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異世界召喚はもういらない  作者: るぷるぷ
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滅ぶ異世界と二人の女神②


 異世界の女神は、深く息をついた。




 ついに時が訪れたのだと、覚悟を決めた。




 単衣の女性が術を用いる。太陽を模した鍔つばが特徴的な、抜き身の日本刀を召喚し、細い指で音もなくにぎった。




 異世界の女神が息をのむ。




 単衣の女性の瞳には、怒りも怨嗟もない。ただただ優しげな瞳で、異世界の女神を見ていた。これから、自分はこの女神に斬り殺されるのだろう。




 理解し、まず、動いたのは異世界の女神だった。




 敵対する意思がないことを示すように、緩慢な動作で両膝をつき、地面に両手をついた。そして、額が床につくほどに、深く頭を下げた。




 ブロンドの髪が重力にひかれ、床にひろがる。




「命乞いですか?」


 穏やかな声だった。




「……」


 一拍の静寂の後、異世界の女神は言葉を選びつつ、こたえた。




「そちらの気持ちが、わからないわけではない。我が首をはねれば溜飲が下がるというのなら、甘んじてその意志を受け入れよう……だた……」




 異世界の女神がつづける。




「少しだけ猶予をくれないか? 知っての通り、我が世界は、私を唯一神とする信仰でもって成り立っている。次の神を決めぬままに、私が死ねば……」




「あなたの異世界は、滅ぶでしょうね……」


 単衣の女性が、淡々とした声で言ってのけた。




 にこりと、単衣の女性が口元をほころばせる。異世界の女神に歩み寄り、膝を折って距離を近づけた。深い闇を溶かし込んだような、無機質な瞳が、異世界の女神に向けられる。日本刀の刃が床にふれて、かちりと音を立てる。




 そして、無慈悲に告げる。




「――全て理解したうえで、私はここにいるのです」




 さげた頭の下で、異世界の女神の表情がこわばる。それを見下ろす位置にいる単衣の女性の頭が、優しい声でつづけた。




「言うまでもなく、見逃すことも、猶予を差し上げることもなりません。今、ここで、私はあなたを殺します。あなたの異世界ごと、私はあなたを滅ぼします」


 笑顔のまま、つげた。




 その透き通るような声は、どこまでも優しげで、慈悲ぶかい。吐き出された残酷な言葉と、相対的な感情に、異世界の女神は思い知った。




 交渉の余地は、ないのだ。


 自分の命ごと、異世界はこの女神に滅ぼされる。


 異世界の女神が、奥歯を噛み締めた。




「――――――そんなことをっ」


 異世界の女神が、鉄扇を召喚した。爪が割れそうなほどに鉄扇を握りしめ、歯を食いしばって立ち上がる。




「許すものかァああああああ!」


 湧き上がる感情のままに吠え、鉄扇をふるう。異世界の女神の足もとに、魔法陣が現れる。魔法陣から巨大な木の幹が飛び出して、鋭い先端が単衣の女性を貫かん勢いで、まっすぐに伸びた。




 単衣の女性は、迫りくる木の幹を一瞥した。それだけだった。防ぐことも、避ける素振りもみせなかった。彼女の腹に、杭のような木の幹が深く突き刺さる。




 かに、思えた。






「……」


 木の幹は、単衣に触れたところから燃え上がり、一瞬で炎に包まれると、灰と化した。






 火炎を用いる術で、異世界の女神の魔法を焼いたのだろうと、予測するほかなかった。




 異世界の女神には、術の初動さえ見えなかった。驚愕に、言葉をうしなう。




 だが、動きを止めるわけには行かない。もとより、彼我の戦力差は承知の上なのだ。




 鉄扇をふるい、細い首筋を狙う。力の限りに、刃をふりぬいた。




「諦めない心意気は素晴らしいものですが……」


 鉄扇に首をかかれたはずの単衣の女性が、優しげにわらった。




「無為な抵抗は、痛みを長引かせるだけですよ」


 そう告げられた瞬間、鉄扇を持つ手から、血がふきだした。




「う、ぐっ……」


 斬られた。いつの間に――? 考えるよりも早く、痛みが脳髄を駆けあがってくる。




 鉄扇を握っていられなくなり、手を離してしまった。床に転がった鉄扇が、甲高い金属音をたてた。何をされたのかは、分からなかい。




 だが、この間合いを保つのはまずい。直感的に理解した異世界の女神は、反転し、距離をとるために走りだした。




「不意打ちの次は、鬼ごっこですか?」


「……くっ!」




 しかし、二歩として進めずに、両足に痛みが走った。立っていられなくなり、床にたおれた。ふりかえると、両足のふくらはぎに深い刀傷があった。




 異世界の女神には、太刀筋どころか攻撃の初動さえみえなかった。今更のように思い知る。もとより、こんな化け物のような相手から、逃げ延びることなど不可能だったのだ。




 これほどの状況下にあって尚、異世界の女神は、恐怖心以外の感情を抱くことはなかった。氏子の命を危険にさらされたのだ。彼女の怒りは至極まっとうで、逆の立場であれば、自分も彼女と同じような行動をとっていたことだろう。故に、自分の首だけであれば、差し出してもいいとさえ思っていた。本心からだ。




 しかし、自分が死ねば、自分を信仰する異世界が滅んでしまう。そこに生きる子供たちが死んでしまう。その一点だけは、回避しなければならなかった。




 すでに、立ちあがることさえままならない。それでもなお、異世界の女神は床をはい、前へとすすんだ。




 足音が、背後から追いかけてくる。


 日本刀が無言でふりあげられる。


 この状況をくつがえす手段は、――ない。




 奇跡を祈るように、異世界の女神はかたく目を閉じた。


「終わりにしましょう」


 無慈悲につげられた。






















 ――その時、耳をつんざく雷鳴の音が響いた。






 異世界の女神の首を跳ねるべく、振り上げられた日本刀が、真横に振りぬかれた。




 音速の百万倍の速度で、空気を振動させながら飛来した雷。




 それを音もなく振りぬかれた、単衣の女性の日本刀が切り裂いた。








 その雷の向こうに立つ、日本の男神の姿を見て、単衣の女性がまばたきを二度した。








「シイナ様……」






 その名を呼ぶ。




 薄暗い部屋の中。壁に近い位置に、日本の男神がたっていた。その背後には、神界と神界を繋げる術の楕円形の門がひらいている。






 日本の男神が雷をまとった日本刀――姫鶴を片手に、困った顔で眉をよせる。






「そんなことしたら、アカンで。主ちゃん」





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