだった教室が、ひどくざわついていた。




(結局……ナギは現れなかった……)


 海咲の席の隣、昨日ナギが座っていた机は空席のままだった。


 教室に担任の男性教諭が入ってきて、雑談に花を咲かせていた生徒たちが静かになる。


 普段にこやかな男性教諭は、めずしく眉間にシワをよせていた。




 そして、教壇の上に立つと、難しい声で「うーん」とうなった。


「これから転校生を紹介する……。皆おどろかないでほしい」


 やけに神妙な声である。




「入ってきて」


「はーい」


 男性教諭が声をかけると、入り口から一人の男子生徒があらわれた。




 黒の学ランを着た、寝ぐせっぽい髪形の青年だった。


 ナギだった。


「え? ナギじゃん」「ナギが転校生?」「なんでなんで」教室がざわつきだした。




「先生にもわからん。椎名の転校書類が、教育委員会から正式にとどいたんだ」


 混乱した様子の男性教諭がことのてん末を説明した。


「転校の挨拶は……必要か?」


 ナギにそんなことを確認した。




「挨拶の前にちょっと失礼」


 そういって、教壇に立ったナギは、彼に注目する生徒たちに向けて、手をかざした。


 そして口にした。




「はらえ」




 すると突然、クラス中のそこかしこから、ガラスが割れるような音がした。




 そして、生徒たちが一斉に机につっぷせた。




 海咲の背後からも、ガタンと、机に人が倒れる音がした。驚いて後ろをふりかえると、真後ろの席に座るルカが、気持ちよさそうな顔で寝息をたてていた。




「寝てるだけ……?」


 男性教諭も意識をうしなって、前のめりに倒れた。床に直撃する直前、ナギが男性教諭の腕をつかんで、丁寧に男性教諭を寝かせた。




 そして、ナギが「ふぅ」と、息をついた。


 気がつくと、教室内で動いているのはナギと海咲だけになっていた。


 海咲は血相を変えて立ちあがった。




「何をしたの!?」


「見てのとおりや。術を解除したで」


「魔法は解くだけでいいの! さっきの音は何!? 何で皆は倒れたの!?」


「この記憶操作の術、僕がやったんやないんや。術者じゃないなら、術式を壊さんかったら解除できんやろ?」




「はぁ?」


 術式を壊す、ききなれないフレーズだった。




「もう皆が目を覚ますで。席に戻り」


 すぐに男性教諭が「んんっ」とうなり声をあげた。




「何で……こんなところで寝て……?」


 不思議そうに頭をかきながら立ちあがる。男性教諭は、黒板の上の時計を見あげて、「朝礼の時間か」とつぶやいた。




 同様に、昏睡していたクラスメイトが全員目を覚ます。


 そこへナギが突然切り出した。




「転校生の椎名ナギです。お世話になりますー」


 ナギの挨拶に、男性教諭は「ああ、そうか。転校生が来たのか」と納得した。


 同時に、クラスがざわつき出す。




「ん……あれ?」「ナギ?」「なんか聞いたことがあるような……」「彼、昨日から教室に、いたよね?」「一緒にカラオケ行った……?」「あれ? 何で?」


 クラスメイト達が混乱していた。昨日ナギと過ごした記憶が残っている様子だった。




「本当は今日転校の予定やったけど、せっかちすぎて昨日から来てました。以上です」


 ナギの苦しすぎる自己紹介に、脳天気なクラスメイトたちは「「「なんだ。そっかー」」」と、声をそろえて納得した。




「椎名の席は……ああ、真田の隣が空いているな。そこに座ってくれ」


「はーい」


 ナギが席に着いた。もともと海咲の隣に座っていたはずのルカが、「あれ。私の席……あれ?」と混乱した様子でソワソワしていた。

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