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異世界召喚はもういらない  作者: るぷるぷ
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異世界の神界②



 教室で、いつもの日常がはじまる。




 朝のホームルームがおわって、一限目は化学の授業だった。




 珍しく実験をおこなうので、今日は理科室へ移動となった。


 海咲は、ルカとならんで廊下をあるいていた。




「土曜日はごめんね。ドタキャンで」


「いいよ。それより、風邪はもういいの?」




 移動教室や朝礼時の、クラス単位での団体行動は、なんだか異世界の軍行に似ている。


 廊下を歩いていると、ブロンドの髪とすれちがった。




「あれ……?」


 違和感を覚えて、ふりかえる。




 小柄な背中が、海咲たちと反対方向へあるいていく。




 彼女には見覚えがあった。今芥子いまげし モニア。海咲のクラスメイトで、何回か会話をしたことがある。




「忘れ物でもしたのかな……?」


「かもね。今芥子さん、ひとりで理科室行けるかな?」


 隣でルカがつぶやいた。




「……え?」


 ルカの言葉の意味がわからず、海咲が不思議そうな顔をする。




「いや、だって。今芥子さん、ナギと同じ転校生じゃん。転校してから、理科室いったことないんじゃないかな?」




 いわれてみれば、そうだった。




 ルカにいわれて、点と点を結ぶように、モニアに関する記憶がうかびあがってくる。


 なぜ、こんなことを忘れてしまっていたのだろうか。




「一応、ついて行ったげようか」


 そう提案するルカにつきあって、海咲はモニアの背中をおいかけた。




 授業が始まる前の廊下は、とても静かだった。すれちがう生徒も、ほとんどいない。




 モニアの背中をおいかけたはずが、教室の前まできても、おいつくことはなかった。




「あれ、もしかして教室じゃなかったのかな?」




 ルカがそう言って、教室のドアをひらいた。








 その時、ぞわり――と、海咲の背筋を嫌な予感がはいまわった。








「待って――」


 ルカを止めようとした。




 しかし、間に合わなかった。




「え……?」


 呼び止められたルカが、こちらをふりかえる。




 その足もとに、幾何学模様の魔法陣が浮かびあがった。


「はっ、え?」




「ルカ!」


 ルカをつかもうと、海咲は手をのばした。




 しかし、ルカが魔法陣に落ちていく方が、わずかに速かった。海咲の手が宙をつかむ。




「何、これ……?」


 ルカが当惑して声をあげた。




 蟻地獄に落ちた虫のように、魔法陣の中央に吸いよせられながら、ゆっくりとルカの体が魔法陣へしずんでいく。




 廊下から――魔法陣の外からでは、海咲の手はとどかない。




 瞬時に周囲を見わたしたが、使えそうなものは何一つなかった。




「くっ……」


 海咲が唇をんだ。そして、覚悟を決めた。




 体は、自然とうごいた。




 海咲が、ルカめがけて、魔法陣の中に飛びこんだ。




 体を飲みこんでいく魔法陣は、粘度の高い液体のようだった。




「ルカっ!」




 魔法陣に、首までしずみかけたルカをつかんだ。




「るあああああああっ!」


 声をはりあげて、全身に気力を巡らせる。魔法陣の外めがけて、ルカを放り投げた。




「きゃっ」


 ちいさな悲鳴をあげて、ルカが廊下にころがった。幸い、怪我はなさそうだ。




 それを確認できたのが最後だった。海咲の体が、頭のてっぺんまで魔法陣にしずんだ。




 自分が脱出する術がないのは、初めからわかっていた。




 魔法陣のなかは、薄暗い。水の中にいるような感覚だった。不思議なことに、呼吸はできる。少しずつ遠のいていく頭上の光をみあげながら、海咲はおもった。




(何やってんだろう、わたし……)




 つきあいの浅いクラスメイトを助けて、自分がまた異世界召喚される。馬鹿らしい。




 しかし、あれほど恐ろしかった異世界召喚を前にして、驚くほどに心は冷静だった。




 ルカを助けられたことに、安心していた。




 ゆっくりと、体が闇に吸い込まれていく。




 闇の向こう――魔法陣の底に、ブロンドの髪が揺れているのがみえた。




(あれは……)


 目を凝らしてみる。闇の向こうにある光の中に、ひとりの女子生徒がたたずんでいた。




(あれは……今芥子さん……?)


 モニアの姿を海咲が視認した。




 次の瞬間――頭上から、腕が伸びてきて、海咲のジャージのえりを強引につかんだ。








「ぶはっ」


 海咲が、魔法陣から引きずり出された。




「海咲! 大丈夫か!?」


 ナギだった。魔法陣に下半身を沈めたナギが、全身が魔法陣にしずんだ海咲を、引きあげてくれたのだ。




 ナギは、即座に海咲を抱えあげた。




「少しゆらすで! 舌噛まんようにな!」


 ナギが声をかけてくる。




 そして、ナギが海咲を魔法陣の外――廊下まで放り投げた。




「ナギ!」


 着地した海咲が、ナギへ手をのばす。




 しかし、その手はとどかない。




「大丈夫や。僕はこのままでええ」


 平然とナギがいった。




 良いはずがない。そう思った。




 ナギを引きあげるべく、周囲を見渡す。廊下に落ちた衝撃で気を失ったルカ以外、何も目にはいってこない。使えそうなものは見あたらない。




 せめて、手が届けば、ナギを引き上げることができるのに。




「そうか」


 思いつくと同時に、海咲はナギに手を突き出した。




簡易詠唱アクセプト――『氷牙一閃フラウ』」




 氷魔法を詠唱する。海咲の手のひらに生じた魔法陣から、氷柱が飛び出して、ナギの腕にまとわりついた。




「冷たっ!?」


「我慢して」




 氷柱をつかんで、魔法陣からナギを引きずりだす。




 ナギは抵抗するような素振りをみせた。しかし、海咲は強引にナギを引きずりだした。




「あかん、やめろ。僕は……」


 魔法陣が魔力を使いはたし、徐々に薄れはじめる。




 先刻、魔法陣のなかで見たモニアの姿が脳裏にうかんだ。


「まだ中に人がいる!」




「なに?」


「さっき魔法陣の中で、今芥子さんをみたの。多分、わたし達よりもさきに、魔法陣にのまれたんだと思う。どうしよう」




 早口に海咲がいった。


「待て。今芥子って誰や?」




「今芥子モニア! クラスの子だよ。忘れたの!?」


 そうこうしている間にも、魔法陣は消えてしまいそうだった。




「落ち着いて話せ。僕らよりも先に、異世界召喚された子がおるんか?」


「ダメ! 間に合わない!」




 ナギとの問答を切り上げて、海咲は消えかけた魔法陣に飛びこんだ。




 何か計画があったわけではない。だが、何も知らない一般人が異世界召喚に巻き込まれたのなら、助けなければいけない。と、直感的にそう思ってしまった。




「海咲――!」




 ナギが呼び止めるように、海咲を呼ぶ声がきこえた。


 海咲が魔法陣にとびこんだ――異世界召喚の魔法陣は力を使い果たし、消滅した。







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