【九十八 豚妖怪の妻】
どうやら街で一番大きなこの建物は店のようだ。
入り口から入ったそこには、お守りと見られる五色の紐が結われた鈴や鏡が壁に陳列され、通路には装飾品や毛皮などが並べられている。
「奥様、旦那様の寝台の準備、出来ました!」
高翠蘭や住み込みの使用人たちの居住区にもなっているであろうへ場所へと到着すると、先程玄関先で掃除をしていた少年が寝床を整えたことを報告してきた。
「ありがとうね高才。それから仕事中急いで知らせてくれてありがとう」
高翠蘭は袂から砂糖菓子を包んだものを一つ、高才と呼んだ少年に渡すと彼を掃除の仕事に戻した。
それからはさらに奥まった部屋へと進み、一際立派な作りの部屋に豚男を運ばせた。
「ねえねえおシショーさん、ボクたちここまでついて来て良かったのかな……?」
いつの間にか玄奘たちの荷物を預かった男たちの姿はなく、戻ろうにも帰り道がわからなくて、三人は高翠蘭について行くことしかできずにここまで来てしまった。
かなり私的なな空間に余所者の玄奘たちは居心地悪く、玉龍の問いかけに「静かに」と苦笑するしかなかった。
体格のいい男たちが豚男を寝台に横たえると、豚男はすぐに大きないびきをかきはじめる。
そして大男たちは高翠蘭に一礼をして自分たちの仕事に戻って行った。
「あなた方は、その方の姿に驚かれないのですね」
驚く玄奘の問いに高翠蘭は微笑んだ。
「私たちだけではなく、この街の誰もがこのことを知っています」
高翠蘭の言葉に玄奘たちはさらに驚いた。
それと同時に、だから豚の耳を隠した布が取れても誰も驚かなかったのだと納得もした。
「このオジさんが……恩人?どういうこと?」
「この方は我が高家を救ってくれた恩人なのです。感謝こそすれ、恐ろしいなどとはとても」
高翠蘭はそこまで行って「それに……」と言葉を続けた。
「お坊様も珍しい方々をお連れになっていらっしゃるではないですか」
「えっ?」
高翠蘭の言葉に玄奘たちは驚いた。
孫悟空と玉龍は人の暮らす場所に入るときは人間に近い姿に変化している。
それを見破られるとは、孫悟空と玉龍はとても驚いた。
「へー、お姉さんボクたちが人間じゃないってよくわかったね」
玉龍が感心していうと、高翠蘭はクスクス笑った。
「瞳を見ればわかりますわ。ここは異国からの旅人も多く立ち寄る街ですからね」
彼女が言うには、人と妖怪は瞳の形がちがうのだという。
人間が丸いのに対し、妖怪は縦に細長いのだとか。
「お供の方達のことは多分他の者たちには気づかれていないと思いますが、私のようにこうして身近にいるとどうしてもわかるようになってしまうのです」
高翠蘭は眠る豚頭の夫を振り返って言う。
「うーん、瞳の形も変化させるのって難しいよ〜」
「お前はそれよりも角と耳を変化させるのが先だな」
「むぅ……っ」
眉間に皺を寄せてなんとか瞳を変えようと奮闘する玉龍に孫悟空が言うと、痛いところを突かれた玉龍は頬を膨らませてむくれた。




