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異世界召喚はもういらない  作者: るぷるぷ
19/40

神がかり的に変わる日常②

 そんな生活がしばらく続いた。


 朝はナギが家まで迎えに来て、一緒に学校へむかう。




 帰りも、ナギと一緒に帰る。ナギは学校帰りに寄り道をしたがるので、それに付き合っている内に、海咲もクラスメイトと一緒に行動することが増えた。




 異世界召喚に襲われることもなかった。


 このまま平和な生活を続けられるような気がしていた。








「ほな、投票の結果を発表するで。投票結果はもちろん神社めぐ……海水浴ぅ!?」




「「「「イエェェェイ!!!」」」」




 放課後の教室に、喝采が響いた。




 今、ナギを中心に一致団結したクラスは、「夏休みにクラス全員で思い出作ろう」というナギの提案によって、団体で遊びに行く計画をたてていた。




 目的地の意見を出し合って、その中から投票で行き先を決定する。




 教壇に立ったナギとソルティが意見をとりまとめしていた。背後の黒板には、『海水浴』『登山』『キャンプ』など、あそびの候補が箇条がきで列挙され、文字の下に投票数が正の字で記されていた。




「嘘やん。なんで『神社めぐり』あかんの? 神社行きたいやろ!?」


 ナギ推薦の『神社めぐり』が採用されなかったことに、彼はショックを受けていた。


 落ち込むナギの肩をソルティーがたたいた。




「神社なんて行きたがってんの、ナギだけだから」


「そんなことないし! ほら。神社めぐりに投票した人、十人もおるで」




「それナギが一人で十票入れただろ」


「ち、違うよぉ」


 ナギの目がおよいだ。




「票数合計してみようぜ」


「え。ちょ、アカン! それはアカンって!」




 慌てるナギの様子をみて、クラスメイト達がケラケラと笑う。




「海水浴だって。今日か明日、水着買いにいかない?」


 後ろの席から、ルカが声をかけてきた。




「悲しい話、だいぶ太ったからさ……。去年の水着入らなそうなそうなんだよね」


 そう嘆いたルカの胸元に、海咲の視線がむいた。




「成長期なだけじゃない?」


「いや、お腹とかマジヤバイんだって。完全に受験太りだわ」


 受験生と口にする割には、ずいぶんと放課後に遊び歩いている気がした。




「それにしても……水着か」


 海咲はふん、と思案した。




 家に、古い水着はある。しかし、最後に袖を通したのは三年以上前だ。異世界に行ったせいで、体型も変わった。もしかすると、古い水着はもうきられないかもしれない。




「いいよ。じゃあ、今日の帰りにでも行こっか」


「え? いや……帰りは、ちょっと……」


 ゴニョゴニョとそうつぶやいたルカが、気恥ずかしそうにナギの方をみた。




「用事あった? じゃあ、明日でも……」




「用事っていうかさ。海咲って、今日もナギと一緒に帰るつもりなんだよね? 水着買いにいくのに……男子がついてくるのは、ちょっと……」




 言いよどむルカに、なるほどと海咲がうなずいた。




「ごめん、そうだよね」


「じゃあさ、土曜日は?」




「わたしは大丈夫。……でも、一応、椎名くんの意見もきかないと……」


「ナギは呼ばないでよ!?」


 ルカが目の色をかえて言った。




 もちろん海咲も、水着の買い物にナギを呼ぼうと思ったわけではない。しかし、異世界召喚から守ってもらっているという立場上、海咲の一存で休日の予定を決めていいものかと、考えたのだ。




