日本の女神④
次の瞬間――、海咲の目の前の景色がきりかわった。
先刻まで、神殿の中にいたはずが、いつの間にか学校の校舎、教室の前の廊下にもどってきていた。目の前に見慣れた校舎の窓があった。運動場がみえる。部活動にいそしむ学生たちの声がとびかっていた。
スマートフォンを取り出して、時刻を確認する。十七時三十分。半日以上の時間が経過していた。
さらに、スマートフォンを操作して、ナギに電話をかける。
発信音のあとに、アナウンスがながれた。
『お客様がおかけになった電話番号は現在、電源が入っていないか……』
「……あれ?」
どういうことだろうか――? そう思った瞬間に、海咲の頭から今日一日、何をしていたのか、記憶がはがれ落ちて、消えた。
「…………わたし、何してたんだっけ……?」
混乱する頭に、指先でふれる。心臓がひどく脈うっていた。なにか、忘れてはいけないことがあるような気がした。それが何かは思いだせない。
「あれ? 海咲?」
不意に耳元で声がした。
跳ねられたように海咲がふりかえる。
背後に、ルカが立っていた。帰宅部の彼女は、今から帰宅するところなのだろう。片手にカバンを携え、教室から出たところだった。
「そんな所で突っ立ってどうした? ていうか、今日さ。朝はいたけど、授業は抜けたよね? サボり?」
「あー……うん……」
ルカの言葉に、若干の違和感を覚えた。
「わたし、授業サボったんだ……?」
言われてみれば、そんな気がしてきた。
朝、ナギと一緒に通学して、その後……何をしていたのかは覚えていないが、授業に出ていないことは確かだった。
「今帰るところ? だったら、この前行けなかった水着買いに今から行かない?」
唐突に、ルカが提案してきた。
「うん、そうだね……」
考えがまとまらず、ほとんど反射的に海咲はこたえた。頭の中で、何かが引っかかる。
確か、ルカは放課後に水着を買いに行くことを、以前に拒否していたはずだ。
ナギがついて来ると恥ずかしいから――。そう言っていたと記憶していた。
そういえば、ナギは今どこに居るのだろう。自分はナギを探していたはずだった。何故、探していたかは思い出せない。
「ごめん、わたし――ナギを探さないと」
「ナギ?」
何気なくルカがききかえしてきた。
「うん。悪いんだけどさ。ナギを見かけたら連絡くれない? なんか、電話がつながらなくなってて」
「……ナギ?」
ルカが首をかしげる。
そして、何気ない声でいった。
「……ナギっていったい、誰のこと?」
それは、海咲にとって予想もしなかった一言だった。




