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異世界召喚はもういらない  作者: るぷるぷ
18/40

神がかり的に変わる日常①

 ナギが海咲と戦った翌日。海咲の自宅のドアがひらいた。中から、学校に行く身支度を調えた海咲が出てきた。道路に立って、海咲を待っていたナギが小さく手をふった。




「おはよう」


「……」




 ナギに声をかけられて、海咲は少しだけ驚いたように目を丸くした。




「おはよう……わざわざ迎えに来てくれたの?」


 海咲がドアのカギをかけ、かばんにしまうと、こちらにむき直った。




「じゃあ、行こうか」


 海咲がナギの隣に立ち、あるきだした。二人の歩幅が、じょじょにあっていく。




「……」


 二人の間に、短い沈黙がながれた。




 ナギの様子が気になるのか、歩く海咲がチラチラと視線をむけてきた。




「そういえば、前にも家に来たことがあったよね。あのときから、わたしを守ってくれてたの?」


「いいや、あの時は単に、一緒に通学しようと思っただけや」




「何のために?」


「会う回数を増やせば、仲良くなれるやろ?」




 ナギの回答に、海咲がぷっと吹き出す。


「何その一昔前の恋愛ゲームみたいな思考……。完全に逆効果だったし」




「毎日顔合わせとるうちに、相手に愛着がわくことってない?」


「あるかな?」




「あるって。現に、海咲のクラスメイトは、海咲に愛着わきまくっとるやん」


「それは、あなたが記憶を書き換えたせいじゃないの?」




「違う。記憶の書き換えはきっかけをあたえただけや。あの子らが海咲に向けとる好意は、もともと海咲が持っとったものや。やけん、遊びに行った先で、海咲がどんなに不機嫌そうな顔してても、なんやかんやで仲良くやれてんねん」




「うっ……。やっぱり不機嫌な顔してた?」


 海咲が顔をしかめた。




「顔どころか、態度まで不機嫌やったやん。何回空気が凍ったと思ってん?」


「っ……。でも、それ、あなたが悪いんだからね」




 海咲が頬を赤くした。片手で、自分のポニーテールをこねこねしはじめた。


「最初からちゃんと説明してくれていれば、あんなことにはならなかったと思う……」


「説明したよ。海咲が殴り合わな納得せんかったんやん」




「それは……」


「だいたい、僕が来る前から、海咲は不機嫌そうな顔しとったんやろ? きいたで。話すんが面倒くさいから、外国人のフリしとったって」


「……」


 ぐうの音もでずに、海咲が眉間にシワをよせた。




「みんなに、謝ったほうがいいと思う……?」


「蒸し返さんでええんちゃう? 別に誰も責めてへんし」




「逆に、その優しさが良心に刺さるんだけど……」




「やったら、今日からニコニコして接したったらええねん。謝罪されるより、そっちの方が嬉しいと思うで」




「そんなものかな……?」


 海咲は少し不安げにつぶやいた。




「そんなもんや。ツンデレのデレが出たって思ってくれるわ。海咲みたいな奴のことをツンデレっていうんやろ?」




「たぶん、それは違う」


 そんな雑談を続けているうちに学校の校舎がみえてきた。




「なんか、あっという間だったね」


 そうつぶやいた声は、少しだけ名残おしそうだった。








 ナギと海咲が教室に入ったのは、始業の十五分前だった。教室の中には、すでにほとんどのクラスメイトが登校しており、雑談に花を咲かせていた。




 ざわざわした声に混じって、驚愕に震える女子の声がきこえてきた。




「あ、海咲……と、ナギ!?」


 ルカだった。机に頬杖をついた姿勢で、こちらを見て、硬直している。




「おー、おはよう」


 ナギが愛想のいい笑みを浮かべて、ルカに挨拶をした。




 ナギは席にかばんをおろす。そのまま教室の後ろの方でざわざわしていた男子のグループに近づいていった。




 海咲が自分の席にかばんを置き、席に座る。そして、背後のルカを振りかえった。




「おはよう」


「お、おはよう……」




 ルカからぎこちない挨拶をかえされる。毎朝顔を合わせていたにもかかわらず、自分から挨拶をしたのが初めてだったことに気がついた。




「なに? 一緒に登校してきたの?」


「ああ、うん。家に迎えに来てくれて……」




「迎えに!? ナギが!?」


 食い入るように、ルカが質問してくる。




「ナギ……、そうだね。椎名くんが……」


「え!? ええ!? えええ!?」




 明らかに反応がおかしい。何をそんなに騒ぐことがあるというのか?




