滅ぶ異世界と日本の神様④
ナギは、姫鶴を上段に構え、渾身の力をこめながら、霞む視界の先にツキをとらえた。
立っていることすらままならないほどに、体は疲弊していた。すでに限界は超えている。
対するツキは、一切の手傷を負っていない。
信仰の力を得てなお、自分とツキとの間には、圧倒的な力の差がある。
それでも、ナギは戦うことをやめるわけにはいかなかった。
湧き上がってくる力が、全身を熱くする。
たくさんの氏子が、ナギを信じてくれているのを感じていた。
そして――、
『お願いナギ――負けないで』
海咲の願いの声をきいた。
「お願いされたら、叶えんわけにいかんなぁ……」
深く、一歩を。踏みこんだ。
その足音が合図だったかのように、ツキが呪符をふるう。
呪符から炎がほとばしり、渦を巻く炎の柱が空へとのびる。空をおおいつくすほど、高く上がった炎が、津波のように押し寄せた。
「――――――――――――」
ナギが姫鶴をふりぬいた。
雷鳴とともにほとばしる雷は、押し寄せる炎の壁に対し、あまりにも小さく、弱々しいものだった。
両者の力がぶつかり合う。
凄まじい力と力の衝突に、嵐のような風がふきぬけた。
一瞬にして飲み込まれるかに思えたナギの雷は、ツキの炎と拮抗し、その進行をわずかに食いとめた。
「これは……?」
そのわずかな拮抗を予想していなかったのだろう。ツキの表情から、笑みが消えた。
だが、それまでだ。
ナギの放った雷は、一瞬こそツキの炎を受け止めはしたが、その力の差は歴然だった。
まもなく、音もなく、ナギの雷は炎に飲まれて消えた。
そして――。
「――はあああああああっ!」
かき消された雷の向こうから、更にナギが雷を生み出し、炎の壁にぶつけた。
凄まじい雷鳴に、ツキが肩を震わせた。
雷は、またたく間に炎に飲み込まれる。
「あああああっ――――――!」
それでも、ナギは雷を放つことをやめなかった。
姫鶴に力をこめ、再び雷を放つ。何度でも、何度でも。
体がきしむような痛みを訴えた。それでもナギは、雷を放つのをやめなかった。
ナギの力は、無限ではない。
炎の壁を迎え撃つ雷は、徐々に小さく弱々しいものに変わっていった。
だが、確実に、ツキの炎を削っていた。
「……シイナ様に、私の力を止められるはずないでしょう……」
ナギは姫鶴をふるうことを止めない。徐々に前進する炎は、ついにナギに届きかけた。
そして――。
「あああああああああっ!」
姫鶴をふりかぶったナギが、炎の中に飛び込んだ。
ツキが目をみはる。予想外のナギの動きに、驚いているようだった。
ナギは炎の中で果敢に姫鶴をふるう。
幾度も雷撃によって削られた炎には、一点――薄くなっている箇所がった。
姫鶴の白い刃が、その薄くなっている箇所をきりさいた。炎の壁はナギの命をかりとるに至らず。ナギはわずかに身を焦がしながらも、炎の壁のむこうへととびだした。
ナギが炎の壁を超えるという結末を予想していなかったのだろう。ツキが一瞬、動きを止めた。
ナギは、その一瞬を見逃さない。
最後の力を振り絞り、足に力をこめた。飛ぶようにして、ツキに肉薄し、姫鶴を横薙ぎにふるう。
ツキはとっさに日本刀を前にだして、姫鶴を防いだ。
「あああああああっ――!」
ナギが雄々しく声を張り上げる。
渾身で姫鶴を振り抜いた。
姫鶴を受けた日本刀はツキの手をはなれ、はるか後方へとんだ。
同時に、ナギも力を出しきった。握力を失ったナギの手から、姫鶴がすっぽ抜ける。
両者、丸腰のまま至近距離にて対峙した。
「私が、負けるはずがありません――」
表情を引きつらせたツキに、ナギが言った。
「忘れたんか、主ちゃん――」
呪符を構えたツキが、再び火炎の術を手にまとう。
対するナギは、丸腰のままグッと拳を握り込んだ。
「僕は、戦神。戦いに勝利をもたらす神様なんやで」
ナギの拳が、ツキの腹に突き刺さった。
華奢な体が大きく震え、手にまとった炎の術がかき消えて、力なくうなだれる。
「……」
「……」
両者、無音のままに動きを止めた。
ナギはツキに追い打ちを仕掛けない。その必要は――なかった。
ツキは腹に受けた衝撃に、意識をもうろうとさせながら、震える手でナギの背中を掴んだ。
「シイナ様の……勝ちですね……」
少しだけ、安心したような声だった。
「ならば……私の氏子を……守って頂けますか……?」
「心配せんで大丈夫やで。全部、僕に任せとき」
ツキが崩れ落ち、戦いはナギの勝利で終結した。




