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異世界召喚はもういらない  作者: るぷるぷ
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ぬぐえぬ恐怖のぬぐい方①

 その数時間後。


「ただいまぁー。つくもちゃん、また来てたん?」


 ナギがアパートに帰ると、下駄の付喪神がきていた。




 ツキほどではないにせよ、様々な執務で多忙なはずの下駄の付喪神だが、なんのかんのとナギの世話をやきに、週に三回はアパートに来てくれていた。




 お米が炊きあがるアラームが鳴り響く。


 制服のままナギがソファーに転がると、ワイシャツの袖をまくってアイランドキッチンに立っていた下駄の付喪神がいった。




「横になるなら、先に制服を脱いでください。しわになります」


 言われるがまま、ナギは学ランを脱いでソファーの上においた。




「ご夕食まだですよね? 三日分のストックを作ったところですので、今日は和洋中、どれでも食べられますよ。何にいたしますか?」


「日本の神様が日本食以外食べるってどうなん?」




「たしかに。お供えにいただくものは、だし昆布やお米、日本酒が多いですが……私達がハンバーグを食べてはいけないなんてことはないでしょう?」


「え。ハンバーグあるん?」




「ありますよ。今日はそれにしますか?」


「うん」


「では、少々お待ちを」




 下駄の付喪神が、保温容器に入ったハンバーグやサラダをお皿に盛り付ける。そして、大きめのどんぶりに、ご飯をこれでもかというぐらい山盛りにして、リビングにいるナギの前にもってきた。テーブルの上に食事がならべ、大きめのコップにお茶をそそぐ。ナギが脱いだ学ランをひろい、ハンガーにかける。実にテキパキと家事をこなしてくれていた。




「そういえば、おっしゃっていた転校の件、ご希望であれば、明日にでも何とかなりそうですよ」


「もうできたんか? お願いしたん、今日の朝やで。さすがやな」


 褒められて、下駄の付喪神が嬉しそうにほほえんだ。




「でも、なんで急に転校なんてされる気になったんですか?」




「海咲に怖がられとるんよ。僕のせいで、学校に行かれんっていうんは本末転倒や。そうなるぐらいなら、僕が別の学校に転校しようかなって思ってん」




 返答しつつ、ナギがハンバーグにかじりつく。




「友達作ってあげれんかったんは心残りやけどな。こればっかりは、自分が行動せんかったら、どうにもならんけんなぁ」




「では、明日にでも転校ができるように手配しておきますね」




「ああ、それやけどな。ちょっと待ってくれる?」




 下駄の付喪神が、空になったどんぶりを持ってたちあがった。


「転校を先送りにするということですか? それはかまいませんが。何故です?」


 アイランドキッチンに回りこんで、炊飯器からご飯のおかわりをよそう。




「今日な、海咲が異世界召喚に狙われたんや。やけん、学校では僕が護衛につく。ことが片付くまで、転校は延期や」


 ごとんっ、と。音がする。




 ナギがキッチンの方をふりかえると、下駄の付喪神がご飯の載ったどんぶりを床に落としていた。ホカホカのご飯が床にこぼれる。下駄の付喪神の表情が、険しい顔になった。




「海咲は前にも異世界に召喚されとるけんな。今回の異世界召喚も、意図的に海咲を狙っとる可能性がある」


 そう言って、ナギが付け合わせのサラダを口にはこんだ。




「大変じゃないですか!」


「そやねん。大変やねん」




「何をのんきなっ! ご飯なんか食べている場合ですか? 今すぐ真田海咲のもとにむかいましょう!」




 下駄の付喪神は、床に散らかったご飯も無視して、外に出るべく、動きだした。




「ああ、それは大丈夫や」


「大丈夫って……、何故そう言いきれるんですか!?」




「今は主ちゃんが海咲の護衛についとる」


「……は? ……主様が……?」


 耳を疑った下駄の付喪神が、動きを止めた。




 ナギはハンバーグをはしでくずしながら返事をする。




「せやで。家に帰る前に、電話しといたんや。つくもちゃんがおらんかったけん、主ちゃんが電話にでて、ことの経緯を話したら、自分が護衛につくから安心せいって言うとった」




「……っ、くぅっ! んんっ?」




 下駄の付喪神が、安心と不安が入り混じったような、なんとも言えない微妙な表情になった。頭をわしわしとかきむしる。




「そんな心配せんでええよ。なにせ主ちゃんは、戦神の僕より強いけんね」


「そういうことを心配しているんじゃありませんっ……」


 下駄の付喪神が頭をかかえた。




「信仰は神に力を与えます。そりゃ、信者ゼロのシイナ様より、数万人の信者をかかえる主様の方が、力があるのはわかっています」


「なら、何の心配もいらんやん」




「力もありますが……、信者がいる分、仕事もあるんですよ……」


 泣きそうな声で、下駄の付喪神がうったえた。




 彼女の心配の種が、神界に残してきた主様の仕事であることを理解する。ツキの仕事を常にサポートしている下駄の付喪神は、通常業務の進捗が気になっているのだろう。




「シイナ様が家に帰ってからということは、主様はすでに二時間以上、執務を放置しているということですよね?」




 ナギがスマートフォンの時計に目を落とす。時刻は二十時五十分。ツキに海咲の話をしたのが、六時過ぎだったから、その後すぐに下界に駆けつけたとして、そのぐらいの時間が経過しているだろう。




「今日は、二十三時までに結論が必要な決済が十七件もあったのに……絶対終わってないやつじゃないですか……」


「まあまあ、氏子の安全にはかえれんのやし……」




「だったら、シイナ様か私が行けばいいじゃないですか! なんでわざわざ主様を行かせるんですか!」


「だって、つくもちゃんは僕のご飯作りに外出しとったし、僕もご飯食べないかんかったやろ?」




「シイナ様のご飯のせいじゃないですかっ! はやく食べて行きますよ!」


 床に落ちたどんぶりを拾い上げ、炊飯器からご飯をよそって山盛りにする。


 ナギの前に、ドンッと音を立ててどんぶりがおかれた。



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