 逡巡し、海咲はふと気がついた。男子と女子が仲良く一緒に登校してくる。しかも、男子の方は、その女子を家まで迎えに行ったという。これで、二人の仲を邪推するなという方が無理にきまっていた。ナギはあまりにも規格外の存在である上に、異世界召喚の脅威から守ってもらうという目的があったから、そのあたりに意識がむいていなかった。




「ちょっとそれってどういう、んぐっ」




 まくしたてるように大声で喋りだしたルカに、威圧感を向けてけん制した。海咲の迫力にのまれ、ルカが息をつまらせた。




 騒ぎ立てられては、たまったものではない。


 注目されるのは、苦手だ。




「教室の前で会っただけ」


「んんっ?」




「教室の前で会っただけだから、騒がないで。いいね? わかった?」


 目に少しだけ気迫をこめた。ルカが緊張した表情でふんふんとうなずいた。




(これでよし……。あとは、椎名くんに口裏を合わせてもらって……)


 そう考えて、教室の後方にいるナギに目をむけた。




 その時、教室のドアが勢いよく開いた。


 開いたドアから、アカッシーが飛び込んできた。そして、大声で叫んだ。




「ちょっとちょっと! ナギと海咲が仲良く二人で登校しているの見たんだけど! どういうこと!? 昨日喧嘩してたのに、もう仲直りしてそんな関係になっちゃったの!?」




 朝練終わりで、元気いっぱいのアカッシーの声は、教室中に響きわたった。


 好機に満ちた無数の視線が、ナギと海咲にむけられる。


 ……いちいちこっちを見ないでほしい。海咲はそう思った。








 放課後。海咲は、疲れていた。




 ナギとの関係について、多くのクラスメイトから質問をうけた。




 昨日までほとんど誰とも会話をしていなかったというのに、今日はたくさんの会話をした。慣れないことをしたせいで、昼休みが終わるころにはぐったりしていた。




 一日が終わって、ようやくひといきつけると思った。




 ナギは教室の後ろの方で、いまだにクラスメイト達から質問をくらっていた。




「何回も言いよるやろ。僕らは、ただのクラスメイトで、みんなが言うような関係やない」


「そんなわけないだろう?」


 そう言ったのは、ソルティだ。




「わけあるって。あとさ、何でソルティは僕にコブラツイストかけよん? このポーズ意味わからんよね?」


 ナギはソルティに、コブラツイストなる関節技をかけられながら、男子三人、女子四人にかこまれて、質問責めにあっていた。




 まだしばらくは帰れそうにない。




「どれだけ口で否定しても、証拠は出そろってるんだよ。あれは何だ?」


 ソルティがあごで、海咲のほうをしめした。




 ナギも視線を海咲にむけて、頭に『?』をうかべた。




「海咲やね。それがどうしたん?」




「どう見ても、ナギのこと待ってんじゃん! 一緒に帰る気まんまんじゃん!」




「あー……」


 しまった。海咲は頭をかかえた。




 せめて、教室の外か、学外で合流できるよう打ち合わせておけばよかった。




 ナギも否定してくれればいいのに、


「ホンマや。海咲を待たせてるから、今日はもう帰ってええか?」


 なんて言いやがった。




 語るに落ちたといわんばかりに、ナギを取り囲むルカやアカッシーが肩をすくめる。




「だいたいさ……、今日の海咲は、ほら……ねえ?」


「うん」


 ルカの言葉にソルティがうなずく。




「人が変わったみたいに、雰囲気が優しい」


「恋は人を変えるのかっ!?」


 ルカの言葉に、アカッシーが補足して、渋い顔をした。




「私らの話にも普通に反応してくれるし」


 今日まで普通の反応をしていなかったことに、少しだけ申し訳なさが生じた。




「それに今日はナギのこと、全然睨んでないもんね」


「あれはもしかして、恋する乙女の視線だったのかな?」




 妙な邪推が飛び交っている。


 いいかげんしっかりと否定しなければ。海咲が、席から立ちあがった。




 すると、ナギが言った。


「ないない。海咲かて、僕のことそんな目で見てないよ。だいたい、僕が海咲と付き合うって……」


 ナギが言葉を続ける。






「それ――どんなロリコンやねん!」




「……?」




 ナギのツッコミに、その場にいる全員がポカンとした。




「え……? 海咲ってロリっぽい?」


 ルカが言った。




「いや、ハーフで背も低くないし、歳だって俺らより二つも上……あいたっ」


「こら、ソルティ。歳のことは言うな」


 ソルティがアカッシーに叱られていた。




「海咲がっていうか、僕から見れば、みんななんてまだまだ子供やで」


 平然とナギがいった。




「そ、そっか……」


 ルカが若干、ひいていた。




 この日、ナギはクラスメイトから『熟女好き』の称号を与えられた。








 海咲はまっすぐ家に帰るつもりだった。


 しかし、「遊んで帰りたい」とナギが言いだした。




「わかった。いいよ」


 守られていることに負い目を感じているわけではないが、多少なら付き合ってもいいと思った。




 そして、クラスメイトの男子三人、女子四人を巻き込んで、カラオケにむかった。




 ナギの立案で、八十点以下を出したら、フリードリンクの一気飲み、手に汗握るカラオケバトル第二回戦が開催される。もちろん、海咲も強制参加だった。




 前回の『殿様サンバ』ではなく、今回は海咲も持ち歌で挑戦した。




 余裕で八十点は超えると踏んでいたのだが。結果は、七十二点。




「嘘!? この曲で九十点以下出したことなかったのに!?」




 まともにカラオケを歌うのが、久しぶりすぎてなかなか感覚がとりもどせなかった。




 結局、海咲はカラオケを出るまでに五杯もアイスティーを一気飲みすることになった。




 そして、カラオケは終了し、ナギが家まで送ってくれたのだが。




「ごめん。少し休憩……いいかな……?」




 帰り道、トイレが近くなって、何度もトイレに寄ったのは言うまでもない。





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