「じゃあ、土曜日で仮決定ね?」


 クラスメイトと出かける予定ができてしまった。




 待ち合わせの場所を決めて、時間を約束する。勘違いがないように、ルカに集合時間と待ち合わせ場所をメッセージで送信した。




「……」




 最近、クラスのメッセージグループに入った海咲だったが、誰かにメッセージを送るのは、久しぶりだった。




 そんなあたり前のことからさえ、自分が遠のいていたことにおどろく。


 その後、話し合いで、海水浴の日程が、七月二十二日の海の日に決定した。




 クラスが解散し、各々部活動や下校にむかう。ナギは遊びに行きたそうな顔をしていたが、期末テストが近いことから、人が集まらなかった。




 今日は、海咲とナギもまっすぐに家に帰ることにした。








 その帰り道。




 ナギと海咲が並んで住宅街を歩いていた。何度も登下校を一緒にするうちに、歩くペースが意識しなくても、同じ速さになっていた。




「……という訳でさ。土曜日にルカと水着を買いに出かけたいんだけど……」




「ええよ。ていうか、自分の予定を決めるんに、僕に気を遣わんでいいで。僕が海咲のペースに合わせるけん」


 ナギの言葉に、海咲が頬をかく。




「そうは言うけど……わたしは、守ってもらってるわけだし……」




「結果的には守っとるけどね。海咲のことがなくても、僕は異世界召喚をぶっ飛ばすために、ここに来てたんや。僕が僕の都合で動いとるだけやから、そこは気にせんでええよ」




 ナギの声に、嘘をいっているような印象はない。




 おそらく本心なのだろう。




「じゃあ、わたしが海水浴行かないって言ったらどうする?」


「うえっ!? ……ま、まぁ……もちろん、海咲を優先するよ」


 ひどく残念そうな声だった。ナギは海水浴を、とても楽しみにしているらしい。




「……椎名くんさ、嘘がつけない奴って言われない?」


「言われへんよ。策略と知謀に長けた戦神って言われとるよ」




「何それ?」


 海咲がくすっと笑った。




「とりあえず、土曜日やな。覚えとくわ」


「ついてくるの?」




「一応な。気づかれんようにコッソリついていくだけやから、空気やと思っといて」


 ナギほどの手練れなら、普通の高校生を尾行することなど、朝飯前なのだろう。




 そこで、ふと、海咲はあることが気になった。




「もしかしてさ……椎名くんって二十四時間わたしにはりついてるの?」




「いや、僕が海咲の近くにおるんは、学校の間だけや。そのほかの時間は、つくもちゃんって子が、海咲のそばにおるで」




「……うっそぉ……」


 海咲が唖然とする。ぜんぜん気づかなかった。




「ちなみに、つくもちゃんは女の子やで」




 しかも相手は女の子らしい。ナギに大敗したとはいえ、海咲は異世界帰りの英雄だ。戦闘スキルにはそこそこの自信があった。そんな海咲に、一切の存在を気取られないまま、尾行ができる人物がいるなど、想像さえしなかった。




「私生活に貼りつかれるっていうんは、気持ち悪いと思うけど、もう少し我慢してな」




「それは別にいいんだけどさ。ああ……自信なくすなぁ……」




 海咲が頭をかかえる。もしかすると、海咲は自分が強いと思っているだけで、大したことはない人間なのかもしれない。




「前回の異世界召喚が意図的に海咲を狙ったものかはわからんけど、首謀者を捕まえたら、この件も終わりや。何も心配いらんで」




「首謀者って?」


「たぶん、異世界の神様や」




「……」


 海咲の脳裏に、異世界の女神の姿がフラッシュバックした。




 思わず身震いする。異世界の女神の姿を思い出しても、以前ほど取り乱すことはなくなった。だが、恐怖が消えたわけではない。




 英雄になった今でも、あの強大な力を持つ女神を相手に、勝てる気がしなかった。




「海咲」




 にゅっと、ナギが首をのばして、こちらの顔を覗きこんできた。




 海咲がびっくりして肩をふるわせる。


 ナギがにっこり笑った。




「心配いらんで。全部、僕に任せとき」


 海咲の恐怖を見透かしたように、ナギがいった。




 少しだけ心の中の恐怖がうすれた気がした。しかし、目の前の青年が、人知を超えた力を持つ女神に勝つビジョンは、いっさい浮かんでこなかった。








 土曜日がおとれた。放課後に遊びに出かけることは多々あったが、休日に誰かと待ち合わせをするのは、数年ぶりだった。




 昨日の海咲は、なかなか眠れなかったのに、朝は五時に目が覚めた。待ち合わせは九時なのに、気が付くと八時前には、待ち合わせの駅の中に立っていた。




(早く来すぎた……)




 スーツを着て駅を行きかうサラリーマン達の流れを目で追いながら、ルカを待つ。




 今日の海咲は、デニム地のショートパンツに、半袖のパーカーを合わせた私服で出かけた。カバンを肩にかけ、髪はいつものようにポニーテールに結い上げている。




 待っている間に、ナギの姿を見つけた。




 駅の柱にもたれて、海咲の方をうかがっている。




 目があうと、手をふってくれた。




 まだルカも来ていなかったので、海咲も手をふりかす。




 自分が早く行動すると、ナギもそれに合わせて動かなければいけないということに、いまさら気がついた。




(悪いことしちゃったかな……?)




 心の中で謝って、ルカを待つ。




 待ち合わせの時間の五十分前に海咲のスマートフォンが震えた。




 着信が入っていた。画面には、『ルカ』の文字。




「はい、真田です」


『ああ、海咲?』


 スマートフォンの向こうから、ルカの声がした。




「うん。どうした?」


『実は、風邪ひいちゃったみたいで昨日の夜から熱が出てて……。悪いんだけど、今日の買い物……』




 要約すると、ルカは昨日から体調をくずしていたらしい。なんとか朝までに治せないものかとねばったが、無理だったので、今日の集まりを延期したいという話だった。




「ええ、大丈夫? うん、うん。じゃあ、今日は延期しよう。……駅? 来てない来てない。ちょうど、今外に出たところだから。うん、それじゃあ、お大事にね」




 通話を終了する。


 顔を上げて、ナギの方に手をふった。ナギが反応したので、海咲はナギに電話をかけた。




『どないしたん?』


「ルカが体調悪いみたいで、今日の集まりなくなっちゃった」




『そっかー。それは残念やったなぁ』


 ナギにいわれて、自分の声が少しだけ残念そうにしぼんでいることに気づいた。




『ほな、僕と遊びに行くか?』


「え?」




 いつの間にか、柱の陰にいたはずのナギが、目の前にいた。




 休日だというのに、ナギは学ランを着ていた。もう夏も近いというのに、熱くないのだろうか。ナギが通話終了のボタンをタップする。




「海咲気がむいたらでええけど、どうする?」




「……うん。行く」




 こうして、今日はナギと出かけることになった。





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