囚われたナギ
日本の神界。ツキの所有する日本家屋の地下にある、座敷牢にナギは囚われていた。
全身に貼りつけらえた呪符によって、力の一切を封じられ、木製の格子すら超えることはままならない。
「…………」
ナギは畳の上であぐらをかいて、まぶたを閉じ、静かに時を数えていた。
ここに閉じ込められて、もうずいぶんと時間がたってしまった。
あの女神の異世界はまだ無事だろうか。海咲はあの後、どうなったのだろうか。
ここを出ないことには、どうすることもできない。
その時、座敷牢の格子の向こうに人の気配が現れた。
ナギがまぶたを開く。
そこに、下駄の付喪神がいた。
「つくもちゃん?」
「出てください……」
下駄の付喪神は険しい顔で、座敷牢のカギをあけた。
ナギがここから出されるということは、おそらく全ての事が済んだのだ。
ナギの肩から力が抜ける。
なんでこんなことになってしまったのかと、後悔の念がおしよせてきた。
「こちらにいらしても大丈夫ですよ」
座敷牢の扉がひらき、下駄の付喪神がいった。
ナギに向かって言っているのだと思ったが、彼女の視線はあらぬ方向へとむいていた。
そして――。
「ナギ――!」
ひとりの少女が、座敷牢の中に飛び込んできた。
海咲だった。
見慣れた金髪ポニーテールが揺れる。
座敷牢にかけこんできた海咲が、ナギに張られた呪符をはがしてくれる。
「ごめん、ナギ。わたし、色んなことを忘れてて……助けに来るのがおくれて……」
泣きそうな顔で海咲がいった。
「なんで海咲がここに……? どういうこと?」
「まだ主様には、閉じ込めておくよう仰せつかっているのですが……。氏子に、お願いされたので、つい開けちゃいました」
下駄の付喪神が、指で鍵をクルクルと回しながらいった。
体から全ての呪符がはがされ、ようやくナギは体の自由をとりもどした。
呪符をくしゃくしゃに丸めて捨てた海咲が、困惑した瞳でナギを見上げていった。
「どうしよう……ナギ……。このままじゃ、わたしが救った異世界が滅んじゃう……」
記憶を取り戻してまだ困惑が覚めないのだろう。
海咲の表情には、壊れてしまいそうなほどに色々な感情が入り混じっていた。
「わたしは、どうしたらいいんだろう……?」
ふう――、と。深呼吸して、ナギが問いかける。
「……海咲は、どうしたい?」
「――――――――――――――――異世界なんか大嫌いだ」
泣きそうな顔で、海咲がこたえた。
海咲に、異世界の女神を、助けてやる義理などなかった。憎しみが消えたわけではない。もし、過去の海咲に、異世界に行かない選択肢があったなら――たとえ、魔王によって異世界が滅ぶとしても、海咲は異世界に行かない選択肢を選ぶだろう。しかし、それは結果論だ。今の海咲は、すでに異世界に行ってしまった。失った時間は、絶対にとりもどせない。それはたとえ、これから異世界が滅んだとしても――かわらない。
自分が異世界を救ったという事実は、どうあっても変わらない。自分が命がけで救ったあの異世界が、滅んでしまえばいいなんて思えなかった。
海咲が言葉をつづけた。
「だけど、滅んでしまえだなんて思えないっ……だから――」
そして、海咲が願いを口にした。




